上 下
173 / 311
第3章謎の少女とダンジョン革命

144・白のダンジョン①

しおりを挟む
「しかしあなたと居ると退屈しないわね」

ギルドを出るとエドナはそう言った。

「すみません」
「別にいいのよ。
実は何かの機会に入ると思っているから、
ダンジョンのことは調べておいたわ。
今回冒険者が遭難したのは、アアルから徒歩で、
2時間ほどの北西にある白のダンジョンと呼ばれる場所よ。
その名の通りダンジョンも魔物も白いのよ。
ここの魔物は少し特殊で、
魔物が回復魔法を使ったり、
補助魔法をかけてきたりするのよ。
回復や補助魔法が使える魔物はとんがり帽子を被っているから、
見かけたら優先的に倒した方がいいわ。
それとダンジョンの中はかなり寒いから、防寒対策をした方がいいわ」

相変わらずエドナの知識には助かる。
エドナが居なければ、困ったことになるだろう。

「冒険者の中ではダンジョンに入るのは無謀と言われているわ。
というか入ったら死ぬものだとみんな思っているわ。
たまに実力があることにうぬぼれた冒険者チームがダンジョンに入って、
そのままギルドに死亡通知が届くことがよくあるわ。
まぁ逆に一攫千金を手に入れた冒険者もいるけど、
私でもダンジョンに入るのは初めてだから、
だから何が起こってもおかしくないわ。
準備だけは入念にしておきましょう」
「まず必要なのは食料です。
ダンジョンに入ったら、バラバラになりますから、
みんな水と食料だけは持っておいた方がいいと思います」

エドナとフォルトゥーナの意見には同意だ。

「じゃあ、長持ちする干し肉なんかが良いですよね。
早速市場で買って行きましょう」
「それと武器や防具は出来るだけ強い物にしましょう」
「武器は今ので充分だと思うけど、私も防具を装備した方がいいかな」

今まで重いからと防具は着けてこなかった。
私の防具はローブだけだ。
攻撃を防ぐ結界魔道具は持っているが、
念のため装備は調えたほうがいいか。

「あと傷薬なんかはいっぱい買っておいた方が良いと思うのだ」
「そうですね」

それからみんなで食料と薬を買い、装備を整えた。
私は胸当てを装備し、
いつもローブでとんがり帽子の魔法使いスタイルのエドナも、
鎧を着て、もう外見は魔法使いではなく戦士だ。
フォルトゥーナは怪我をしても治せるのでローブのままだが、
イオにいたっては頭から足先まで全身鎧だ。
実はドワーフのキャシーさんが、
密かに作っていたものをタダでくれたのだ。
かなり重いがイオなら俊敏に動ける。
それとみんなには防寒魔法をかけておいた。
かなり魔力を込めたので三日は持つだろう。
そうして私達は白のダンジョンに移動した。

「ここが白のダンジョンですか」

草原の中かなり目立つ建物があった。
大きな白い真四角の建物がそこにあった。
そして真四角の建物には大きな門があって、
門の中は渦巻いており、中がどうなっているのか分からなかった。

「この光に触れたら、ダンジョンの中に入れるわ」
「あのダンジョンに入ったら、絶対にみんなはぐれますが、
私は周囲の地図を表示する魔法が使えます。
だからはぐれても私が探しますから、絶対にその場から動かないでください」

遭難した時の基本は動かないことだ。
エリアマップがあればどこにいても仲間を探せるからな。

「では行きますよ」

そうして私達は白のダンジョンの中に入ったのだった。





~エドナの場合~

「本当にはぐれたわね」

エドナはそう独り言を言った。
その吐く息は白い。ダンジョンの中は雪が降っていた。
と言っても積もる程の雪ではなく、サラサラとしている。
防寒魔法のおかげで寒くはないが、
もう二度と見ることはないだろうと思った雪にまた遭遇するとは、
人生とは分からないものだ。

「みんな大丈夫かしら」

ダンジョンは集団で入ると必ずバラバラになる。
それぞれがランダムにダンジョンの中に配置されるのだ。
だから強い人と一緒にダンジョンに入ってもあまり意味がないのだ。

「まぁみんな強いから大丈夫でしょう」

地獄神アビスから魔力をもらっているセツナ。
隠密魔法がかかったガイ。
回復魔法が使えるフォルトゥーナ。
そもそも身体能力が段違いのイオ。
心配するのもアホらしくなる反則級の人物ばかりだ。
セツナが見つけてくれるまで待機しよう。
そう思っていたが目の前に気になるものがあった。

「宝箱ね」

目の前に宝箱があった。
ダンジョンで見つかる財宝は必ず宝箱の中に入っている。
これは冒険者の常識だ。
宝箱を見て喜ばない人間はいない。

「なんてね」

エドナは隠し持っていたナイフを宝箱に向けて投げた。
ナイフが宝箱に当たると宝箱の蓋が開き、
そこから無数の牙と赤い舌が見えた。

「やっぱりミミックね」

エドナは剣を構えた。
ダンジョンには宝箱に擬態した魔物がいることが多い。
見分ける方法は簡単。一度宝箱を攻撃すればいい。
だがそのこと自体を知らぬ冒険者は宝箱を開けた瞬間に食べられることも多い。

「しまった。ミミックのことをセツナ達に説明してないわ」

まぁみんな攻撃を防ぐ魔道具を持っているから大丈夫だと思うが、
セツナはまんまとミミック引っかかりそうだ。
心配だとエドナは思った。





~ガイの場合~

「そういえばはぐれるんだった」

普通にダンジョンについてきたガイだったが、
いざはぐれると困惑してしまう。

「久しぶりに1人になったな」

セツナと一緒にいつもいたから、一人になるのは本当に久しぶりだ。

「いつもあいつの隣にいたからな」

セツナは本当によく頑張っていると思う。
見知らぬ他人のためにダンジョンに入ったのだ。
それもただの母親の勘だけを信じて。

「人が良いのがあいつのいいところだけど、
それが弱点でもあるよな。
ま、それはみんな同じか」

何だかんだいってみんなついてきたのはセツナのことを信じているからだろう。
危険でも側にいたくなる。セツナはそんな不思議な魅力がある。
ひょっとしたらみんな魅了されているのかもしれない。

「ん、魔物か?」

一体の魔物が近づいてきたが、ガイを素通りした。

「隠密魔法と消音魔法のおかげで、
セツナ達以外誰も俺の存在すら感じられないとはいえ、
このまま待つっていうのも、なんだかヒマだな」

そうぼやいたガイだった。





~フォルトゥーナの場合~


「はぁ退屈ですね」

ダンジョンの中の壁にもたれかかりながら、フォルトゥーナはそう言った。

「全く無謀と勇気は違うといつになったら理解するのでしょうか?」

一人の愚か者のためにダンジョンの中にまで入って、
全て母親の勘違いだったらどうする気だと、フォルトゥーナは思った。
セツナは無謀だが、普通について行く仲間もどうかと思った。
正直に言ってアホだと思う。
ひょっとしたらセツナは脳みそにきのこでも生えていて、
エドナ達もそれが伝染しているのかと本気で思えてきた。
まぁそれは無いにせよ。病的にセツナはお人好しだ。
特に母親というキーワードには弱い。
ひょっとしたら、人を救うことで自分が救われたいのかもしれない。
だとしたら哀れだ。
救った人間がセツナを救うことなど無い。
このままだと永遠にセツナは搾取され続けられそうだ。
まぁ周りの人間がそれをさせないとは思うが、
普通だったら搾取されて終わりだろう。
それぐらいにアホでお人好しなのだ。
基本的に自分本位で、人間のことなど、
ゴミくず同然にしか思っていないフォルトゥーナが心配になるほどに。

「まぁ私は死なないからいいんですがね」

今回セツナにフォルトゥーナがついていったのは、
ただの人情というわけではなく、刺激が欲しいからだ。
神は長く生きると刺激が欲しくなる。
なぜなら死なないからだ。

死なないから人間が死を恐れる気持ちが分からない。
死なないから刺激が欲しい。
死なないから危険が怖くない。

もしこのダンジョンの中で、
セツナが死んでもフォルトゥーナは何も思わないだろう。
冷酷な現実主義者が自分なのだから。
セツナは気が付いてないがフォルトゥーナは何度もセツナを試した。
心が読めると言った時も、
サイクロプスに捕まった時も、
試して分かったのはセツナは本当に究極のアホだということだ。
ただの偽善者ならともかく、
あれだけの過去を持っていて、この世界の人を恨まないのもおかしな話だ。
それだけのことはされている。

どうして憎まない?
どうして恐れない?
どうして助ける?

何もかもがフォルトゥーナの理解の範疇を超えている。
嫌という程フォルトゥーナは人間の欲望を見てきた。
他人を犠牲にしても後悔すらしない人間が破滅するところを何度も見た。
人間は欲望にまみれ、他人を平気で犠牲にする。
そういうものだと思ってきたから、
逆の人間を見るとどうしたらいいのか分からなくなる。

「手を出したいところですが我慢ですね」

本当はセツナを性的にぐちゃぐちゃにしてしまいたい。
神は姿形を変えることが出来る。
相手が女性であろうと関係ない。
自分がされたのと同じ事を相手にするのは楽しいことだ。
でも簡単に壊れてはつまらない。
もっと刺激が欲しい。
幸いにして普通にしているだけでセツナは自分から危険に首を突っ込む。
これほど刺激をくれる相手もいない。

「私はあなたの側にいますよ。
あなたが刺激をくれる限り」

そうフォルトゥーナは笑ったのだった。





~イオの場合~

「本当に一人になったのだ」

イオはそう言った。

「しかしセツナ達は本当に大丈夫なのか?」

イオはついつい心配になってしまう。
セツナを信じていないわけではないが、少し不安になってしまう。
一応空間術が使えるセツナ以外は数日分の食料と水は持ってはいるので、
節約すればしばらくは大丈夫だ。

「セツナは本当に優しいと思うのだ」

何の縁もゆかりもない自分達獣人を助けてくれた。
本当に神様かと思ってしまう程に。
イオはあれから獣人が住むルーガルー村によく帰ってはいるが、
獣人の村は本当に豊かになった。
セツナが教えてくれた石けんに紙、
それが毎回飛ぶように売れた。
そのお金で食料を買い、村は発展した。
獣人達の中には冒険者として成功した者も多い。
まだ獣人ということで差別的な人もいるが、
それでも本当にセツナには感謝しかない。
セツナが自分達獣人を助けてくれなければ、
多くの獣人達が死んでいた。

死んだイオの子供のように。

もうあれだけの悲しみは無かった。
一生分の涙は流したと思った。
子供が死んだ時、イオは何も出来なかった。
薬すら買ってやれなかった。
周りの獣人に助けを求めたが、誰も助けてくれなかった。
みんなが飢えていたから仕方が無いことだった。
それをイオは恨んではいない。
だがその時初めて外を頼るべきだと思った。
村の古くさい風習に初めて疑問に思ったのだ。
もう自分のような獣人は増やしたくない。

そうして夫に相談して、イオは一人村から出た。
外の人間が助けてくれるかどうかは分からなかったが、
もう村に居たくなかった。
はっきり言って、
人間が自分達を助けてくれるかどうかはもう無理だと思っていた。
でも例え可能性が1パーセントでもいいから、やりたかった。
今でもセツナと出会えたのは奇跡だと思っている。
本当に夢なんじゃないかと思ってしまう程に。

今も村ではセツナを疑い、悪く言う者も居る。
だが自分は最後までセツナを信じる。
獣人の自分をセツナが信じてくれたように――――。

「セツナを信じて今は待つのだ」

信じるということの尊さをセツナに教わったから、
イオはセツナを信じられるのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

超文明日本

点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。 そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。 異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

あ、出ていって差し上げましょうか?許可してくださるなら喜んで出ていきますわ!

リーゼロッタ
ファンタジー
生まれてすぐ、国からの命令で神殿へ取られ十二年間。 聖女として真面目に働いてきたけれど、ある日婚約者でありこの国の王子は爆弾発言をする。 「お前は本当の聖女ではなかった!笑わないお前など、聖女足り得ない!本来の聖女は、このマルセリナだ。」 裏方の聖女としてそこから三年間働いたけれど、また王子はこう言う。 「この度の大火、それから天変地異は、お前がマルセリナの祈りを邪魔したせいだ!出ていけ!二度と帰ってくるな!」 あ、そうですか?許可が降りましたわ!やった! 、、、ただし責任は取っていただきますわよ? ◆◇◆◇◆◇ 誤字・脱字等のご指摘・感想・お気に入り・しおり等をくださると、作者が喜びます。 100話以内で終わらせる予定ですが、分かりません。あくまで予定です。 更新は、夕方から夜、もしくは朝七時ごろが多いと思います。割と忙しいので。 また、更新は亀ではなくカタツムリレベルのトロさですので、ご承知おきください。 更新停止なども長期の期間に渡ってあることもありますが、お許しください。

【完結】魔獣に喰い殺されたくないので、婚約者ではなく幼馴染の立場を希望します!

Ria★発売中『簡単に聖女に魅了〜』
ファンタジー
魔獣に喰い殺される未来を変えていた筈が、ストーリー通り魔獣の森に捨てられて・・・どうなっちゃうの⁉︎ 【0歳〜10歳】攻略対象と出会ったり 【11歳〜16歳】ヒロイン出てきたり 【16歳〜】プロローグ後のお話  異世界あるある、幼児の頃からの教育のお陰?で早熟  年齢+2歳くらいの感覚で読んで頂けると良い感じかもしれないです。  感想欄は、完結後に開きますね。  ◇◇◇ 【あらすじ】  フェリシアは、ヒロインを虐め抜き、婚約者に見切りをつけられて、魔獣の森に捨てられる。  そして、フェリシアは魔獣の森で魔獣に喰い殺される。  と言うのが、乙女ゲームでの私の役割。  フェリシアの決断で、ゲームのストーリーは徐々に変わっていく・・・筈が、強制力とは恐ろしい。  結局魔獣の森に捨てられてしまう。  ※設定ふんわり  ※ご都合主義  ※独自設定あり   ◇◇◇ 【HOT女性向けランキングに載りました!ありがとうございます♪】  2022.8.31 100位 → 80位 → 75位  2022.9.01 61位 → 58位 → 41位 → 31位  2022.9.02 27位 → 25位

勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~

竹間単
ファンタジー
【勇者PTを追放されたチートなユニークスキル持ちの俺は、美少女と旅をする】 役立たずとして勇者パーティーを追放されて途方に暮れていた俺は、美少女に拾われた。 そして俺は、美少女と旅に出る。 強力すぎるユニークスキルを消す呪いのアイテムを探して――――

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

処理中です...