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第3章謎の少女とダンジョン革命
144・白のダンジョン①
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「しかしあなたと居ると退屈しないわね」
ギルドを出るとエドナはそう言った。
「すみません」
「別にいいのよ。
実は何かの機会に入ると思っているから、
ダンジョンのことは調べておいたわ。
今回冒険者が遭難したのは、アアルから徒歩で、
2時間ほどの北西にある白のダンジョンと呼ばれる場所よ。
その名の通りダンジョンも魔物も白いのよ。
ここの魔物は少し特殊で、
魔物が回復魔法を使ったり、
補助魔法をかけてきたりするのよ。
回復や補助魔法が使える魔物はとんがり帽子を被っているから、
見かけたら優先的に倒した方がいいわ。
それとダンジョンの中はかなり寒いから、防寒対策をした方がいいわ」
相変わらずエドナの知識には助かる。
エドナが居なければ、困ったことになるだろう。
「冒険者の中ではダンジョンに入るのは無謀と言われているわ。
というか入ったら死ぬものだとみんな思っているわ。
たまに実力があることにうぬぼれた冒険者チームがダンジョンに入って、
そのままギルドに死亡通知が届くことがよくあるわ。
まぁ逆に一攫千金を手に入れた冒険者もいるけど、
私でもダンジョンに入るのは初めてだから、
だから何が起こってもおかしくないわ。
準備だけは入念にしておきましょう」
「まず必要なのは食料です。
ダンジョンに入ったら、バラバラになりますから、
みんな水と食料だけは持っておいた方がいいと思います」
エドナとフォルトゥーナの意見には同意だ。
「じゃあ、長持ちする干し肉なんかが良いですよね。
早速市場で買って行きましょう」
「それと武器や防具は出来るだけ強い物にしましょう」
「武器は今ので充分だと思うけど、私も防具を装備した方がいいかな」
今まで重いからと防具は着けてこなかった。
私の防具はローブだけだ。
攻撃を防ぐ結界魔道具は持っているが、
念のため装備は調えたほうがいいか。
「あと傷薬なんかはいっぱい買っておいた方が良いと思うのだ」
「そうですね」
それからみんなで食料と薬を買い、装備を整えた。
私は胸当てを装備し、
いつもローブでとんがり帽子の魔法使いスタイルのエドナも、
鎧を着て、もう外見は魔法使いではなく戦士だ。
フォルトゥーナは怪我をしても治せるのでローブのままだが、
イオにいたっては頭から足先まで全身鎧だ。
実はドワーフのキャシーさんが、
密かに作っていたものをタダでくれたのだ。
かなり重いがイオなら俊敏に動ける。
それとみんなには防寒魔法をかけておいた。
かなり魔力を込めたので三日は持つだろう。
そうして私達は白のダンジョンに移動した。
「ここが白のダンジョンですか」
草原の中かなり目立つ建物があった。
大きな白い真四角の建物がそこにあった。
そして真四角の建物には大きな門があって、
門の中は渦巻いており、中がどうなっているのか分からなかった。
「この光に触れたら、ダンジョンの中に入れるわ」
「あのダンジョンに入ったら、絶対にみんなはぐれますが、
私は周囲の地図を表示する魔法が使えます。
だからはぐれても私が探しますから、絶対にその場から動かないでください」
遭難した時の基本は動かないことだ。
エリアマップがあればどこにいても仲間を探せるからな。
「では行きますよ」
そうして私達は白のダンジョンの中に入ったのだった。
◆
~エドナの場合~
「本当にはぐれたわね」
エドナはそう独り言を言った。
その吐く息は白い。ダンジョンの中は雪が降っていた。
と言っても積もる程の雪ではなく、サラサラとしている。
防寒魔法のおかげで寒くはないが、
もう二度と見ることはないだろうと思った雪にまた遭遇するとは、
人生とは分からないものだ。
「みんな大丈夫かしら」
ダンジョンは集団で入ると必ずバラバラになる。
それぞれがランダムにダンジョンの中に配置されるのだ。
だから強い人と一緒にダンジョンに入ってもあまり意味がないのだ。
「まぁみんな強いから大丈夫でしょう」
地獄神アビスから魔力をもらっているセツナ。
隠密魔法がかかったガイ。
回復魔法が使えるフォルトゥーナ。
そもそも身体能力が段違いのイオ。
心配するのもアホらしくなる反則級の人物ばかりだ。
セツナが見つけてくれるまで待機しよう。
そう思っていたが目の前に気になるものがあった。
「宝箱ね」
目の前に宝箱があった。
ダンジョンで見つかる財宝は必ず宝箱の中に入っている。
これは冒険者の常識だ。
宝箱を見て喜ばない人間はいない。
「なんてね」
エドナは隠し持っていたナイフを宝箱に向けて投げた。
ナイフが宝箱に当たると宝箱の蓋が開き、
そこから無数の牙と赤い舌が見えた。
「やっぱりミミックね」
エドナは剣を構えた。
ダンジョンには宝箱に擬態した魔物がいることが多い。
見分ける方法は簡単。一度宝箱を攻撃すればいい。
だがそのこと自体を知らぬ冒険者は宝箱を開けた瞬間に食べられることも多い。
「しまった。ミミックのことをセツナ達に説明してないわ」
まぁみんな攻撃を防ぐ魔道具を持っているから大丈夫だと思うが、
セツナはまんまとミミック引っかかりそうだ。
心配だとエドナは思った。
◆
~ガイの場合~
「そういえばはぐれるんだった」
普通にダンジョンについてきたガイだったが、
いざはぐれると困惑してしまう。
「久しぶりに1人になったな」
セツナと一緒にいつもいたから、一人になるのは本当に久しぶりだ。
「いつもあいつの隣にいたからな」
セツナは本当によく頑張っていると思う。
見知らぬ他人のためにダンジョンに入ったのだ。
それもただの母親の勘だけを信じて。
「人が良いのがあいつのいいところだけど、
それが弱点でもあるよな。
ま、それはみんな同じか」
何だかんだいってみんなついてきたのはセツナのことを信じているからだろう。
危険でも側にいたくなる。セツナはそんな不思議な魅力がある。
ひょっとしたらみんな魅了されているのかもしれない。
「ん、魔物か?」
一体の魔物が近づいてきたが、ガイを素通りした。
「隠密魔法と消音魔法のおかげで、
セツナ達以外誰も俺の存在すら感じられないとはいえ、
このまま待つっていうのも、なんだかヒマだな」
そうぼやいたガイだった。
◆
~フォルトゥーナの場合~
「はぁ退屈ですね」
ダンジョンの中の壁にもたれかかりながら、フォルトゥーナはそう言った。
「全く無謀と勇気は違うといつになったら理解するのでしょうか?」
一人の愚か者のためにダンジョンの中にまで入って、
全て母親の勘違いだったらどうする気だと、フォルトゥーナは思った。
セツナは無謀だが、普通について行く仲間もどうかと思った。
正直に言ってアホだと思う。
ひょっとしたらセツナは脳みそにきのこでも生えていて、
エドナ達もそれが伝染しているのかと本気で思えてきた。
まぁそれは無いにせよ。病的にセツナはお人好しだ。
特に母親というキーワードには弱い。
ひょっとしたら、人を救うことで自分が救われたいのかもしれない。
だとしたら哀れだ。
救った人間がセツナを救うことなど無い。
このままだと永遠にセツナは搾取され続けられそうだ。
まぁ周りの人間がそれをさせないとは思うが、
普通だったら搾取されて終わりだろう。
それぐらいにアホでお人好しなのだ。
基本的に自分本位で、人間のことなど、
ゴミくず同然にしか思っていないフォルトゥーナが心配になるほどに。
「まぁ私は死なないからいいんですがね」
今回セツナにフォルトゥーナがついていったのは、
ただの人情というわけではなく、刺激が欲しいからだ。
神は長く生きると刺激が欲しくなる。
なぜなら死なないからだ。
死なないから人間が死を恐れる気持ちが分からない。
死なないから刺激が欲しい。
死なないから危険が怖くない。
もしこのダンジョンの中で、
セツナが死んでもフォルトゥーナは何も思わないだろう。
冷酷な現実主義者が自分なのだから。
セツナは気が付いてないがフォルトゥーナは何度もセツナを試した。
心が読めると言った時も、
サイクロプスに捕まった時も、
試して分かったのはセツナは本当に究極のアホだということだ。
ただの偽善者ならともかく、
あれだけの過去を持っていて、この世界の人を恨まないのもおかしな話だ。
それだけのことはされている。
どうして憎まない?
どうして恐れない?
どうして助ける?
何もかもがフォルトゥーナの理解の範疇を超えている。
嫌という程フォルトゥーナは人間の欲望を見てきた。
他人を犠牲にしても後悔すらしない人間が破滅するところを何度も見た。
人間は欲望にまみれ、他人を平気で犠牲にする。
そういうものだと思ってきたから、
逆の人間を見るとどうしたらいいのか分からなくなる。
「手を出したいところですが我慢ですね」
本当はセツナを性的にぐちゃぐちゃにしてしまいたい。
神は姿形を変えることが出来る。
相手が女性であろうと関係ない。
自分がされたのと同じ事を相手にするのは楽しいことだ。
でも簡単に壊れてはつまらない。
もっと刺激が欲しい。
幸いにして普通にしているだけでセツナは自分から危険に首を突っ込む。
これほど刺激をくれる相手もいない。
「私はあなたの側にいますよ。
あなたが刺激をくれる限り」
そうフォルトゥーナは笑ったのだった。
◆
~イオの場合~
「本当に一人になったのだ」
イオはそう言った。
「しかしセツナ達は本当に大丈夫なのか?」
イオはついつい心配になってしまう。
セツナを信じていないわけではないが、少し不安になってしまう。
一応空間術が使えるセツナ以外は数日分の食料と水は持ってはいるので、
節約すればしばらくは大丈夫だ。
「セツナは本当に優しいと思うのだ」
何の縁もゆかりもない自分達獣人を助けてくれた。
本当に神様かと思ってしまう程に。
イオはあれから獣人が住むルーガルー村によく帰ってはいるが、
獣人の村は本当に豊かになった。
セツナが教えてくれた石けんに紙、
それが毎回飛ぶように売れた。
そのお金で食料を買い、村は発展した。
獣人達の中には冒険者として成功した者も多い。
まだ獣人ということで差別的な人もいるが、
それでも本当にセツナには感謝しかない。
セツナが自分達獣人を助けてくれなければ、
多くの獣人達が死んでいた。
死んだイオの子供のように。
もうあれだけの悲しみは無かった。
一生分の涙は流したと思った。
子供が死んだ時、イオは何も出来なかった。
薬すら買ってやれなかった。
周りの獣人に助けを求めたが、誰も助けてくれなかった。
みんなが飢えていたから仕方が無いことだった。
それをイオは恨んではいない。
だがその時初めて外を頼るべきだと思った。
村の古くさい風習に初めて疑問に思ったのだ。
もう自分のような獣人は増やしたくない。
そうして夫に相談して、イオは一人村から出た。
外の人間が助けてくれるかどうかは分からなかったが、
もう村に居たくなかった。
はっきり言って、
人間が自分達を助けてくれるかどうかはもう無理だと思っていた。
でも例え可能性が1パーセントでもいいから、やりたかった。
今でもセツナと出会えたのは奇跡だと思っている。
本当に夢なんじゃないかと思ってしまう程に。
今も村ではセツナを疑い、悪く言う者も居る。
だが自分は最後までセツナを信じる。
獣人の自分をセツナが信じてくれたように――――。
「セツナを信じて今は待つのだ」
信じるということの尊さをセツナに教わったから、
イオはセツナを信じられるのだった。
ギルドを出るとエドナはそう言った。
「すみません」
「別にいいのよ。
実は何かの機会に入ると思っているから、
ダンジョンのことは調べておいたわ。
今回冒険者が遭難したのは、アアルから徒歩で、
2時間ほどの北西にある白のダンジョンと呼ばれる場所よ。
その名の通りダンジョンも魔物も白いのよ。
ここの魔物は少し特殊で、
魔物が回復魔法を使ったり、
補助魔法をかけてきたりするのよ。
回復や補助魔法が使える魔物はとんがり帽子を被っているから、
見かけたら優先的に倒した方がいいわ。
それとダンジョンの中はかなり寒いから、防寒対策をした方がいいわ」
相変わらずエドナの知識には助かる。
エドナが居なければ、困ったことになるだろう。
「冒険者の中ではダンジョンに入るのは無謀と言われているわ。
というか入ったら死ぬものだとみんな思っているわ。
たまに実力があることにうぬぼれた冒険者チームがダンジョンに入って、
そのままギルドに死亡通知が届くことがよくあるわ。
まぁ逆に一攫千金を手に入れた冒険者もいるけど、
私でもダンジョンに入るのは初めてだから、
だから何が起こってもおかしくないわ。
準備だけは入念にしておきましょう」
「まず必要なのは食料です。
ダンジョンに入ったら、バラバラになりますから、
みんな水と食料だけは持っておいた方がいいと思います」
エドナとフォルトゥーナの意見には同意だ。
「じゃあ、長持ちする干し肉なんかが良いですよね。
早速市場で買って行きましょう」
「それと武器や防具は出来るだけ強い物にしましょう」
「武器は今ので充分だと思うけど、私も防具を装備した方がいいかな」
今まで重いからと防具は着けてこなかった。
私の防具はローブだけだ。
攻撃を防ぐ結界魔道具は持っているが、
念のため装備は調えたほうがいいか。
「あと傷薬なんかはいっぱい買っておいた方が良いと思うのだ」
「そうですね」
それからみんなで食料と薬を買い、装備を整えた。
私は胸当てを装備し、
いつもローブでとんがり帽子の魔法使いスタイルのエドナも、
鎧を着て、もう外見は魔法使いではなく戦士だ。
フォルトゥーナは怪我をしても治せるのでローブのままだが、
イオにいたっては頭から足先まで全身鎧だ。
実はドワーフのキャシーさんが、
密かに作っていたものをタダでくれたのだ。
かなり重いがイオなら俊敏に動ける。
それとみんなには防寒魔法をかけておいた。
かなり魔力を込めたので三日は持つだろう。
そうして私達は白のダンジョンに移動した。
「ここが白のダンジョンですか」
草原の中かなり目立つ建物があった。
大きな白い真四角の建物がそこにあった。
そして真四角の建物には大きな門があって、
門の中は渦巻いており、中がどうなっているのか分からなかった。
「この光に触れたら、ダンジョンの中に入れるわ」
「あのダンジョンに入ったら、絶対にみんなはぐれますが、
私は周囲の地図を表示する魔法が使えます。
だからはぐれても私が探しますから、絶対にその場から動かないでください」
遭難した時の基本は動かないことだ。
エリアマップがあればどこにいても仲間を探せるからな。
「では行きますよ」
そうして私達は白のダンジョンの中に入ったのだった。
◆
~エドナの場合~
「本当にはぐれたわね」
エドナはそう独り言を言った。
その吐く息は白い。ダンジョンの中は雪が降っていた。
と言っても積もる程の雪ではなく、サラサラとしている。
防寒魔法のおかげで寒くはないが、
もう二度と見ることはないだろうと思った雪にまた遭遇するとは、
人生とは分からないものだ。
「みんな大丈夫かしら」
ダンジョンは集団で入ると必ずバラバラになる。
それぞれがランダムにダンジョンの中に配置されるのだ。
だから強い人と一緒にダンジョンに入ってもあまり意味がないのだ。
「まぁみんな強いから大丈夫でしょう」
地獄神アビスから魔力をもらっているセツナ。
隠密魔法がかかったガイ。
回復魔法が使えるフォルトゥーナ。
そもそも身体能力が段違いのイオ。
心配するのもアホらしくなる反則級の人物ばかりだ。
セツナが見つけてくれるまで待機しよう。
そう思っていたが目の前に気になるものがあった。
「宝箱ね」
目の前に宝箱があった。
ダンジョンで見つかる財宝は必ず宝箱の中に入っている。
これは冒険者の常識だ。
宝箱を見て喜ばない人間はいない。
「なんてね」
エドナは隠し持っていたナイフを宝箱に向けて投げた。
ナイフが宝箱に当たると宝箱の蓋が開き、
そこから無数の牙と赤い舌が見えた。
「やっぱりミミックね」
エドナは剣を構えた。
ダンジョンには宝箱に擬態した魔物がいることが多い。
見分ける方法は簡単。一度宝箱を攻撃すればいい。
だがそのこと自体を知らぬ冒険者は宝箱を開けた瞬間に食べられることも多い。
「しまった。ミミックのことをセツナ達に説明してないわ」
まぁみんな攻撃を防ぐ魔道具を持っているから大丈夫だと思うが、
セツナはまんまとミミック引っかかりそうだ。
心配だとエドナは思った。
◆
~ガイの場合~
「そういえばはぐれるんだった」
普通にダンジョンについてきたガイだったが、
いざはぐれると困惑してしまう。
「久しぶりに1人になったな」
セツナと一緒にいつもいたから、一人になるのは本当に久しぶりだ。
「いつもあいつの隣にいたからな」
セツナは本当によく頑張っていると思う。
見知らぬ他人のためにダンジョンに入ったのだ。
それもただの母親の勘だけを信じて。
「人が良いのがあいつのいいところだけど、
それが弱点でもあるよな。
ま、それはみんな同じか」
何だかんだいってみんなついてきたのはセツナのことを信じているからだろう。
危険でも側にいたくなる。セツナはそんな不思議な魅力がある。
ひょっとしたらみんな魅了されているのかもしれない。
「ん、魔物か?」
一体の魔物が近づいてきたが、ガイを素通りした。
「隠密魔法と消音魔法のおかげで、
セツナ達以外誰も俺の存在すら感じられないとはいえ、
このまま待つっていうのも、なんだかヒマだな」
そうぼやいたガイだった。
◆
~フォルトゥーナの場合~
「はぁ退屈ですね」
ダンジョンの中の壁にもたれかかりながら、フォルトゥーナはそう言った。
「全く無謀と勇気は違うといつになったら理解するのでしょうか?」
一人の愚か者のためにダンジョンの中にまで入って、
全て母親の勘違いだったらどうする気だと、フォルトゥーナは思った。
セツナは無謀だが、普通について行く仲間もどうかと思った。
正直に言ってアホだと思う。
ひょっとしたらセツナは脳みそにきのこでも生えていて、
エドナ達もそれが伝染しているのかと本気で思えてきた。
まぁそれは無いにせよ。病的にセツナはお人好しだ。
特に母親というキーワードには弱い。
ひょっとしたら、人を救うことで自分が救われたいのかもしれない。
だとしたら哀れだ。
救った人間がセツナを救うことなど無い。
このままだと永遠にセツナは搾取され続けられそうだ。
まぁ周りの人間がそれをさせないとは思うが、
普通だったら搾取されて終わりだろう。
それぐらいにアホでお人好しなのだ。
基本的に自分本位で、人間のことなど、
ゴミくず同然にしか思っていないフォルトゥーナが心配になるほどに。
「まぁ私は死なないからいいんですがね」
今回セツナにフォルトゥーナがついていったのは、
ただの人情というわけではなく、刺激が欲しいからだ。
神は長く生きると刺激が欲しくなる。
なぜなら死なないからだ。
死なないから人間が死を恐れる気持ちが分からない。
死なないから刺激が欲しい。
死なないから危険が怖くない。
もしこのダンジョンの中で、
セツナが死んでもフォルトゥーナは何も思わないだろう。
冷酷な現実主義者が自分なのだから。
セツナは気が付いてないがフォルトゥーナは何度もセツナを試した。
心が読めると言った時も、
サイクロプスに捕まった時も、
試して分かったのはセツナは本当に究極のアホだということだ。
ただの偽善者ならともかく、
あれだけの過去を持っていて、この世界の人を恨まないのもおかしな話だ。
それだけのことはされている。
どうして憎まない?
どうして恐れない?
どうして助ける?
何もかもがフォルトゥーナの理解の範疇を超えている。
嫌という程フォルトゥーナは人間の欲望を見てきた。
他人を犠牲にしても後悔すらしない人間が破滅するところを何度も見た。
人間は欲望にまみれ、他人を平気で犠牲にする。
そういうものだと思ってきたから、
逆の人間を見るとどうしたらいいのか分からなくなる。
「手を出したいところですが我慢ですね」
本当はセツナを性的にぐちゃぐちゃにしてしまいたい。
神は姿形を変えることが出来る。
相手が女性であろうと関係ない。
自分がされたのと同じ事を相手にするのは楽しいことだ。
でも簡単に壊れてはつまらない。
もっと刺激が欲しい。
幸いにして普通にしているだけでセツナは自分から危険に首を突っ込む。
これほど刺激をくれる相手もいない。
「私はあなたの側にいますよ。
あなたが刺激をくれる限り」
そうフォルトゥーナは笑ったのだった。
◆
~イオの場合~
「本当に一人になったのだ」
イオはそう言った。
「しかしセツナ達は本当に大丈夫なのか?」
イオはついつい心配になってしまう。
セツナを信じていないわけではないが、少し不安になってしまう。
一応空間術が使えるセツナ以外は数日分の食料と水は持ってはいるので、
節約すればしばらくは大丈夫だ。
「セツナは本当に優しいと思うのだ」
何の縁もゆかりもない自分達獣人を助けてくれた。
本当に神様かと思ってしまう程に。
イオはあれから獣人が住むルーガルー村によく帰ってはいるが、
獣人の村は本当に豊かになった。
セツナが教えてくれた石けんに紙、
それが毎回飛ぶように売れた。
そのお金で食料を買い、村は発展した。
獣人達の中には冒険者として成功した者も多い。
まだ獣人ということで差別的な人もいるが、
それでも本当にセツナには感謝しかない。
セツナが自分達獣人を助けてくれなければ、
多くの獣人達が死んでいた。
死んだイオの子供のように。
もうあれだけの悲しみは無かった。
一生分の涙は流したと思った。
子供が死んだ時、イオは何も出来なかった。
薬すら買ってやれなかった。
周りの獣人に助けを求めたが、誰も助けてくれなかった。
みんなが飢えていたから仕方が無いことだった。
それをイオは恨んではいない。
だがその時初めて外を頼るべきだと思った。
村の古くさい風習に初めて疑問に思ったのだ。
もう自分のような獣人は増やしたくない。
そうして夫に相談して、イオは一人村から出た。
外の人間が助けてくれるかどうかは分からなかったが、
もう村に居たくなかった。
はっきり言って、
人間が自分達を助けてくれるかどうかはもう無理だと思っていた。
でも例え可能性が1パーセントでもいいから、やりたかった。
今でもセツナと出会えたのは奇跡だと思っている。
本当に夢なんじゃないかと思ってしまう程に。
今も村ではセツナを疑い、悪く言う者も居る。
だが自分は最後までセツナを信じる。
獣人の自分をセツナが信じてくれたように――――。
「セツナを信じて今は待つのだ」
信じるということの尊さをセツナに教わったから、
イオはセツナを信じられるのだった。
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