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第3章謎の少女とダンジョン革命

143・愚か者

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「うーむ、気になるなぁ」

私はマヨヒガ島で見つけたUSBメモリを机の上に置いていた。
一体中に何のデータが入っているんだろう。
すっごく気になるが今のところパソコンを持っていないので、
中にどんなデータがあるのか分からない。

「まぁこれは置いておくか」

私はUSBメモリをアイテムボックスにしまうと部屋の外に出た。

「ん? あれ片づいている?」

私の家がかなり片付いている。
流し台に置かれていた大量の食器も片づいていた。
外に出るとクライド君が洗濯物を干していた。

「あれ洗ってくれたの」
「ああ、汚れてたから片づけたんだ」
「あ、ありがとう」
「いえ、俺はこの家の家事をするのが仕事なんだろう?
こういった雑用は咎の輪廻教でもよくやっていたから得意なんだ」
「そうですか、助かります」

ひょっとして私はすごい子を拾ったんじゃないだろうか。

そう思ったのだった。




その後、朝食食べるといつも通り、みんなでギルドに行った。
ちなみにクライド君はお留守番だ。
ギルドに行くと何だか物々しい雰囲気だった。

「お願いだよ。息子を救ってくれ!!」
「残念だが諦めることだ」

うわ、トラブルか?
40代ほどの女性がギルドマスターに詰め寄っていた。
その表情からただ事ではない感じがした。

「あのどうしたんですか?」

私はトラブルに巻き込まれるとわかりながらも、
そう聞かざるえなかった。
何か困っているなら力になりたい。

「ああ、嬢ちゃんか」
「何かあったんですか?」
「遭難者が出たんだ」
「遭難者?」
「馬鹿がダンジョンに入ったんだ」
「ダンジョン?」

聞いたことのない単語に思わずそう聞き返すと、
エドナが説明してくれた。

「ダンジョンっていうのは迷宮のことよ。
中には魔物と、財宝が眠っているの」
「おお、ファンタジーって感じですね。
それでダンジョンに入ることの何が問題なんですか?」
「ダンジョンはね。市場には出回らない特殊な力を持った装備品や、
どんな病気も治す特殊な薬とか、とにかく財宝が眠っているのよ。
もしダンジョンのアイテムが一つでも出回れば、
貴族がこぞって買い求めるでしょうね」
「それならダンジョンに入る人がもっと多そうな気がするんですけど」
「ダンジョンはね。実は厄介な特性を持っているの。
それは最奥にいるヌシと呼ばれる魔物を倒さないと外に出られないのよ」
「え、じゃあ、何かの間違いで入ったら…」
「間違いなく、永久に外に出られないわ。
しかもヌシは普通の魔物より段違いに強いのよ。
普通の冒険者じゃまず倒せないでしょうね」

うわぁ、入る人が少ないわけだ。
エドナ曰く、ダンジョンは入るたびに構造が変わるため、
普通の山や洞窟と違って、地図を作っても意味がないらしい。
しかもダンジョンの中は魔物や、
侵入者を排除するトラップなんかがあることも多いのだという。
そして最奥にいるヌシと呼ばれる魔物を倒さないと、
永遠に外に出られない。
ダンジョンにはお宝も眠っているため、
軍隊でダンジョンに入った者もいるが、
ダンジョンに入ると、基本的に人はランダムに、
ダンジョンの中に配置されるため絶対にはぐれるらしい。
だから集団で入ってももあまり意味はないらしい。

「そんな所に入ったんですか?」

ギルドマスターが馬鹿と言うはずだ。
ここまで話を聞いてダンジョンに入ろうとする人間はいないだろう。
あるとしたらよほどの馬鹿か、無謀なだけだ。
まぁ例えダンジョンに入ったとしても、
ダンジョンの中に居る魔物は外には出られないみたいなので、
ダンジョン自体は放っておいても大丈夫だが、
中に入ってしまうと完全に外界からは遮断されてしまうらしい。

「ああそうだ。
それでさっきからダンジョンに入った冒険者の母親が、
捜索隊を出してほしいと言っているが、
ギルドとしてもこれは受け入れられない」
「そんなこと言わないでくれよ!。
私の息子なんだよ!!」

女性は悲痛そうな顔をした。

「普通に遭難したのならともかく、
ダンジョンの中は無理だ。
一度入ったらヌシを倒すまで出られないんだ。
そんな場所に捜索隊を出してみろ。
死にに行くようなものだ」
「でも…、私の息子がそこにいるかもしれないんだよ!!」
「そもそもダンジョンの中に入ること自体無謀なんだ。
1人の愚かな人間の命、何の関係もない10人の命、
ギルドとしてはどちらを優先するべきか決まっている」

非情だが、これが現実なのだろう。
魔物がいるこの世界では命は軽い。
本当に些細なことで人は死んでしまう。
だからギルドマスターの方が正しい。
そう思っていても…。

「それでもあたしはあの子を助けたい…」

女性の涙を見て、私は突き動かされた。

「あの…いえ何でもありません」

しかしその時失敗した時のことを思い出した。
今ここで私達がもしダンジョンに入って帰って来なかったら、
ギルドとしては大きな損失になる。
それに自分から危険に首を突っ込むなんてダメだ…。
またサイクロプスみたいなことになったら嫌だ。

「行きましょう」
「え?」
「助けたいんでしょう。なら行けばいいじゃない」

そうエドナが行った。

「はぁ?」

エドナの言葉にギルドマスターは驚いた顔をした。

「嬢ちゃん達分かっているのか?
普通の洞窟なんかとは違うんだぞ」

ギルドマスターがそう言った。

「私は何があってもサポートするし、
多少のことがあっても大丈夫よ」
「エドナ、いいんですか?
確かに私には助けられる力があります
でもそれにエドナ達を巻き込むのは…」
「何、今更なことを言ってるのよ。
迷うぐらいならやればいいでしょう」
「でも…」

その時ギルドマスターが口を開いた。

「おい今回の件は確実に生存している可能性は低いんだぞ。
嬢ちゃんは72時間の壁って知っているか?」
「えっと、確か災害が起こった時に、
72時間を過ぎると生存者が格段に減るってことですよね」
「そうだ。人間が飲み食いしないでいられるのは72時間が限界だ。
今回はもう3日も経っている。
死亡通知はまだだが、死ぬ可能性の方が高い」

冒険者が死ぬとギルドに死亡通知が来るが、
まだということは急がないといけないな。

「嬢ちゃん言っておくが、ダンジョンは入ったら本当に出られないぞ」
「ギルドマスター、私には転移魔法が使えること忘れていないですか?」
「あ、だが一人の愚か者のためにダンジョンに入るのは危険だ」

私がもしダンジョンで死ねば、
ギルドとしては大きな損失になるだろう。
でもそれでも助けたいのだ。
私には助けられる力があるのだから。
私がそう言うとギルドマスターは大きなため息をついた。

「言っていくが、あいつには助ける価値なんてないぞ。
新人の冒険者の中でも札付きのクズだったんだ。
Fランクのくせに口だけは達者で、
ろくに冒険者の仕事もせず、仲間と遊び歩いていたんだ。
今回ダンジョンに入ったという証拠も何もない。
ただの母親の勘なんだ。
明日にはひょっこり帰ってくるかもしれないんだぞ。
嬢ちゃんが危険な目に遭う必要はないッ!」
「本当にダンジョンの中に入っているなら急がないといけません。
それに母親の勘というのも一概に馬鹿に出来ないものですよ」

私が中学の時に学校でいじめられた時も、
何も言っていないのにお母さんはいじめのことを見破った。
母親の勘というのは侮れない。
母親なら息子の居場所は容易に予想がつくだろう。

「あのあなたは本当にダンジョンの中に入ったと思っているんですよね」

そう冒険者の母親に聞く。

「ああ、そうだよ。
あの子がダンジョンに入る前に、あの子と口論になったんだ。
いつまでも遊んでばかりいるから、働けって何度も言ったら、
じゃあ、ダンジョンにでも入って見返してやるって、
家を飛び出したんだよ。
だから絶対にダンジョンの中に入ったと思うよ」
「そうですか、じゃあ助けに行きます」
「しかし嬢ちゃん、今までの経験から学んでいないか、
自分から危険に突っ込むんでいたら身が持たないぞ」
「ダンジョンがどういう場所なのか確かめたいし、
遅かれ早かれ入ることになると思うんです。
それに前と同じミスはしないです。
入念な準備をしてから行きます」

いずれにせよダンジョンがどんな場所だか確認したい。
危険なら転移魔法で帰ればいいだろう。

「危険だから私一人で行きます」
「おいおいそれはないだろう」
「そうよ。ここまで来たら手伝うわ」
「まぁ当たり前ですよね」
「私達も行くのだ」
「みんな…ありがとう」

そうして私はダンジョンに入ることになった。
正直いって自分でも馬鹿だと思う。
でも困っている人を私は見捨てられないのだ。
善行を積まないと地獄に落ちてしまうからというのもあるが、
子供を思う母親の気持ちは無視出来ないんだ。
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