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第3章謎の少女とダンジョン革命

126・幽霊

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「ふぁぁ、どうした~?」

幽霊が出たので大声で叫ぶと、
私のベットの横で寝ていたガイが寝ぼけ眼でそう言った。
ちなみにガイが寝ていたのは私が創造スキルで作ったミニベッドだ。

「幽霊が、幽霊が出たんですッ!!」
「うわっ、ホントだ。マジで居るんだ幽霊って…」

そんなことを言っているとドアが開いた。

「どうしたの!?」

幽霊の出現に恐れおののいているとエドナが部屋に入ってきた。
すると幽霊がすっとエドナの体に入っていき、消えた。

「エドナ、大丈夫ですか?」
「…お母さんどこ?」
「は?」

エドナは涙ぐみ不安そうに言った。

「お母さん…どこなの?」
「何、ふざけてるんですか?
あなたのお母さんはもう死んでるじゃないですか」
「お母さん…お母さんどこ…?」

エドナは涙を流した。その様子はまるで小さい子供のようだった。

「どうしたんですか?」
「何があったのだ?」

その時、私の叫び声で目を覚ましたのか、
フォルトゥーナとイオがやってきた。

「エドナが何か変なんですけど」
「これは…中身がまるで別人です」
「え、どういうこと?」

フォルトゥーナの言葉に私は目を丸くする。

「外見はエドナでも中身は小さな子供ですね」
「もしかしてさっきの幽霊がエドナに取り憑いたんじゃないか」
「ええ!?」

ガイの言葉に私はびっくり仰天する。
もしそうだとしたら、エドナの体からどうやったら出て行ってくれるんだ。
お祓いするとか?
でも今の時間に神殿に行くのも非常識だよな。

「とにかく話を聞いた方がいいのではないでしょうか」
「そ、そうだね」

私幽霊苦手なんだけど、まぁこのまま放っておくことは出来ないか。
私達はキッチンの方に行くとみんなで椅子に腰掛けた。
私はコップをテーブル並べるとお茶を注ぐ。

「はい、あなたの分です」
「ありがとう…」

そうエドナは正確にはエドナに取り憑いた幽霊はそう言った。
私は幽霊は苦手だが、
外見がエドナなのでどうしても警戒心が薄れてしまう。
エドナの姿をしていなかったら、こうして話は出来なかっただろう。

「それであなたはどこから来たんですか?」
「ぼくはこの家に住んでいたの…」
「住んでいた? 前の住人ですか?」
「そう…だと思う」
「それであなたのお母さんはどこに居るんですか?」
「分からない…。ぼくが死んだ後、家を出て行ったから…」
「あなたが死んだ時のことを思い出せますか?」
「その日はお父さんがお母さんを殴っていたの…」

はぁ? DV親父かよ。最低だな。

「お父さんはいつも暴力を振るっていたんですか?」
「うん、ぼくにもお母さんにも…」
「なんて酷い親なのだ!
信じられないのだ!」

イオが憤慨したようにそう言った。
子を持つ親として許せないことかもしれない。

「だからその日も、お父さんはお母さんを殴っていて、
ぼくはそれを止めたくて、お父さんに止めてって言ったの。
そしたらお父さんはすっごく怒って、ぼくを思いっきり殴ったの。
そしたら気がついたら、ぼくは宙に浮いていて、
ぼくの体と、お父さんを見下ろしていたの」
「つまり父親に殴られた時に頭を強く打ったかなんかして、
死んでしまったわけですか」

それだと実の父親に殺されたことになる。
エドナに取り憑く前の姿は5歳ぐらいの子供に見えたから、
まだ小さいのに死んでしまったことになる。

「ぼくが動かないのをみて、お父さんはすっごく焦ってた。
それでぼくの体を木の下に埋めたの…」
「それってまさか庭にある木のことですか」
「うん」

おいおいおいおい、完全な事故物件じゃないか。
でも不動産屋のノックスさんはこのことを知らないだろう。
知っていたら事前に言っていたはずだ。
つまりこの子の体は今も木の下に…。

「それでそのお母さんとお父さんはどこに行ったんですか?」
「…分からない。二人とも、家を出て行ってから、
一度もここに来てないから」

さすがに子供を殺してしまったから居づらくなったわけか。

「なんて親なのだッ。子供を殺すなんて」

イオは本気で不快に感じているみたいだ。まぁその気持ちは分かる。

「殺されたのに母を求めるなどなんと哀れでしょうか」

フォルトゥーナが少し遠い目をして言った。

「まぁ父と母からすれば、
あなたは居ても居なくてもどっちでもよかったんでしょう。
もし大切なら殺すこともなかったでしょう」
「フォルトゥーナ、言い過ぎだよ」
「そうかもしれない…でも」

幽霊はそこで言葉を詰まらせたが、
しばらく待っているとぼそぼそと語り始めた。

「生まれてくる前に、空の上でたくさんの女の人と男の人を見たの。
この人なら大事にしてくれるなって人もいた。
でもお母さんはいつもお父さんに殴られていて泣いていた。
だからぼくが出てきて守ってあげようと思ったの。
でもぼくは死んじゃった。
お母さんを守らないといけないのに死んじゃった…」

虐待されていたのにまだ母親を守ろうとしているのか。
何て哀れな子だろうか。
母親は虐待を傍観していたのにそんな母親を守ろうとするなんて。

「いつの時代も子供は生まれた時から母親のことを愛しています。
しかし母親が子供を必ず愛せるとはいえないのです」
「あなたは…」

影が人の形となり、妖艶な美女の姿になる。
ベアトリクスさんだ。
地獄神の部下で新月の時だけ地上に姿を現すことが出来るのだ。

「どうもそちらの子は供養されずにいたため、
迷子になってしまったようですね」
「セツナの知り合いなのか?」
「えーと、私を生き返らせた神様の部下です」

イオには適当に説明しておいた。

「そんなことよりどうしてここに?」
「まぁあなた方がどうしているのか気になりましてね。
今のエドナには子供の霊が取り憑いていますね。
私ならその子供の霊を成仏させることが出来ます」
「それは助かります」
「成仏…?」

幽霊は不安そうにこちらを見た。

「あなたは死んだからには、
冥府に行って七王の裁きを受けなければなりません。
このまま放っておけばあなたは魔族になってしまいます。
そうなる前にきちんと成仏した方がいいのです」
「成仏したらどうなるの…?」
「まず再転生か地獄行きか決めなくてはいけません。
ですがあなたは幼いので、地獄に行くことはないでしょう。
七王が必ず良いようにしてくれます」
「お母さんじゃないの?」

幽霊のその言葉に私は胸が痛くなった。

「あなたの母はまだ生きていますから、
冥府で再会するのはまだ先になると思います。
でもいつか必ず会うことが出来ます。
その時はきっとあなたを抱きしめるでしょう」

そうベアトリクスさんは寂しそうに笑った。

「分かった…。成仏するよ…」
「ではエドナの体から出て行きなさい」

ベアトリクスが手を向けるとエドナの体からするりと幽霊が抜け出てきた。

「じゃあ行きましょう」
「うん、お姉ちゃん、元気でね」
「今度は酷い親を選ばないでくださいね」
「でもきっとまたお母さんの子供として生まれてくるよ。
だってぼくはずっとお母さんに恋してるから…」

幽霊がそう言うとベアトリクスさんも幽霊も消えた。
虐待されて殺されても母親のことがまだ好きなんて…。
死ぬ前に誰かが手を伸ばしていたら良かったのに…。

「あれ、私は…」
「エドナはエドナだよね?」
「は? 何言ってるの」
「大変だったんだよ。
エドナに幽霊が取り憑いたんだよ」

私はエドナの身に起こったことを簡単に伝える。

「そんなことがあったの。
まさかあの幽霊がね」
「え、知ってたの?」
「あの木の下に幽霊が居るのは見えたんだけど、
言ったらセツナが怯えると思って黙っていたのよ」
「そうだったんですか、でも幽霊がいるのによく住もうと思いましたね」
「幽霊はどこにでもいるものよ。
でも可哀想な子ね。
その子の遺体は放置しておいたら魔物になるから、
掘り出さないといけないわね」
「そうですね。明日警察に行きましょう」

そう言うと私達はベッドに戻り眠りについた。
そして翌日あった出来事を警察の人に伝えた。
警察の人は幽霊のことは半信半疑って感じだったけど、
実際に木の下を掘ってみたら、子供の骨が出てきたので、
最終的には信じてくれた。
警察が調べてみたらこの家を前に借りていた夫婦がいて、
その夫婦に警察が子供の骨が出てきたことを話すと、
母親が罪を認め、夫婦は逮捕されることになった。
殺人に死体遺棄なので罪は重いとのこと。

幽霊の子の遺体は神殿のシスターに頼んで、
共同墓地に葬ることにした。
ちなみに事故物件だと明らかになると、
不動産屋のノックスさんは申し訳なさそうに謝ってくれた。
しかも家賃が15万円から下がって10万円になった。
エドナから殺人が起こった家だし引っ越そうかと言われたが、
もう引っ越してしまったのでそのまま住むことにした。

とにかく今回のことは私も深く考えさせられた。
もし私に子供が出来たら、
子供が私を愛している以上に愛してあげないといけないなと思った。
そして今回のことがもうないように、
伯爵夫人に頼んでDVを受けている人の相談窓口を作ることを提案した。
なんにせよ。女性に暴力を振るう奴は居なくなってほしいと願う私だった。
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