上 下
142 / 315
第3章謎の少女とダンジョン革命

113・石けん作り

しおりを挟む
キャベツスープを食べた獣人達は、
さすがに私達の悪口を言う者は居なかった。

「お前が神ならこの村は受け入れよう」

そう熊の獣人が言った。
最初見た時より警戒心が薄れてると感じた。
アイテムボックスにあったキャベツを全部使ったが、
おかげで獣人達の信頼を得ることが出来たみたいだ。

「そうだ。セツナに紹介したい人が居るのだ」

そう言ってイオが連れてきたのは一人の犬の獣人の男と、
三人の子供だった。

「こっちはアラン。私の夫なのだ。
そしてこっちは私の子供達なのだ」
「「「……こんにちは」」」

そう言って子供達が挨拶するが、どこかよそよそしい。

「何でよそよそしいんですか?」
「え、あなたさっきフォルトゥーナが首を切られた時に、
ドス黒いオーラを出していたじゃない」
「え? 何のことですか?」
「覚えてないの?」

そうエドナに言われたが、
私はさっきの記憶がほとんどない。
フォルトゥーナが首を切られたことは覚えているが、
それ以降の記憶があまりない。

「うーん、まぁいいか。
ところで旦那さんは犬の獣人みたいですけど、子供はみんなウサギの獣人ですね」
「ああ、生まれた子供は母親の外見に似た姿になるのだ」
「母親の?」
「そういう決まりなのだ。詳しいことは私もよく分からないのだ」
「それより村の中を見てもいいですか」
「ああ、分かった案内するのだ」

イオに案内され村の中を見ると、雪のせいで倒壊した建物がいくつかあった。

「これ勝手に直しても怒られませんよね」
「直してくれるなら嬉しいのだ」
「では直します。《修復》」

魔法を唱えると建物が新築同然になる。

「せっかくですし、壊れた建物は全部直しましょう」

そうして壊れた建物は全て直した。
そうすると獣人達が最初は驚いていたが、私に感謝してくれた。
壊れた建物はもう諦めるしかないと思っていたらしい。
それと建物を直すなんて高度な魔法を使ったことで、
私がタロウの子孫だと信憑性が増したのか、
獣人達の見る目が変わってきた。

「それでこの村にある結界魔道具はどこです」
「それは言えないな。あれは村にとって貴重なものだ。
おいそれと見せることは出来ない」

そう熊の獣人の、名前は後で聞いたがダコタというらしい。
彼がそう言った。
まだまだ獣人達には信用はされていないらしい。
まぁ結界魔道具が壊されれば、魔物が村に入ってくるから当然か。

「あれ、これ何です?」

その後畑の方に行くと私の背ほどの草が生えていて、
そこにこぶし大ほどの果実があった。
見た感じザクロに似ている。
私はそれに触れようと手を伸ばす。

「それに触れちゃ駄目なのだ!」

慌てたようにイオが叫ぶ。

「それはリウムの実といって、毒なのだ。
食べたら死ぬのだ!」
「ああ、そうですか。触れるところでした」
「触れたらやけどするのだ。触っちゃ駄目なのだ」

危ない危ない。知らなかったら食べるところだった。
でもこの果物、何かに使えないかな。
ステータス魔法で見てみよう。

【リウムの実】
ザクロのような見た目だが食べられない。
中にはいっている液体に触れるとやけどする。
石けんの原材料である苛性ソーダの代わりになる。

何ですと、
苛性ソーダは欲しいと思っていたがまさかこんな所にあるなんて。
これはおそらく幸運のスキルのおかげだろう。

「あのこれはいくつあるんですか?」
「勝手に生えてくるからいっぱいあるのだ」

ということはこの村で石けんを作ってそれを売ればいいんじゃないのか。
石けんを作れば、ついでに病気の予防にもなる。まさに一石二鳥だ。

「なるほど他にも何かありますか?」

他にも村の産業になりそうなものはないかと、
あちこち見て回ったが他に産業になるそうな物はなかった。
まぁいいか、石けんだけでも充分すごいしな。

「じゃあ村人を集めてください。石けんの作り方を教えます」

そうして村人を集めて目の前で石けんの作り方を教えた。
生地を型に入れて、1、2日乾燥させて、切り分け、
一ヶ月ぐらい風当たりの良い場所で乾燥させれば出来上がりだ。

「これが石けんになるのか?」
「はい、出来ると思いますよ、次は紙の作り方を教えますね」

後でゴム手袋と保護めがねとマスクもいっぱい作って渡しておこう。
苛性ソーダはそのまま触れるとやけどするしな。
次は草から作る紙の作り方を教えた。
草はいくらでも生えているので、原材料に困ることはない。

「なるほど紙はこうやって作られるんだな」
「ええ、これで村の産業になります」
「産業だと?」

ダコタさんが驚いた声を出した。

「そうです。村の外で石けんや紙を売ることでお金を稼ぐことが出来ます。
そのお金で食料を買えば村は救われます」
「だが村の外を出れば奴隷にされるかもしれないんだぞ」
「あのですね。もう外の世界ではとっくの昔に奴隷制は廃止になっています」
「何だって?」
「これは本当なのだ! 私も驚いたけど、
もう私達獣人が人間の奴隷になることはないのだ!」

イオの言葉にダコタさんは驚いた顔をする。
そりゃそうだろう。
外の世界に出れば奴隷になると、
当たり前のように言い聞かせられて育ったんだからな。

「だがそう言われても、村の掟だから外の世界に出るのは駄目だ」
「別に大っぴらに外の世界と交流しろと言っているわけではありません。
村の外を出るのは一部の獣人だけで構いません。
でも今後、何らかの飢饉でも起これば、村では多くの人が死ぬでしょう」

フォルトゥーナの言葉は最もだった。
確かこのままでは何の解決にもならないだろう。

「それはそうだが…。外の世界の人間が俺達獣人を受け入れるとは思えない」

あ、それはそうだな。私も最初見た時は驚いたし。

「それなら領主に頼んでお触れを出せばいいのです」

その時今まで黙っていたフォルトゥーナが口を開いた。

「獣人は人を襲わないことや、
体にかかっている呪いは人に移るものではないことを、
先に住民に説明しておくのです。
いきなり獣人が現れたら大騒ぎになりますからね。
先に説明しておけば余計な混乱は避けられるでしょう」
「分かった。じゃあ一端アアルに戻って領主にお触れを出すように言ってくるよ」
「そして最初に外の人と交流するのは、
イオのように小柄で見た目が愛らしい者だけにしましょう。
いきなり熊みたいな獣人が現れれば警戒しますからね」

フォルトゥーナの言うことは最もである。
何かフォルトゥーナは、私じゃ到底思いつかないことを思いついてくれるから助かる。
何て言うかアイデアマンな一面があるよな。

「そしてアアルの人々が獣人に慣れてきたら、交流会を行いましょう。
そして村に人が来るようになれば、観光客がお金を落としてくれます」
「村に人を呼ぶのか? それはちょっと…」
「その抵抗感は理解出来ますが、いつまで鎖国しているつもりですか?
どっちにせよ。この村は外の世界を知るべきです。
わたくし達は当たり前に知っていることをあなた達は知らない。
これはすごく損なことだと思いませんか?」
「…そうかもしれないが」

フォルトゥーナの言葉にダコタさんは苦虫を噛みつぶした顔をした。
外の世界と交流することの抵抗感は分かる。
だが鎖国しているだけでは何も解決しない。
いい加減外の世界を知るべきだ。

「それとあなた方獣人は身体能力が高いみたいですが、
冒険者に向いているとわたくしは思います」
「冒険者?」
「ああ、冒険者というのはですね…」

ダコタさんにフォルトゥーナは冒険者のことを説明する。

「というわけで村人の何人かは冒険者として働いた方がいいと思います。
石けん作りには時間がかかりますし、
冒険者の方が手っ取り早く稼げて良いです」
「それなら私は冒険者になるのだ!」

その時イオがそう言った。

「私はセツナにとてもお世話になったのだ。
その恩を返したいのだ!」
「だが冒険者になったらどうなるか…」
「冒険者で稼いだお金は村のみんなに貢献するのだ。
みんなにとっても悪い話じゃないと思うのだ」
「うーん、しかし…」

なおも頭が固いのかダコタさんは考え込む。

「僕も村の外に出るべきだと思います」

その時、イオの旦那のアランさんがそう言った。

「イオが村の外に出たいと言った時、僕はそうするべきだと思いました。
村の中にいても何も解決しません。
このまま外の世界と関わらなければ、この村は終わりです」
「そうだな。いい加減外の世界を知るべきかもしれないな。
さすがに神の言うことには逆らえない。
分かった。外の世界と交流しよう。
イオが冒険者になるのも許可しよう」

ダコタさんはそう言った。
この一歩はただの一歩だが、大きな一歩だ。
ルーガルー村が外の世界と交流するようになれば、
アアルにとっても良いこと尽くしだ。
そう私は思ったのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

身体強化って、何気にチートじゃないですか!?

ルーグイウル
ファンタジー
 病弱で寝たきりの少年「立原隆人」はある日他界する。そんな彼の意志に残ったのは『もっと強い体が欲しい』。       そんな彼の意志と強靭な魂は世界の壁を越え異世界へとたどり着く。でも目覚めたのは真っ暗なダンジョンの奥地で…?  これは異世界で新たな肉体を得た立原隆人-リュートがパワーレベリングして得たぶっ飛んだレベルとチートっぽいスキルをひっさげアヴァロンを王道ルートまっしぐら、テンプレート通りに謳歌する物語。  初投稿作品です。つたない文章だと思いますが温かい目で見ていただけたらと思います。

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

半神の守護者

ぴっさま
ファンタジー
ロッドは何の力も無い少年だったが、異世界の創造神の血縁者だった。 超能力を手に入れたロッドは前世のペット、忠実な従者をお供に世界の守護者として邪神に立ち向かう。 〜概要〜 臨時パーティーにオークの群れの中に取り残されたロッドは、不思議な生き物に助けられこの世界の神と出会う。 実は神の遠い血縁者でこの世界の守護を頼まれたロッドは承諾し、通常では得られない超能力を得る。 そして魂の絆で結ばれたユニークモンスターのペット、従者のホムンクルスの少女を供にした旅が始まる。 ■注記 本作品のメインはファンタジー世界においての超能力の行使になります。 他サイトにも投稿中

処理中です...