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第2章翼蛇の杖と世界の危機

94・宴会

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オデットの宿に戻ると、エドナは本を読んでいた。

「あら、お帰りなさい」
「盗賊団は捕まえておきました。
なかなか黒幕の名前を言ってくれなくて大変でしたよ」

そう言うと私はベッドに飛び込む。

「で、誰なの。その黒幕って?」
「サーモンド男爵です」
「ああ、なるほどね。あの貴族ね」
「証拠となる手紙はバッチリ回収しておきました」
「さすが抜け目ないわね。それでこれからどうするの?」
「盗まれた品をチコの村の人に返したいので、チコの村に行きます」
「そう。それなら私も行くわ」

というわけで転移魔法でチコの村の近くの林に転移する。
ちなみにチコの村に直接転移しないのは姿を見られたら困るからだ。
いきなり人間が近くに現れたらまず腰を抜かすだろうし。
そんなこんなでチコの村にたどり着いた私達は村人に一人に声をかける。

「あのすみません。
村の人を全員、村の広場に集めてくれませんか?」
「良いけど、どうしたんだい?」
「盗賊団は私達が退治しておいたんです」
「な、何だって!? おーい、みんな大変だぁー!!」

そんな感じで続々と村人達が集まってきた。

「盗賊団を退治したって本当か!?」
「あんたみたいな女子供が盗賊団をどうやって倒したんだい!?」
「本当に盗賊団が居なくなったの!?」
「あー…質問は1つにしていただけるとありがたいです」

私は頭をかきながらそう言った。

「あなた方が本当に盗賊団を退治したのですかな?」

その時村人の中から一人の初老の男性が進み出た。
雰囲気で分かったが、彼がおそらく村の村長だろう。

「そうです、もうこの村は盗賊団に怯える必要は無くなりました」
「そう言われましても。
あなた達みたいな女子供に盗賊団が倒せるとは思えないのですが」

まぁこれは無理ないだろう。私でも当人で無かったら疑うだろう。

「ふっふっふ、このギルドカードが目に入らぬかー」

そこで取り出すのはギルドカード。
Bランクと書かれたカードに村人は驚いた。

「なんと、冒険者だったのですか…」
「そうでーす。ちなみにこっちの彼女はAランクです」
「やれやれ全くあなたは…」

そう言うとエドナもギルドカードを取り出し、村人達はざわついた。

「というわけで私達が盗賊団を倒しても問題ないことは分かりましたか?」
「しかしあの盗賊団は捕まえてもすぐに釈放されるのでは?」
「ああ、それですがどうも盗賊団はオデットの町長。
サーモンド男爵と繋がっていたみたいですが、
彼の上司であるフィールディング伯爵と私達は友人なので、
今回の件は全てフィールディング伯爵に伝えておきます。
彼女…いえ彼ならきっとサーモンド男爵を失脚出来ると思います」

そう言うと村人から歓声が上がった。

「ということはもう盗賊団に怯える必要は無いのですね…」
「そうです。それと盗まれた品をこれから出すので、
盗賊団に盗まれたことがある人はこっちに来てください」

そんな感じで盗まれた品をアイテムボックスから引っ張り出すと、
村人は驚いた顔をした。

「空間術をお使いになるとは…あなた何者です?」
「実は私こういう者でして」

私は自分にかけている幻惑魔法を解く。

「せ、聖眼!?」
「なんと!?」

村人が私の金色の瞳を見て感嘆した声を上げる。
その中でも村長はぷるぷると震えていた。

「あの大丈夫ですか?」

あまりにもぷるぷる震えているので、
怒ってるのかなと思っていると、村長が口を開いた。

「神よ。あなたは何故こんな試練を村に与えるのかと、
疑いになったことをお許しください。
あなたは我々を…見捨てたわけではなかった…。
そして神の使徒をお使いくださるとは…。
なんという、なんというご慈悲…!」

村長メッチャ号泣しとる…。
まぁ聖眼を持つ者は神の使いと思われる事が多いので、
この反応は普通な方だろう。
ありがたや、ありがたやと村人は次々に私を拝みに来る。

「あのそれより盗品をですね…」
「宴会だ、宴会をやるぞー」
「めでたい、めでたいぞー!」
「やれやれここは付き合うしかないでしょうね」

エドナの言葉に私はため息をついた。



盗品を村人に返すと、意外にも結構お宝が余った。
盗賊に商品を奪われたオグデンさんにはそれはもう感謝された。
元々村の出身で、危険を承知で村のために商売に来たらしい。
泊まっていた宿も元々彼の実家だったらしい。
残念ながら盗まれた品は全部は返ってこなかったけど、
それでもオグデンさんは私に感謝しているようだった。
杖も見つけたら私の物にしていいと言われた。

で、今村の宴会をしているわけなのだが、
実は盗賊団はお宝だけでなく、かなりの食料も備蓄していたので、
それを全てアイテムボックスから出して、村に寄付することにした。
するとかなり喜ばれ、これなら飢饉になっても大丈夫と言われた。
盗賊から奪われた食料は宴会の料理でも振る舞われた。

「しっかし、あなたももう一人前の冒険者ね。
私が居なくても大丈夫なんじゃないの」
「そんなことはありませんよ。エドナさんの存在は大きいです」

村人はキャンプファイヤーの周りをぐるりと円を描いて座りこみ、
それぞれ料理や酒を口にしていた。
その料理を食べながら、私はそう言った。

「ただそこに居てくれるだけで大きく励まされるんです。
あなたが居なかったら私はきっとやっていけなくなるでしょう」
「…まぁそうかもね」

照れてるのかエドナは顔をそらす。

「それにしてもこのお肉美味しいですね。何の肉ですかね?」
「多分山羊の肉よ」
「へぇ、初めて食べますけど、美味しいですね」
「ホントだ。うめぇな、この肉」

私のローブの中で隠れながら、ガイはお肉を食べる。

「英雄様。これから見世物が始まります」

村長がそう言うと、1人の青年が円の中央に立つ。

「村長の真似! おーい、お前らちゃんとしとるかー?」
「似てるー」
「アハハ!」

村人にはウケていたが私とエドナには何のことやら分からなかった。
普通こういう時、内輪でしか分からないネタをやるだろうか。
青年は次々に道具屋の店員の真似とか、
村の人のものまねをしていくのだが、
私とエドナは全く笑えなかった。

「それでは次は踊りを披露します」

すると円の中央に踊り子のような衣装を着た女の子達が踊りを披露する。

「へぇ、上手ですね」

村長曰く、この踊りは村では豊穣の踊りらしく、
毎年神様に向けて踊るらしい。
ものまねなんかより、こういう外の人でも分かるのがいいよな。

「私達も踊りましょうか」
「え、私踊ったことなんてないわよ」
「踊ってみてくださいよ」
「え…こう?」

あんたそれ盆踊りだから。

宴会で私は久しぶりに大声で笑えた。
こんなに笑ったのは久しぶりだった。
そうして夜はどんどん更けていったのだった。
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