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第2章翼蛇の杖と世界の危機

93・盗賊退治

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そして翌朝。起きた私は簡単に朝食を作った。
作るのはベーコンエッグと事前にパン屋から買ったパンの二つ。
それをみんなで食べ終えると、テントや寝袋を片づけた。

「じゃあ、お世話になりました。
色々とありがとうございました」

そう言ったジェイミーと別れ、私達はチコの村を目指す。

「そうだ。ここからは魔法の絨毯で移動した方がいいと思うの」
「どうしてですか」
「これから通る山には盗賊が出るらしいから、
安全を考えて魔法の絨毯で移動しましょう」
「そうですか、わかりました」

そう言うと私は魔法の絨毯を取り出す。
それに乗って移動すれば険しい山道なんて余裕で通り過ぎる。
私はチコの村の前の林で魔法の絨毯を停止させると、
魔法の絨毯をアイテムボックスに仕舞った。

「さぁチコの村に着きました」

そうして村の中に入ると閑散とした雰囲気を出していた。
道行く人もどこかどんよりとした空気を身にまとっている。
そんな中、私は一人のおばちゃんに話しかける。

「あのすみません。
オグデンという商人がこの村に来ているはずなんですが、
知りませんか?」
「オグデン? ああ、あの気の毒な商人か」
「気の毒?」
「何でも馬車に積んでいた商品を全部盗賊に奪われたらしくて、
村ではちょっとした話題になってるよ」

何でも話を聞くとオグデンはチコの村で商売しようと向かっている矢先に、
盗賊に襲われたらしい。
そして命を助けてもらう代わりに、
馬車に積んでいた荷物とかは全て盗賊に渡したらしい。

「全部ってことはまさか…」

まさかあの杖も含まれていないだろうな…。
おいおい商人をどうやって説得しようか考えてはいたものの、
まさか盗賊に奪われるとは思わなかった。

「どうしましょうか、エドナさん」
「そうね。直接盗賊のアジトに潜り込んだらどう?」

そう言うと話を聞いていたおばちゃんが青い顔をした。

「それは止めておいた方がいいよ。
あいつらは血も涙もないんだ。
今回は商品を全部差し出すことで助かったけど、
もし差し出すのを拒否したらすぐに殺されてしまうって話だ。
あんたみたいなか弱い女の子がかなう相手じゃないよ」
「そうですか」
「それにこれはあまり言わない方がいいけど、
盗賊団の後ろには貴族がいるって話だ」
「貴族ですか?」
「ああ、あたしらがいくら捕まえるように言っても、
全然動いてくれないからね。
捕まえてもすぐに釈放されるって話だ。
悪いことは言わないから関わらない方がいいよ」
「そうですか教えてくれてありがとうございます」

そう言って私はおばちゃんとは別れ、オグデンがいる宿に行ってみた。

「こんにちわ、話いいですか?」
「あなたは…」

私の姿を見るとその男性は顔をこちらに向けた。
年は40代ぐらいだろうか、少し白髪が交じった茶髪をしている。

「あなたが闇オークションで買った杖は盗賊団が持っていったんですか?」
「何故、それを?」
「失礼、あの杖の本当の持ち主が杖を取り戻してほしいと私に依頼しましてね。
それで杖を探しているわけです」
「そうですか。お力になれなくてすみません」
「いえ、いいです。気にしなくて」

そうして商人が泊まっていた宿を離れ、私はエドナと会話する。

「どうやら杖は盗賊団が奪っていったようです」
「どうするつもり?」
「そうですね。盗賊団を私が壊滅させることは簡単ですけど、
問題は盗賊団の背後に居る存在です」

捕まえてもすぐに釈放されてしまうということは盗賊団の背後に、
それだけの権力を持った何者かがいるということだ。
その誰かをあぶり出さないことには、盗賊団を潰しても意味がない。

そして私達は盗賊団が奪った杖を取り戻すために、
チコの村で集められるだけの情報を集めると、
盗賊団を捕まえる対策を考えることになった。



思っている以上に盗賊団がチコの村に与えている損害は大きなものだった。
元々チコの村は農業が盛んで、
よく野菜をオデットやアアルに売りに来るのだが、
盗賊団が村の近くを陣取ったことにより、それが難しくなった。
村人だけで捕まえようにも、
盗賊団は戦闘のプロフェッショナルばかりで捕まえられない。
国に訴えても何故か動いてくれない。
そうして年月だけが進み、
気がつけば村には人が減り、閑散としてしまったらしい。

「さて、どうやって盗賊をやっつけますかね」
「そうね。正面突破は危険だし、村人の話だと相当の実力者ばかりだし、
いくら、あなたでも厳しいかもね」
「それに捕まえた盗賊達をどうやって警察の元まで運ぶかも問題ですよね」
「それはいつも通り空間術を使えばいいんじゃないの」
「あー、アイテムボックスは生き物は入れられないんですよ」
「え、そうなの。それじゃあ、一人一人運ぶしかないわね」
「なぁ思ったんだけど、
入れる対象が例えば石化とかしてたら入れられるんじゃないか?」
「え?」

ガイの言葉に私は驚く。確かに石化していたら空気とか関係ないだろう。

「そうですね。試してみる価値はありますね」

その後、村を出て適当な魔物で試してみたところ見事成功した。
石化魔法は高度な魔法であるため使い手がほぼいない伝説の魔法だ。
だが地獄神から魔力をもらっている私には余裕で使える。
まぁあっさり使ってみたらエドナがいつも通り呆れた顔をしていたが、
それはこの際どうでもいい。

で盗賊団のアジトだが、すぐに見つかった。
私のエリアマップから逃れられる者などいない。
どうやら山の奥深くにある洞窟の中にアジトを作っているらしい。

「うん、アジトに居るのは11人ですか思ったより多いですね」
「ねぇ、かなり距離があるのにそんなことも分かるの?」

エドナがいつも通りうんざりした顔をしていたが、
それを見たガイがやれやれと肩をすくめた。

「ねーちゃん、それ今更だぜ。
こいつがどんだけ非常識か知ってるだろ」
「私が常識がないみたいに言わないでくださいよ」
「まぁそうね。今更聞くのもなんていうか愚問だったわ」

エドナは何か悟ったようにそう言う。

「その調子なら盗賊団のことはあなたに任せて大丈夫そうね。
私はオデットに戻っておくわ」
「あ、じゃあ転移魔法で送っておきますね」

エドナを転移魔法で送ると、私とガイは盗賊団のアジトに向かった。
エリアマップを作動させたまま、
空を飛んで移動するとすぐにその洞窟は見つかった。
もしエリアマップがなければ、その入り口には気づかなかったかもしれない。
それぐらいツタや茶色の布などで巧妙に隠されていた。

「ここがアジトねぇ」
「あ、隠れましょう、人が来ます」

私は空を飛ぶと洞窟の上に移動する。
すると洞窟から二人の男達が出てきた。

「しかしラッキーだったよな。
あの商人が持っていたお宝。かなりの額だぜ」
「だよな。俺達は本当についてるよな」
「この金で豪遊しようぜ」
「おいおい、そんなのリーダーが許すはずがないだろ」
「そうだったな。あれだけため込んでどうするんだか…」

そう会話しながら男達は歩いてどこかに言ってしまった。

「話から察するにリーダーの男は金使いは荒くないみたいですね」
「それよりいいのか捕まえなくて?」
「まだ相手の正体も分かっていませんし、このまま観察を続けましょう。
せめて奴らの背後に誰がいるのか、それだけは突き止めなければなりません」

それから私の観察が始まった。
慎重と言われればそうだが、準備には万全で挑みたい。
何かあっては遅いのだ。相手は人を何人も殺している盗賊なのだ。
警戒して相手をした方がいい。

そして私が盗賊団を観察して三日が経った。
そしていくつか分かったことがある。
まず一つは盗賊団は早朝になると必ず、一人か二人が洞窟の上にある丘に行く。
そこで双眼鏡らしき道具を使い、山に人が入るか観察して、
アジトにいる盗賊団に知らせる役割を持っているらしい。
つまり山に入ればすぐに彼ら盗賊団には知れ渡るのだ。
といっても彼らがここに住み着いていることはもう近隣には知れ渡っているため、
山を迂回して通る人間も多く、監視してる人も退屈そうだ。

そしてアジトの中に居る盗賊団はというと、
これが意外によく統率がとれていた。
何もない日も肉体を鍛えたり、
馬車を襲うシミュレーションをしたり、訓練には余念がない。
どうりで強いはずだと思った。
普通の盗賊と違ってこの技術は相当な努力によって得たものだ。
そこらの冒険者がかなう相手じゃない。
まぁ私でも油断していたらやられるかもしれない。
油断はしないのでやられる可能性は無いが。
そう思っていると洞窟を出た男達が何か話していた。

「親方、先日渡したお宝渡して良かったんですかい?」

親方と呼ばれた30代ぐらいの男が口を開いた。

「俺らが奪った品の半分はサーモンド男爵に渡さなきゃならねぇ。
それが俺らと男爵の契約だからだ」

サーモンド男爵。忘れるはずがない。
エドナを愛人にしたいと言った貴族だ。
まさかこんな場面で出てくるとは思わなかった。

「ですが半分って多くないでやんすか?」
「まぁ契約だから仕方がねぇ。
男爵のおかげで俺らは絶対に捕まることはねぇ。
あの男爵が俺らのことは捕まらないように手配してくれているからな」

なるほどそういうことだったのか。
盗賊団とサーモンド男爵は繋がっていたのだ。
盗んだ品を半分サーモンド男爵に渡す代わりに、
盗賊団は絶対に捕まることはない。
そしてサーモンド男爵は盗んだ品を手に入れる。
両方にとって悪くない契約だ。
なるほどそういうわけか、これは伯爵夫人が聞いたら激怒するな。
任せていた領地の一部でこんな悪逆非道がまかり通っているのだからな。
後で知らせないといけないが、それより盗賊退治が先だ。

もう黒幕の正体は聞いた。もう盗賊達に用はない。
杖の居場所だけ聞いて後は石化してアイテムボックスに入れよう。

まず念のために顔を隠して、そして体に結界魔法をかけておくと、
まず丘にいる見張りの盗賊を石化させてアイテムボックスに入れる。
そして洞窟の出口に侵入不可の結界を張っておく。
そして洞窟の入り口に戻り、喋っている盗賊団のリーダーの前に現れる。

「何だ、お前は」
「《拘束》」

相手がどんな戦闘力を持っていても私には関係ない。
魔法で一発で身動きがとれなくさせれるんだから。

「何だこれは!? おい、みんな来てくれ!!」
「《拘束》」

洞窟の中から武装した盗賊が出てくるが関係ない。
全員魔法で縛り上げてやったわ。楽勝楽勝。

「くっ、てめぇただで済むと思うなよ」
「翼が生えた蛇が絡みついた杖を探しています。知りませんか?」
「知ってっても誰がお前なんかに教えるかよ!
火の精霊よ、我に仇なす者に鉄槌を、紅蓮の礎となり、その翼を広げよ。
《火炎弾(ファイヤー・ボール)》」

あ、口を閉じさせるの忘れてた。これだと魔法が使えるわ。
でもね。私の結界魔法は魔族からの攻撃もある程度防ぐ事ができるのだ。
こんなこそ泥程度の魔法私には効かない。

「な…なんだと!」

炎の玉は私に当たる前に結界に阻まれ消えた。
けろりとしている私を見て盗賊達は驚いたようだった。

「で?」

そう言うと怒ったのか盗賊達は続々と魔法をこちらにぶつけた。
だが何をしても死なない私を見て、その表情は恐怖に染まっていく。

「な、なんで魔法が効かねぇんだ!?」
「こいつ化け物だ!」

化け物ねぇ。か弱い女子に向かってなんて言葉かしら。
まぁ別にどうでもいいけど。

「で、翼の生えた蛇が巻き付いた杖を探しているんですが。
言わないとちょっと痛い目に遭いますが良いですか?」
「あ、あの杖なら人にやったよ!」
「人って、サーモンド男爵ですか」
「な、何でそれを…」

なるほど今、あの杖はサーモンド男爵の手にあるわけか。
探す手間が少し省けた。

「じゃあ、もうあなた方に用はありません。
《全員まとめて石化》」

そう言うとその場に居た盗賊達はまとめて仲良く石化した。
それを盗賊達をまとめてアイテムボックスに入れる。

「よし、これで全員ですね」

どうせこいつらを警察に突き出してもすぐに釈放されてしまうのだ。
こいつらを解放するのはサーモンド男爵の罪が明らかになってからだ。

「さてとアジトを探検しますか」
「そうだな」

ガイと一緒にアジトを探検すると、
使えそうな家具やら食器やらはアイテムボックスに入れておく。
食料もかなり備蓄されてあった。

「ん? これは手紙ですか」

机の上にある手紙を見ると、サーモンド男爵とのやりとりが書かれていた。
次に盗んだ品を渡す日にちとか書かれていた。
手紙の最後にこれを燃やすように書いてあったが、
この手紙が存在しているということは、
読むより先に私が石化してしまったのだろう。

「ぐふふ…」

これは良い証拠だ。
書いてるサインや封蝋に押された紋章などで調べればすぐに、
サーモンド男爵のものであると分かるだろう。
私は手紙をアイテムボックスに仕舞うと探索を続けた。

「これは…」

洞窟の奥に行くと倉庫らしき場所に大量のお宝が仕舞ってあった。
大量の銀貨が入った袋に、上等そうな布に、絵画などの芸術品。
見ただけでもすごいお宝が敷き詰められていた。

「うわ…すごいな、これ」

ガイが驚いたようにそう言った。

「あー、いけないいけない。これは盗まれた品だから返さないと」

そう言いながら、宝物をアイテムボックスに仕舞っていく、
これらの品は盗まれた物だから持ち主に返さないといけないだろう。
そう思いながら全てのお宝をアイテムボックスに仕舞うと、
私はその場を後にしたのだった。
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