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第1章過去と前世と贖罪と

外伝・三世目の正直⑤

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はっきりいって最初は何が何だか分からなかった。

(え? ここどこ?)

目が覚めたら、エドナは人に取り囲まれていた。
そして周囲の建物は、見たことがないものばかり、
突然の状況に頭がついていかず、
頭がぼんやりとしていた。

「私が分かりますか?」

その時1人の女性に話しかけられた。

(セツナ…よね?
でもどうしてこんな体型になってるの?)

記憶の中のセツナとは別人のように背が高く、豊満な体型。
そして町中だというのに聖眼を隠してもいない。

「何バカなこと言ってるの?」

(私がセツナをわからないはずなんてないのに…)

「おいっ、お前助けてもらったくせにそんなこと言うな!」

その時突然、周りの大人は怒ったように声を荒げる。

(何でそんなに怒ってるの?)

周りの人間が怒っている理由がわからず、エドナは困惑する。

「まぁまぁ、彼は少し疲れているんです。
子供なんで大目に見てあげてください」
「彼…子供?」

そして何気なく自分の体を見下ろした時、エドナは驚愕した。

「え…?」

(なにこの体!? 子供になっている…?)

その手足は明らかに子供のもので、ますます状況が分からずにエドナは困惑する。

「お兄ちゃん!」

その時、群集を駆け抜けて1人の少女がエドナに抱きつく。

「ごめんね。私があんなところに登ったばっかりに…」
「……ポーラ?」

ふいにそんな名前が出てきた瞬間、
エドナは思い出した。自分の身に何が起こったのかを―――。

(私は確か…魔族に攻撃を受けて、そのまま帰らぬ人となった…。
だってセツナがものすごく泣きじゃくってたのは見えたし…。
あれはもう明らかに致命傷でしょう…。
でも、だとしたらどうしてこんな子供の姿に―――まさか生まれ変わった?)

エドナの記憶とロディの記憶。
その2つの記憶を今のエドナは持っている。
そしてロディの記憶をたどっていき、そして1つの結論に至った。

(そうか、大賢者モニカは…セツナのことね。
生まれ変わりを探している…それはたぶん私のことだわ…。
えっと、死んだ年月と、
今の年号を逆算しないと正確なことわからないけど、
あれから結構な年月が流れているのは確かだわ。
その間にセツナはモニカと言う名前に変えて、
宮廷魔法使いになったんだわ…。
ちょっと待って、
それだと……あの子は私のことを忘れていなかったっていうの?
あんな情けない死に方をしたのに…)

エドナは死に瀕した時、思わず死にたくないと言ってしまった。
そんな事をセツナに言っても仕方がないのに…。
セツナはきっとそれが心残りだったのだろう。
エドナの事を探しているのも、それが原因だろう。

(ひょっとしてまさか…自分のせいで私が死んだと思っているのかしら。
……考えてみれば、あの子ならそう思っても不思議じゃないわ。
だって……優しすぎる性格だもの。
でも、今更のあの子の前に出るのも……。
そもそも過去のことを掘り下げて、私がエドナですって言ったって…。
余計心の傷をえぐりそうだし、ここは名乗り出ない方がいいのかしら?)

そんなことを考えているとセツナの従者の女が、
まじまじとエドナを見た。
そしてどういうわけか知らないが、
セツナにこの町に留まるように説得したのだ。

「どういうことなの?」

事情が理解できずに困惑していると、ポーラが話しかけてきた。

「それよりお兄ちゃん。頭大丈夫?」
「別にそれは平気。
そんな事よりあなたもあんな無茶をしてはダメよ。
ふとしたことで人間って、あっけなく死んでしまうんだから」

何気なく喋って、しまったと思った。
今自分は少年になっている。こんな口調では変に思われる。

「お兄ちゃん、頭大丈夫?」

今度は別の意味でそう聞いたのだろう。
ポーラが心配そうにしがみついてきた。

「あ、冗談だよ。そんなことより早く家に帰ろうよ」

そう誤魔化してエドナはポーラと自宅に帰ったのである。



そして会おうか、会わないか、夕飯の時間までエドナは迷っていた。
だがそんなふうに決めかねていると、その日の晩セツナが訪ねてきた。
それを見てエドナは覚悟を決めた。
せっかくのチャンス。これを逃せば一生名乗り出るチャンスは無いだろう。

そして会話してみれば案の定、
セツナは自分のせいでエドナが死んでしまっていたと思っていた。
それを聞いて思わず、そんなことがあるはずがないと言ってしまった。

(もうここは名乗り出るしかない)

そう思って、エドナは覚悟決めてかつてのように説教してみた。
それを聞いてセツナはへなへなと座り込み、
そしてエドナに抱きついてきた。

「もがっ」
「やっと会えたっ! もう離しません!!」

そうぎゅうーと抱きしめられ、窒息するかとエドナは思った。
しかも頭がセツナの胸の部分に当たっている。
自分の中のロディの意識は消えてしまったわけではないので、
少年の彼には刺激が強すぎる。
慌てて、エドナはセツナを押しのけると、
背を向けて近くの木の裏に隠れる。

「どうして逃げるんですか…?」
「あのね…私は確かに昔は女だったけど、今は男なの…。
だからその……そんな風に密着されると……その…困るのよ」
「何が困るんですか?」
「その…と、とにかく困るのよ!!」

赤面しつつエドナがそう言うと、セツナはきょとんとした表情をした。

「何が困るんですか?」

そう言われて、エドナは頭を抱えた。

「どうしてあれから30年も経っているのにわからないのよ…」

エドナがそんなため息をついた時だった。何かがほっぺに当たった。

「うぉぉぉ…。エドナぁ…俺は俺は嬉しいぞー!!」
「ガイ?」

そこにいたのは紛れもなくセツナの仲間の妖精のガイだった。
彼は滝のような涙を流しながら、エドナのほっぺにくっついている。

「ガイ、あなたまだセツナの側に…」

30年も経っているのにガイは何も変わっていなかった。
あの時の少年の姿のまま、大きさも手のひらサイズのままだ。
そういえば妖精は歳をとってもよぼよぼにならないと、
前に聞いたような気がする…。

「だって約束したからな……。
お前が死んだら俺がセツナを守るって…」

確かにそんな約束をしたような気がする。
だとしたら自分が死んだ後も、
それを一途に守り続けていたということだろうか。

「ありがとう。
私が死んだ後もずっとセツナの側にいてくれたのね」
「うぉぉぉ…そう言ってくれたら支え続けた甲斐があるぜ…うえーん!」

そう言うと、ガイは涙を拭い、エドナから離れた。

「まあ俺の事より…お前ら2人だけで話をしろよ…。
積もる話がいっぱいあるだろう」

そう言うとガイはその場から去っていくが、何故かまた戻ってくる。

「そうだ。セツナ。お前頑張れよ」
「はい」

何を頑張るのだろう…。
エドナがそう聞くよりも前にガイはどこかに去ってしまう。

「しかし、まさか男になっているなんてね…」

とりあえず落ち着いたので、木の影から出てくると、
エドナはそんな風にため息をついた。

「そういえば前に女に生まれてきたくなかったって言ってましたね」
「だからって自分が男になっていると複雑よ。
これは慣れるまでに時間がかかるでしょうね…」
「いえ、その方が私には都合がいいので」

都合がいい? どういうことだとエドナが聞こうとすると、
慌てたようにセツナが言葉を出した。

「あ、そうだ。エドナさんっ。
私、カルマを全て消したんです」
「え、良かったじゃない。よく消せたわね」

セツナは自分には全く関係のない他人のカルマを押し付けられていた。
そのカルマを消すためには善行といって、人を助けないといけない。
そのため彼女は一度生き返り、
地獄神アビスから、最強魔力をもらっていた。

「でもその役目が終わったという事は…。
あなたは死んでもおかしくないんじゃ…」

カルマを消すために生き返ったセツナ――。
という事はカルマを消せば、彼女の生は終わってもおかしくない。
生き返ったのはあくまで彼女のカルマを消すための救済措置なのだ。

「いいえ、私が本当に死ぬまでは、生きててもいいことになっています。
アビスがそう約束してくれたんです」
「まぁあの神様なら、そう言ってもおかしくないかもね。
だって私にも約束してくれたし…」
「アビスが?」
「死んだ後にね。
次に生まれ変わる時はエドナとしての意識と記憶を残したまま、
生まれ変わってもいいと約束してくれたの。
といっても赤ん坊からだと色々と弊害があるから、
ある程度、成長してから思い出すようになっていたの。
本当は大人になってから思い出す予定だったんだけど、
頭をぶつけたせいで予定よりも早く思い出したみたい」
「アビスがそんな事を…?
だって前世の記憶を思い出す事は良くない事だって言ってましたけど」
「確かに良くない事は良くないことよ。
でも私の場合は大丈夫。
私のエドナとしての意識と、ロディとしての意識は、消えてしまったわけじゃない。
今は子供のロディよりも、
大人の私の方が精神的に成熟しているから私の方の意識が強く出ているけど、
次第に2つの意識が融合していく形で落ち着いていくと思うわ」
「それならいいんですけど…、
でもどうして記憶を引き継いだまま、生まれ変わろうと思ったんですか?」
「それは――あなたにもう一度会いたかったからに決まってるじゃない」

照れてプイと顔を逸らしたエドナにセツナは抱きつく。

「私も会いたかったです!!」
「だからそれを止めて! 私に近づかないでよ…!」

そう言うと、とたんに泣き出しそうになるセツナ。

「どうせそんなこと言うんですか…」
「あのねぇ……あなた今自分がどんな姿しているか分かっているの?」

美人と言うよりは可愛らしい顔立ち。
そして背が高く、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだ体型。
そして体全体が肉付きがよくなっている…特に胸が。
とても以前の子供みたいな体型をしていた彼女には見えない。
はっきり言って女性としては最高クラスに魅力的だ。
そんな彼女に抱きつかれたら、多くの男が動揺してしまうだろう。

「まぁ体のあちこちをいじりましたからね」
「え?」

思っても見なかった言葉にエドナは目を丸くする。

「私、ここ30年の間にずっと人体の研究をしていたんですよ。
魔法がどのように作用するのか自分の体で実験もしました。
そしたら何だか身長も伸びて、胸も大きくなったんですよ」
「ちょと待って…さらりと言っているけどそれやばいんじゃないの?」
「やばくはありませんよ。
地獄の神々にも似たような能力が使える人が居ます。
そういった神々は人間の細胞の欠片から、人の体を生み出します。
私は光属性を持っていないから、普通の回復魔法は使えませんけど、
他の属性魔法を応用することで、回復魔法より上位の生体魔法を編み出しました。
これは私自身が作り出したオリジナルの魔法です」
「それってすごいじゃない。よくそんな魔法を編み出したわね」

そう言うとセツナは悲しそうな表情をした。

「エドナさんが死んだ時……私は本当に何もできませんでした。
だからあんなことがあったとしても、
同じことを繰り返さないようにしようと思ったんです」

といっても恐ろしい程に魔力と集中力を使うため、あまり乱用できない。
そのためセツナは移動する時は常に治療医を何人も連れている。

「そう…辛い思いをさせたわね」
「いえ……私は本当に…バカでした。
愚かで、本当に救いようがない…」
「あのね。セツナ。前に言ったでしょう。
昔の自分は今の自分と違うって」
「でも私が……私があなたを生き返らせなかった……!
私が見捨てた! 私があなたを殺したんです!!
あなたは助けようとしてくれていたのに、私は!!」
「あのね、ちょっと屈んで」
「え?」
「いいから早く」

そう言われたので屈むと、その頭をエドナがぽんぽんっと触った。

「エドナさん…?」
「よしよし、今までよく頑張ってきたわね」

そう言って頭をなでなでするエドナを上目遣いに見上げながら、
セツナは困惑したような顔をする。

「えっとこれは…」
「しょうがないじゃない。
今はあなたの方が背が高いんだから…。
この30年間よく頑張ってきたわね。
だからもう自責の念から自分を解放させてあげなさい」
「でも私のせいで…っ」
「だからあなたのせいじゃないと言ってるでしょ。
他でもない私がそう言っているんだから、自分を許してあげなさい」
「う…うぇぇぇん!!」

そう言うとセツナはエドナの服にすがりついて泣き出した。
それを優しい眼差しで見ると、
エドナは深く深く彼女を抱きしめ、その背中を撫でてやった。



「しかしあなたは30年も私のことを探してきたんでしょう?」
「そうですよ…。
といっても仕事で忙しくてできないことも多かったですけど…。
私にはエドナさんの生まれ変わりを探すということ以外にも、
善行を積むと言う役目がありましたからね。
それをおろそかにするわけにもいかなかったんです……」

それは当然だろう。
善行を積まなければセツナは地獄に落ちてしまう。
あの従者の女が言った通りだ。
地獄に落ちないために人格者にならざるを得なかった。
それは普通の人が思っている以上に孤独なのかもしれない。
自分があんな形で死ななければ、彼女に死にたくないと訴えかけなければ、
後悔にさいなまれた人生をセツナが歩むこともなかっただろう。
そのことにエドナは罪悪感を抱いた。

「…なるほど、辛い思いをさせてしまったわね…」
「でもエドナさんが、
冒険者が嫌いって言った時は目の前が真っ暗になりました」
「ああ、それは多分ほら私って冒険者としてやっていく中で、
女性差別を受けたじゃない。
その時の嫌な記憶が多分来世では、
冒険者が嫌いって感情に変化したんだと思うわ」
「そうだったんですか」
「一度失望させてごめんなさい」
「いえ、エドナさんが謝ることではありません。
私はいつもエドナさんのためだと思ったら、頑張れたんです」
「私のため…?」
「だってあなたは、
この世界のどこかで生まれ変わっているのは確かなんです。
という事はこの世界をより良くしていくことが、
あなたのためになると思ったんです」
「ちょとまって、あなたが世界中で産業革命を起こしたのは、私のためなの?」

まさかの告白にエドナは驚く。
セツナは最早歴史書には確実に載るだろうというぐらいに、世界に貢献している。
まさかそれが自分のためだったなんて……。

「そうです。これはかなり頑張りましたよ。
女性が働きやすいような福祉も作りましたし、義務教育も徹底させました。
それにエドナさんがいつ冒険者になってもいいように、
ギルドの規則も見直しました」

確かに昔に比べて今では女性の冒険者は当たり前のように存在して居る。
昔は女だからと軽んじられることも多かったが、
今は女性だけの冒険者チームや、高ランク女性冒険者も珍しくはない。
これはセツナがやったことで間違いは無い。
SSSランク冒険者の彼女がギルドの腐敗点を見直すように申告したから、
それが改善されたのだ。

「やっぱり生まれてくるなら平和な世界がいいじゃないですか。
私が商売を手広くやっているのも、
国の産業が潤えば経済も豊かになると思ったんです。
まぁあまりにも手広くやってしまって、めちゃくちゃ忙しいんですけどね…」

確かにセツナはこの世界よりも優れた文明世界から来た異世界人だった。
彼女の知識ならばそれは可能かもしれない。

「どうして私のためにそこまでしたの?」
「だってあなたは私の大切な人だから」

そう言うとセツナはまっすぐエドナを見た。

「エドナさんは…私が世界で一番大切な人です。
覚えてはいないかもしれませんが、
あなたはエドナとして生きていた頃の前世でも、
私を助けようとしてくれていた。
そして再び私を助けるために、エドナとして生まれてきてくれた。
だからあなたは私の原点です。あなたこそが私の真に求めていた人です」

そう言うとセツナはエドナの両手を掴んで、包み込む。
その真剣な雰囲気にエドナは驚いてしまう。

「…何で私なの?
だって私達って、たった2か月ぐらいしか付き合ってないじゃない」
「時間は関係ありません…それに」

そう言うとセツナは昔のことを思い出しているのか、
辛そうな表情をした。

「…あなたが私を助けてくれなければ…優しくしてくれなければ、
私はきっとこの世界を憎んでいた……。
誰の優しさも、誰の温もりも届かないの牢獄の中で、
あなただけが私を助け出そうとしていた……。
そしてまた生まれ変わって、私を助けてくれた…。
何も知らなかった私に優しく教えてくれて、無償の愛をくれたんです。
それは何にも代えがたいものです。
何の得にもならないのに優しくしてくれた……。
あなたは私の特別な人です。特別で大切な人です」

まるで愛の告白のようにセツナはそう囁きかける。
エドナはぽかんと口を開き、しばらく言葉が出てこなかった。

「え…えっと…。
そこまで想ってくれているのは嬉しいけど…、
それであなたの旦那さんは嫉妬したりしないの?」
「居ませんよ。私はずっと独身のままです」
「え? そうなの?」

そう言われてみて、
確かに大賢者モニカが結婚したという話は聞いたことがないのを思い出した。
何度か噂になった人物はいるが、本人は否定していると聞いた。
それを聞いてエドナは少し嬉しくなった。
そして嬉しくなった自分に驚いた。

(なんで結婚してないって聞いて嬉しくなってるの私…?
いやこれはきっとロディの意識のせいだわ……。
それに男になっているということも、大きいかもしれない)

それぐらいに今のセツナは魅力的なのだ。
豊満な体型も、あどけなさ残る容姿も、
どこか隙を感じさせる部分も何もかもが魅力的で、
体が勝手にドキドキしてしまう。

「でもその体型で、その容姿だとさぞかしモテたでしょうね」

自分の中の感情を振り払うために、
からかう様にそう言ったエドナの言葉をセツナは不愉快そうな表情をする。

「確かに、色んな男性から告白されましたけど
はっきり言って迷惑なだけでした」
「でもそれでも、
誰かと一夜過ごしたり、
付き合ったりすることぐらいはあったでしょう?」

ニヤニヤするエドナを見て、セツナは眉をひそめた。

「あのですね…。
私はここ30年間は、産業革命やら何やらでかなり忙しかったんです。
商品を作ったり、それを普及させたり、古い制度を改革したり、
魔族を退治したり、福祉施設を作ったり、学校建てたり、
正直寝る暇もないぐらいに忙しくて、
最近ようやく自分の時間が取れるようになったぐらいです。
その時間はほとんどエドナさんを探したりすることで使っていたので、
男性と付き合ったりする時間の余裕はありませんでした」
「そうなの?
それでも言い寄ってくる男はいっぱいいたんじゃないの?
そういえば王子に求婚されたって聞いたけど」
「そういうのは全部断りました。
私には心に決めた人がいるからと…」

それを聞いて、エドナは拍子抜けした。

(そうよね。他に好きな人がいても不思議じゃないわよね。
って…なにガッカリしてるの私……)

女性の意識と男性の意識の両方を持ち合わせているせいか、
今のエドナは感情の面でも非常に不安定だ。
特にロディがセツナにかすかな恋心を抱いていたのも大きいだろう。
それがエドナの意識とも混ざり、
ロディの恋心をエドナ本人のものだと錯覚してしまう。
これは慣れるまでにかなり時間がかかるだろう。

「なるほどね。
でも私に謝りたいって言うあなたの目的を果たせたんだから、
これからはその好きな人とも付き合えるでしょう」
「…それ本気で言っています?」

唐突にセツナが不愉快そうに睨んできた。

「だって私のせいで行き遅れたんでしょう?
これからは普通に結婚して子供を産んで、静かに暮らしなさい。
私もあなたのこれからを、この町から見守ってい…っ!?」

唐突にセツナに押し倒された。
今のエドナは少年であるため、たやすくセツナに押し倒され、
逃げようとしても、その指の間に指を絡ませられる。

「エドナさんのおニブチン」

そう言うとセツナはぷくぅと頬を膨らませる。

「何を言ってるのよ。鈍いのはあなたの方じゃないっ」
「いいえ、ここまで言われて気がつかないなんてあなたは鈍いです。
いいですか? はっきり言いますよ」

そう言うとセツナは恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「あうぅぅ…何度も練習してきたのに…いざ言うとなると緊張します…」
「何よ。言いたいことがあるなら早く言いなさいよ」

エドナがそう急かすとセツナは覚悟を決めたようにエドナを見た。

「好きです」
「は?」

突然のことに脳がフリーズする。
エドナは何か言おうと口をパクパクとさせるが、
何も言葉が出てこない。

「あなたが好きです。愛しています…。
あなたが死んだ時、私の心は張り裂けそうでした…。
何度も後を追って死のうと思いました。
しかし私はそれが許されなかった…。
そんなことをしてしまえばあなたの行動は無駄になる。
だから私は生きないといけなかった。
生きなければいけなかったんです。
あなたの居ない30年は、本当に暗闇の中を突き進んでいるようでした…。
もしも希望があるとすれば、
この世界のどこかにあなたが生まれ変わっているかもしれない。
そう思えばどんなに苦しくても頑張れたんです。
あなたにもう一度会うために、
私は今まで生きていたといっても過言ではありません。
あなたを愛しています。どうか私と共に生きてください」

あまりにも―――あまりにも唐突な告白。

エドナはぽかんと口を開き、その言葉を理解するのにかなりかかった。

(ちょっと待って、さっきまで感動の再会って感じだったのに…)

いや、エドナは気が付いていながら、
気がついていない振りをしていたのだ。
セツナのエドナを見る視線が、
とろけるように熱を帯びていることを―――。

(どうしよう―――)

エドナはしばらく何の返答もできずに呆然とするしかなかった。
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