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第1章過去と前世と贖罪と

66・蘇る記憶②

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かなり胸くそ悪いです。
朝に見ると気分が悪くなるかもしれません。





「残念だが、わしもそのような話は聞いたことがない」

その長老は70代ぐらいの男性だった。
なんでも村で1番長生きをしているらしく、
色々なことを知っているのだという。
だがそんな彼でも異世界のことも、
私が元の世界に帰る方法も知らなかった。

「そうですか…。
でもこの人なら知ってそうだなって人は居ないんですか?」
「そうじゃのぅ…。
国の中心たる帝都の魔法使いならば何か知っているかもしれないが、
帝都はここより遙かに離れて居るし、
まともに取り合ってくれんかもしれん」
「でもちょっとでも可能性があったら、私は帰りたいんです!」

もう何日も経ってしまった。お母さんは絶対に心配しているはず。
だから私はどうしても元の世界に帰ることを諦めることが出来なかった。

「わかった…わしから国に嘆願状を送っておこう。
だが期待はしないでほしい…」
「わかりました」

そして長老の家を出ると私はため息を吐いた。

「気にするな。必ず帰れる方法はある」

男がそう言ってくれて少し救われたように思う。
その時、私はある事実に気がついた。

「そういえば…私って住む場所ないですよね…?」
「それについては心配するな。俺の家に来ればいい」
「え? でもそんなこといいんですか?」
「乗りかかった船だ。こうなったら俺が最後まで面倒見てやる」

実際行く場所もなかった私は男の提案に乗ることにした。

「わかりました。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。
それと自己紹介が遅れたが、俺の名前はアーウィンだ」
「私はセツナ…セツナ・カイドウです」

そして私の寒村での生活が始まった。
この村の名前はラーズ村と言うらしく、
私はそこでアーウィンと暮らしていた。
といってもほとんどアーウィンは狩りで出かけていることが多いので、
その間、私はアーウィンの家の掃除や家事などをしていた。

日本に比べるとそこでの生活は不便の連続だった。
食べ物もそんなにないし、
ここでの食べ物は小麦を練ったものを平たく焼いたものか、
狩りで仕留めた動物の肉だけ、その肉もほとんど味付けはない。
ただ焼いただけの肉を食べた時、
塩を振らないとこんなにまずいのかと愕然とした。
それに物だって、ほとんど足りてない。
私の世界みたいに百円ショップに行けば何でも買えるという事は無く。
破れた服は何度も修復して着るのが普通だった。
だか私はその不便さに文句は言わないようにしていた。

ただでさえお世話になっているんだから、
それに感謝をしないといけないと思っていたし、
もうむしろ元の世界の便利な生活は異常だったと思うことにした。
それでも我慢出来そうになかったら、
私は日本から遠く離れた国に留学している日本人で、
外国の生活を学ぶために、
一時的に村にホームステイをしていると、自分に言い聞かせた。
いつでも帰れると思えば、不便さも楽しむことが出来たし、
だんだんとラーズ村での生活に慣れていくことが出来た。

ただでさえ、アーウィンには負担をかけている。

私は他のことなら我慢出来るのだけど、
どうしても寒さだけを我慢出来なかった。
ラーズ村の人は寒さに慣れているのか、平気だったみたいだけど、
私は防寒着を着ていても、毛布で寝ていても寒くて仕方がなかった。
なので寝る時はアーウィンが用意してくれた薪で火を焚くのだが、
明らかに私が来てから、薪の消費量は上がっている。
それが申し訳なかったけど、この寒村の寒さは日本の比ではないし、
家も日本の住宅程、しっかりしていなかったし、隙間風も多かった。

それが申し訳ないので、アーウィンが居る時は、
よくアーウィンにひっついて寝ていた。
人肌は暖房よりも暖かく、まぁお互いに服を着て寝ていたけど、暖かかった。
普通男と女が一緒に寝ていたら、そういう関係にもなりそうなものだが、
アーウィンは最初の宣言通り、私に何かするということはなかった。
けれど男性なので、
夜に一緒に寝ていると胸の奥がなんだかドキドキする感じがした。

それはひょっとしたら初恋だったのかもしれない。
だけど私はそれに気がつくことはなかった。
気がついたとしても、それをアーウィンに伝える事は無かったかもしれない。
だって私は元の世界に帰りたかったから、
元の世界に帰るという事はアーウィンとも離れ離れになるということ。
それに最初の誤解を訂正しなかったせいか、
それからも私は自分が17歳という事はなかなか言い出せなかった。
だからアーウィンも小さな子供と接するような感じで、私に接していた。
それは村人も同じで、ラーズ村の人はみんな私に親切にしてくれた。

普通どこから来たのか、
わからないような人間は警戒したりするものかもしれないが、
ラーズ村の人々はみんな笑顔でなごやかに生活していた。
過酷な自然環境のこの村ではお互いに協力しあっていかないと、
生きていけないのだ。
だからまるで村全体が1つの家族みたいに暖かく、
異世界人の私すらも受け入れてくれた。

「村がこんなに豊かなのは皇帝様のおかげだよ」

村人はみんな口を揃えてそう言った。
何でも村と外をつなぐ橋が1度落ちてしまったことがあるのだという。
その時に国が橋を直してくれたので、村は助かったのだと聞いた。

「皇帝陛下ってどんな方なんですか?」

試しに仲が良くなった村人にそう聞いてみたこともあったが、
みんな知らなかった。
どうもここは辺境の辺境の田舎らしいので、情報も届かないらしい。
だが私はここがヒョウム国という事は知っている。
そして皇帝陛下の名前を聞いて驚いた。

シン七世・カンザキ・ヒョウム。

これはどう考えても日本人が皇帝の血筋に関わっている。
たぶん…今の皇帝より何代も前の人は日本人だ。
神崎真か、神崎氷霧とか、そんな名前だったのかもしれない。
シンは…漢字がいっぱいあるのでわからないが、
ヒョウム国は漢字で氷霧国の可能性が高い。
だから私は大きく希望を持っていた。
これは皇帝陛下に会えば、元の世界に必ず帰れると――。
あるいは異世界人について何か知っているかもしれないと――。

だがその期待は大きく裏切られることになる。





「日本ってどんなところなの?」

その日、私は機織りしながら、みどりちゃんの話を聞いていた。
機織りといっても、日本で見たようなあんな機織りじゃなくて、
座って出来るようなそんな機織り機だ。

「ここよりもずっと便利だったよ。
服を作るのもミシンって道具を使ってたから」

そう言いながら私は機織りをしながら布を作っていく。
みどりちゃんというのは、アーウィンのお姉さんのことだ。
髪がきれいなライトグリーンなので、勝手にそう呼んでいる。
ちなみに今アーウィンは狩りに出かけている。

「ふーんそうなの」

ラーズ村には娯楽らしい娯楽はなく、
私の話す日本の話はこの村の人にとっては興味深いものらしく、
最近はよく日本の話をしてと言われることも多かった。
特に喜ばれたのが、おとぎ話だ。
桃太郎とか、シンデレラとか、私の世界では誰でも知っている話だが、
ラーズ村の人達には新鮮だったらしく、話をすると、
大人でもキラキラした目で聞いてくれた。

「でもセツナもすっかりこの村の一員になったね」
「まぁ…慣れも大きいと思うけど」

最初はやっていけるのかと思ったけど、最近は慣れつつあった。
だんだんと寒さにも耐性がついてきたのか、
最近は散歩とかも出来るようになってきた。
といっても村の外は危険なので、
ラーズ村の中をちょっと歩くぐらいだが。

「後は髪が伸びれば完璧なんだけどね」

みどりちゃんは私の黒髪に触れてそう言う。
どうもラーズ村では髪の毛には精霊が宿ると言う考え方があるらしく、
男でも限界まで伸ばすのが普通だ。
前髪ぐらいなら切るのは許されるが、
それ以外は絶対に切ってはいけないらしい。
なのでここまで来た当初は、
首筋までの長さだった私の髪は肩ぐらいまで伸びている。

「…そういえばまだ帝都から、返事は来ないの?」

長老は帝都に異世界人を見つけたので、
私は元の世界に返す協力をしてほしいと、嘆願状を送った。
だがそれから半年以上が経過しているというのに、いまだに何の音沙汰もない。

「そんなに元の世界に帰りたいの?」

みどりちゃんは少し悲しそうな顔をして言った。

「だってお母さんが待っているんだよ」
「ずっとここにいてもいいのよ?
あなたの話は面白いし、
それにあなたが居るからこの村は助かっているのよ」

そうみどりちゃんは言った。
確かに私がラーズ村に来て、村人の生活は変わったかもしれない。
この村では、以前病人が出た時、
神様にお祈りするのが治療だと思われていた。
だけど私が病気の人には、なるべく栄養の高いものを食べさせて、
日当たりの良い、清潔な場所で暮らすように言ったのだ。
そしたら本当に病気が治ってしまったのだ。

それ以来、村人達は何かあった時に、私に意見を聞くようになった。
この機織り機だって、
私が家で持っていたのと同じものを作ってもらって、作り方を教えたのだ。
それが今やラーズ村の重要な産業になっている。

「でも全然大したことはないけど…。
私の世界なら、皆が持っていて当たり前の知識だよ」

私に出来ることなんて、元の世界の知識を伝えることぐらいだ。
それでも役に立っているんだろうか。その頃の私はそう思っていた。

「当たり前でも、役に立っていることは事実じゃない。
あなたのおかげでアーウィンが少し明るくなったし、
やっぱり同居人がいるっていうのが励みになるみたいよ」

そういえばみどりちゃんとアーウィンは、
幼い頃に両親を事故で亡くしたらしい。
そんな2人を村人達は愛情込めて育ててくれたが、
一緒に暮らしていたお姉さんであるみどりちゃんが、
嫁いでしまったので、
1人になってしまったアーウィンは寂しい思いをしていたらしい。

「この際、あなたとアーウィンが結婚してくれたらいいんだけどね」
「そ、そんなバカなこと言わないでよ!」

私は顔を真っ赤にしてそう言った。
このところそんな風に、もてはやされることが多かった。
やっぱり子供ということになっているとは言え、
男と女なのでそう見えてしまうらしい。
村人としては私に元の世界に帰ってほしくないから、
アーウィンとくっついて、末永く村に貢献して欲しいみたいだった。

それにこのラーズ村では、
15歳でもう成人したこととみなされるため、
本当は17歳ですと言っていたら、
ひょっとしたら、
すぐにでもアーウィンと結婚することになっていたかもしれない。

みどりちゃんだって、
15歳の時に結婚して、18歳の時で子供を産んだ。
今は20歳だけど、子供が2人居る立派なお母さんだ。
私もどこかでボタンが掛け違っていれば、
アーウィンと結婚して子供を産んでいたかもしれない。
だけどそうなっていたら、たぶん幸せだったんじゃないのかと思えてくる。

生活は貧しいけど、ラーズ村の人々はあったかくて、優しかった。
それに一緒に暮らしてて、
アーウィンは悪い人じゃないということを知っている。
それに彼は年下に興味ないと言っていたが…実は私の方が年上だったのだ。
最初見た時は20代ぐらいかと思ったけど、
実は彼は16歳で、これを知った時は仰天した。
どうも顔立ちが日本人と違うせいで、勘違いしてしまったらしい。
だから私とアーウィンと一緒になるための障害なんてものは、最初から無かった。
暖かい人達に囲まれて、アーウィンと静かに暮らしていれば、
私はきっと――とてつもなく幸せだったんじゃないのかと思う。

だけど私の運命は――最初この村に来た段階ですでに決まっていた。
自分から異世界人だと言ったあの瞬間に運命は決まっていたのだ。

「あれ? アーウィンが帰ってきたのかな」

急に家の外が騒がしくなって、みどりちゃんがそう言う。

「ひょっとしてまた遭難して、助けられたのかしら」

みどりちゃんは機織りを止めてそう言った。

「遭難?」
「アーウィンって、大の方向音痴なのよ。
道を覚えていれば大丈夫なんだけど、
慣れてない道を通ると必ず迷子になるの。
今までに何度も遭難したこともあるのよ」
「へぇ、意外」
「あの子ってしっかりしているようで、ちょっと抜けているのよ。
まぁその抜けている部分が可愛いんだけど」

そうみどりちゃんがくすりと笑った。その時だった――。

「セツナ!! 急いで村の入り口に来てくれ!!」

戸を壊さんばかりの勢いで、家に男が入ってきた。
狭い村なので、その男はラーズ村の一員である事はすぐにわかった。

「どうしたの?」
「大変なことになっているんだ!! すぐに来てくれ!!」

その男に言われるままに、私とみどりちゃんは村の入り口に移動する。
そして男があせった理由がわかった。
村の周囲に何百人もの、鎧を着て馬に乗った人達が何人もいた。
その馬も普通の馬でなく、
まるで神話に出てくるペガサスのような姿をしていた。

傍から見てそれは軍隊だと言う事はすぐにわかった。
村人は困惑したような顔で、その軍隊を見ていた。
子供に至っては、軍隊を見ることすら初めてなのか、
兵士達の周りを走って、親に怒られていた。

「これは一体…」

私が困惑していると、軍隊の中から1人の馬に乗った男が進んできた。
その男の鎧は兵士達の中でも、異様だった。
黒い鎧に全身を包まれ、黒いマントを羽織っていた。
まるで映画に出てくる悪役のようだと思った。
だがその男が私の目の前に来た時、私は驚いた。

「お前が、セツナ・カイドウか」

鎧の男が私の前で立ち止まった。
頭にカブトを被っているせいで、顔がよく見えない。
だが馬に乗っているせいか、言い様のない威圧感を感じた。

「あ、はい…」

鎧の男にそう問われ、私はそう答えた。
それは別に聞かれたからそう答えたんじゃない。
鎧の男があまりにも、
あまりにも――異常なカリスマ性を持っていたからだ。
彼の言葉に従ってしまうことの方が私にとって安易だった。
それぐらいに人を従属させる力がこの男にはあった。

「ではお前が別の世界から来た人間か?」
「あの…あなたはひょっとして帝都から?」
「余の許可無く、お前は質問を口にするな」
「ひっ」

鎧の男に睨みつけられ、私はすくみあがった。
カブトの向こうからでも、その鋭い眼圧は私を萎縮させた。
自分に逆らう事は絶対に許さない――そんな雰囲気があった。

「それでお前は別の世界から来たんだな?」
「はい…」
「これを読め」

その時、鎧の男が1冊のボロボロの本を私に渡してきた。
本を開くとそこには日本語で文字が書かれていた。

「えっと、僕の考察と研究内容をここに記す。
タロウ=ヤマダ」

私が、本の前文を口にすると、鎧の男は満足そうに笑った。

「ではお前は本当に異世界人で、間違いないな?」
「はい…」

待ちに待っていた異世界人について知っている人。
やっと出会えたというのに、私の心は落ち着かなかった。
辺りは氷点下だと言うのに、冷や汗が止まらない。
胸の奥がざわざわとして、この場から逃げ出してしまいたかった。
後から思えば、それは警告だった。
脳が警報を発していたのだ――この男は危険だと。

「ではお前を帝都に連れて行く、異論はないな」
「お待ちください!」

鎧の男の持つ雰囲気に私が同意しかけた時、長老が前に出てきた。

「セツナはこの村にとってなくてはならない存在です。
どうか帝都に連れて行くのはお止めください」
「なんだと?」
「それに本人も突然のことですし、心の整理がまだついていません。
帝都に行くにはもう少し日を改め――」

その瞬間、長老の首が雪の上に転がった。

「きゃああー!!」

村人から悲鳴が上がる。私も何が起こったのかわからなかった。
鎧の男を見ると、男が腰に差していた剣を抜いていた。
だから男が長老を切りつけたのだろうが、
いつ剣を抜いたのかさえ、私には分からなかった。

「今日は機嫌が良いので、
見逃してやろうと思ったが…良いだろう。
全軍よ。この村の者を皆殺しせよ――!!」

鎧の男がそう叫ぶと、兵士達が剣を抜いた。
村人は逃げようとするが、その背中を兵士達が切りつけていく――。

「止めて!!」

私は止めようと、鎧の男に飛びかかった。だがたやすく取り押さえられた。

「村に火を放て! 根絶やしにするのだ!!」

男がさらに命令する。
兵士達は機械のように無表情にその命令を遂行していく。
そして私は見た。
私に優しくしてくれた村人が、そして友達が――殺されていくところを。

「止めて!! 中には子供がいるの!」

兵士にすがりついて止めようとしているあれは――みどりちゃんだろうか。
だが兵士は無情にも火矢を放ち、家は瞬く間に炎で包まれた。
中から子供達の悲鳴が聞こえてきた。

さっきまで――笑いあっていたのに、
それがたった数分で全て奪い尽くされた。

どうしてこんなことに、何が起こっている――。

「クククッ、愉快だな」

鎧の男がそう笑う。

「何が愉快だ!! この人殺し!!」

私は憎しみを込めて鎧の男を睨み付ける。

「皇帝たる余に刃向かった人間が悪い」

皇帝――?
その言葉に私は驚愕する暇もなく、男に腹を殴られて気絶させられた――。





そして目が覚めた時、もう何もかもが終わった後だった――。

「う……ッ!?」

目を開けると、1人の金髪の男が目の前に居た。
こうして見るととてつもない美形だ。
たぶんハリウッドスターとか、
海外の俳優に居てもおかしくないぐらいの美形。
髪も金髪で、青色の瞳をしていた。年は多分20代ぐらいかもしれない。
手にはワイングラスのようなものを持っていた。

「ククッ、随分と遅いお目覚めだったな」

その声で私はこの金髪の男が村を滅ぼした鎧の男だということがわかった。
私は逃げようと体を動かすが、出来なかった。
腕は鎖のようなもので拘束されていた。
それに服もいつの間にか脱がされたのか、
白いドレスのようなものを着せられていた。

辺りを見渡すと、その部屋は広かった。
そして窓の外は雪だと言うのに不思議なことに、その部屋は暖かった。
おそらく何か魔道具を使っているのだろう。
そして多分この部屋はどこかの馬車の中なのだろう。かすかに揺れていた。

「どうしてあんなことを…!」

私が怒りを込めて、そう言うと金髪の男が不思議そうに首をかしげた。

「あのクズ共がどうかしたのか?」
「クズ?」
「クズだろう。国にとってたいして役にも立たん。
そんな存在はクズでしかない」

その言葉に私は憤りを覚えた。
ラーズ村の人々は自然と共に生きて、自然に感謝しながら生きていた。
その人達をクズなどと言う一言で、片付けられたくない。

「だったらどうして殺したんです!
あんな風に殺さなくたって…!! 私はちゃんとついて行ったのに!!」

もう今更どうしようも出来ないとはわかっていても。
私はそう叫ばずにはいられなかった。
金髪の男はそんな私がおかしいのか、さっきからずっと笑っている。

「余に刃向かうこと自体が罪なのだ。アレはそれをわかっていなかった」

刃向かうって…。
まさか長老が私を帝都に連れて行くのを止めてくれと言ったからか?
それがそこまで悪い罪なのか?
私は男の考え方が理解出来ず、しばらく呆然としていた。

「あなたは…何者なんですか?」
「本来であれば、余の許可なく話しかけるのは重罪だが、
お前は余が長年求めてやまなかった異世界人。
大目に見て教えてやろう。
余の名はシン七世・カンザキ・ヒョウム。
このヒョウム国に君臨する皇帝だ」

その言葉を聞いた瞬間、私はラーズ村の人々が感謝してやまなかったのは、
この存在なんだと言うことを知って憤りを覚えた。

「お前が…皇帝?」

そういった瞬間、男に殴られていた。
それはおそらく手加減していたのだろうけど、青あざが出来た。
私は呆然と男を見た。
男性が女性に手を挙げると言う事は、
最低の行為だということは知っていたので、
それをたやすく破ったこの男が信じられなかった。

「口の訊き方には気をつけるのだな。
そうだな。しつけは最初が肝心。徹底的にお前の体に教えてやろう。
誰が主人で、誰が上なのかを――」

そう言うと男は鞭を取り出した。
それを見て私は悟った――。

自分の身にとてつもない苦痛と災難が降り注ぐことを――。

そしてそれは――見事に的中することになる。
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