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第1章過去と前世と贖罪と

14・非常識魔法使い

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いくら何でも免許皆伝は早すぎると私が言うと、
エドナは苦笑した。

あ、笑った顔、初めて見た。

でもそれはどっちかというと、
もう笑うしかないという様な笑みだった。

「いやだって本当に教えること無いし…」
「ありますよ!」
「…だって、正直ここまで強いとは思って無かったから…。
属性の種類も、その威力も、
すでに私を越えてるし、別に私が教えることは無いと思うけど…」
「そんなに私は強いですか」
「うん、強い」

地獄神の加護の影響で、
魔法威力が五倍になっているとはいえ、使っているのは初級魔法。
威力が上がっているとはいえ、大したことは無いと思っていたが、
エドナに言わせると、それは大間違いらしい。
初級魔法でもあれだけの威力は普通は出ないとエドナは言った。

「そうだったんですか」
「しかしまさかあなたが賢者だったなんて…」
「賢者?」

そう言うと、エドナは驚いた顔をしたが、
やがて諦めたようにため息をついた。
私の世間知らずについては、最早諦めたらしい。

「賢者っていうのは魔法使いの中でも、
特に優れた魔力を持った人間のことを言うの。
大抵の人間は一つ、優秀な魔法使いなら二つの属性しか持たないんだけど、
三つ以上属性を持つのは、賢者だけと言われているわ」

…そういえばステータス魔法を見た時、
ほとんどの人が一つぐらいしか属性を持っていなかった。
六つも属性を持ってるのは今のところ私だけだ。

「なるほどつまり私はその賢者に値するわけですか」
「…そうだと思うけど、
自分で自覚していない賢者って、逆にすごいわね…」

そうエドナは呆れた顔で言った。

「でもあなたのように6つ以上属性を持つ魔法使いを、
私は他に聞いたことがない。
それこそ神話や伝説に存在する魔法使いしか、ありえないことよ」
「え、そうなんですか?
でも私、光属性の魔法は扱えないんですけど…」
「あのねぇ…。7つある属性のうち、
6つも扱えるのに何が不満なのよ」

そうエドナは呆れた顔をした。
あ、そうか私は欠点にばかり目が行っていたけど、
6つだけでもエドナからすれば、
充分すごいことだったんだ。これは覚えておかないと。

「…じゃあ、6つも属性が扱える事は秘密にしておいた方がいいですね」
「目立ちたくないならね。でもあなたの場合それが難しいかもしれない」
「え、何でですか?」
「だってあなたは、はっきり言って、かなり非常識だから」
「非常識? …礼儀正しくはしていると思うんですけど…」
「そっちの非常識じゃなくて、
魔法の扱い方が常識からかなり外れているのよ。
そもそも6つも属性を持っているという時点でおかしいし、
あれだけ強力な魔法を何回も立て続けに行っているにも関わらず、
魔力切れを起こしている様子もないし、
そもそも、魔法を使う時に、全く詠唱していなかったでしょう?
これははっきり言っておかしいわ…。異常と言ってもいいぐらいだわ…」
「詠唱って私、ちゃんとしてると思うんですけど…」
「あれは詠唱とは呼ばないわ。詠唱とは、もっと長い呪文のことを言うのよ」

そう言うとエドナは、呪文を唱え始めた。

「火の精に告ぐ、我が命により、その力を宿せ《小炎(ファイヤ)》」
そう言うと、エドナの手の平から、ろうそくサイズの小さな炎が生まれた。

「こんな風に、魔法を使う時は最初にまず詠唱しないといけないの。
今使ったのは、初歩の初歩の子供でも使える簡単な魔法だけど、
魔物を倒そうと思ったら、もっと長く詠唱する必要があるわ」
「そうなんですか…あれ、私そんな呪文唱えてませんよね?」
「だからおかしいのよ。試しに呪文を唱えずにさっき言った魔法を唱えてみて」
「えっと…《小炎(ファイヤ)》……うわ!?」

その瞬間、手の平から大きな炎が出た。
エドナが出したろうそくサイズより数倍はでかい。でかすぎて前髪が少し焦げた。

「……やっぱりおかしいわ。
あなたの使う魔法は普通よりはるかに威力が高い上に、
詠唱の必要すらないもの。
こんなことが出来る魔法使いを私は他に知らないわ」

そう言うとエドナは手の中の炎を消した。
私の炎も放っておいたら勝手に消えた。

「賢者でも無理なんですか?」
「賢者でも魔法を無詠唱で扱うことは不可能よ。
これはどこの国の魔法使いにも共通して言えることだわ」

エドナが言うには、詠唱無しで魔法を扱うことはまず不可能らしい。
魔法というのは、体内にある魔力を使って発動する。
発動するには詠唱――つまり呪文が必要で、
強い魔法程、長く詠唱する必要がある。
これこそが、最大のネックといってもいい。
だって魔法使いになるには、長い呪文をいちいち暗記しないといけない。
この段階でほとんどの人がつまずくらしい。
魔力自体は多かれ少なかれ、全ての人が持っているのだが、
その割には魔法使いが少ないのはそういった理由かららしい。
しかし私は無詠唱で魔法が使える。
これははっきり言って異常としか言いようがないのだという。
エンジンをかけないと、車が動かないのと同じで、
体内にある魔力を動かすには、詠唱が必要だ。
だが私はそれを自覚せず、無詠唱で魔法を使っている。
しかもFランク冒険者が、である。

だらだらと冷や汗が出た。やばいやん。
最強魔力とか自分でも思ってたけど、
ここまで常識から外れているとは思わなかった。
エドナにとって私がどれだけ非常識な存在に映っているのか、
容易に想像は出来る。
普通の魔法使いからしたら、
私は非常識で得体が知れない存在かもしれない。
エドナを見ると、何か察したのか大きく頷いた。

「とりあえず自覚出来たようね」

エドナは至極冷静にそう言った。
その顔には私に対する恐れや、嫉妬などはなかった。
私はそれが不思議でならなかった。

「あの…エドナさんは私が怖くないんですか?」
「怖い?」
「だって得体の知れない存在って、
みんな怖いって思うんじゃないですか」

何故だろう。胸の奥がざわざわする。
何か思い出してはいけないようなことがあるような気がする。
それを思い出したら、いけないようなそんな気がするのだ。

「自分の常識外のものに対しては、人間は酷く冷たい…」

口からこぼれた言葉は、
自分の言葉とは思えない程、冷たく低かった。

――――冷たい。
そう冷たいんだ。あの国はとても冷たかった。
そしてとても寒かった。
寒くて寒くて、凍え死ぬかと思うぐらいに寒くて、いつも眠れなかった。
暖かさなんてなかった。あったのは最初だけだった。
それ以降はとても寒くて、
気が変になりそうな程、冷たくて、暖かさなんて欠片も――。

「…セツナッ!」

その時、唐突にエドナに肩を掴まれて、私は我に返った。

「え? どうしたんですか?」
「いや、あなたが今にも消えそうな顔をしていたから…」

心配そうにエドナは私の顔を覗き込んだ。

「私は大丈夫ですよ」

そう言ったものの、エドナは納得していない顔をしていた。
しかし今にも消えそうな顔って何のことだろう。
あれ…? そういえば私さっき何を考えていたっけ?
思い出そうと努力してみたがダメだった。
まぁいいか。後で考えよう。

「あ、ごめんなさい。それで何の話でしたっけ?」
「……あなたが怖くないかって話よ」
「ああ、それでエドナさんは私のことが怖くないんですか?」
「そもそも何で、あなたを怖がる必要があるの?」
「え?」
「多少常識外れな魔法が使えるけど、あなたは見た目通りの女の子でしかない。
世間知らずで、どこか他人に対して腰が低くて、
出会ったばかりの私を友達と呼ぶ、どこか抜けている部分がある。
そんなあなたをどうして、怖いと思う必要があるの?」

そうエドナははっきりと言った。
その言葉は私にとって意外すぎるものだった。

「だ、だって私、6つも属性を持ってるんですよ。
魔力だって桁外れにあるし、
無詠唱で魔法使うし、お、おかしいと思わないですか?」
「そりゃまぁ…ハッキリ言わせてもらうけど、あなたは変よ。
常識外れな魔法をバンバン使うし、
空間術も使えるし…。でもそれの何が問題なの?」
「え…?」
「そりゃあ、最初見た時は心底驚いたけど、
あなたはその力を悪い方向に使ったりする人間じゃないでしょう?
だったら別にあなたを恐れる必要なんてないじゃない」
「なんでそんなことが分かるんですか?」
「そんなの話したら分かるわよ」

そういえばエドナは観察眼というスキルを持っていた気がする。
相手がどんな人間なのか分析するスキルだったような…。

「……でも、エドナさんがそう思っても、
私は、私の持っている力は他の人から見たら、恐ろしいものです。
…さっき話して自分がいかに常識外れな存在か、よく分かりました。
多分この力の存在を知れば、多くの人は私を放っておかないでしょう。
それこそ幽閉して、この力を自分の欲のために使うでしょう…」

それは確固たる確信があった。人間は欲深い生き物だ。
絶対に私を放っていてはくれない。

監視して、脅して、調教して、逃げられないようにがんじがらめにして…、
そして身も心もボロボロにされるんだ。
――――そうに決まっている。

「あなたはいつも他人の事ばかり気にしているのね」
「――――え?」
「他人から自分がどう映るのか、他人から見て自分はどうなのか、
そればかり気にしているように見えるわ。
――――あなたは不安で仕方ないのね」

その言葉はまさに的を得ていた。
私は確かに他人のことばかり気にしている。
他人から見て自分はどうなのか、そればかりに神経を使っている。
それは不安で仕方ないから。その通りだと思う。
――私は本当は無理にポジティブを気取っているだけだ。
胸の中は不安でいっぱい。
これからどうしたらいいのか分からなくて、本当は右も左も分からない。
だって…いきなり見知らぬ世界に来て、不安じゃない方がどうかしている。
日本にだって帰りたいのに、帰り方が分からない。
諦めろって言われて――――諦められるはずもないのに…。

そう思っているとエドナの手が私の頭に触れた。
その手のぬくもりは暖かくて、誰かにとてもよく似ていた――。

「確かにあなたの力を知れば、
多くの人間が羨望と嫉妬の目をあなたに向けるでしょう。
でも他人がどう言おうと関係ない。
あなたはあなたらしく生きればいいのよ」

その言葉は電流のように私の体を貫いた。

――――あ、そうだ。そういうことだったんだ。

その時、なんで出会ったばかりのエドナに対して、
私が心を開いているのか理解出来た。
エドナは私のお母さんに似ているんだ。
お母さんもかつて同じことを私に言ったことがある。

――――他人がどう言おうと関係ない、
あなたはあなたらしく生きればいいのよ。

その言葉は、私が中学生だった時、
クラスでいじめに遭っていた時にかけられたものだった。
いじめのきっかけは些細なものだった。
クラスでいじめられている女の子を私がかばったことが原因だった。
それで次のいじめのターゲットは私になった。
さらに私にとって最悪なことに、
いじめられていたその女の子が、いじめっ子のグループに加わったのだ。
たぶん自分が次にいじめられないために、そうしたのだろうが。
その行為は、私を絶望させるには充分だった。

あんな奴、助けるんじゃなかった。そう後悔しても全て遅かった。
集団無視、聞こえるように悪口を言われる、机の上に花瓶を置かれる。
そんな嫌がらせがずっと続いた。
先生に相談しても、真剣になって話を聞いてくれることはなかった。
それでも私はずっと耐えていた。
我慢していればいつかきっといじめっ子達も分かってくれると思ったから――。

「学校でいじめられてるでしょ」

そんなある日、お母さんにそう言われた。これには大きく困惑した。
だって私はお母さんには、いじめの事を相談していなかった。
心配をかけさせたくなかったから、家では明るく振る舞っていた。
それなのにお母さんにはバレた。バレてしまった。
昔からお母さんは勘が良くて、洞察力が鋭いところがあった。
それで私の小さな変化に気が付いたのだろう。
最初は知らん顔をしていたが、すぐに限界が来た。
私はお母さんに泣きながらいじめの事を話した。
そしたらもう学校に行かなくてもいいと言ってくれた。
でも不登校になったら困るんじゃないのと私が言ったら、お母さんは首を振って。

「他人がどう言おうと関係ない、あなたはあなたらしく生きればいいのよ」

と言ってくれた。その言葉は私の励ましになった。
それから私はしばらく不登校になったけど、
お母さんはそれについて責めることはなかった。
よく担任の先生が学校に来て下さいと家を訪ねてきたが、
学校に行けば追い詰められて自殺することが分かっているのに、
そんな所に子供を行かせる親が居るものかと言って、相手にもしなかった。
そうして不登校になっている間に、
別の中学校を探してくれて、私はそこに転校することになった。
そこでは不思議といじめは全く無かった。生徒達も伸びやかに暮らしていた。
多分そういった情報を事前に調べてくれていたのだろう。
それは私にとって希望になった。

お母さんが自分らしく生きればいいと言ってくれたから、今の私があるんだ。

エドナはそんなお母さんと雰囲気が似ているんだ。
私の唯一の家族であるお母さんに――――。

「どうしたの?」
「あ、いえ、何でもありません」

急に黙っていると、
エドナが心配そうに話しかけてきたので、私は慌ててそう言った。
そう言えば、仕草とか喋り方とかもお母さんに似ているような気がする。
顔は全然似ていないから気がつかなかったけど、雰囲気は確かに似ていた。

「ところで、大丈夫なの?
気分が悪いなら、もう帰って休んだ方が良いと思うけど…」
「あ、私は大丈夫です。それよりさっきはありがとうございました。
私、エドナさんの友達になれて良かったと思っています」

そう言うと…エドナはいつも通り呆れた顔をした。

「あのね…。
私はあなたが1人前の冒険者になるまで面倒見ているだけで、
あなたの友達じゃないんだけど…」
「じゃあ、師匠って呼んだ方がいいですか?」

冗談まじりにそう言うとエドナはずっこけそうになった。

「…あのねぇ…。どう考えてもあなたの方が完全に強いじゃない…」
「そんなことありませんよ。
私は…能力だけ見れば、確かに強いでしょうけど、
でも私は世間知らずで、魔法も独学で、
冒険者になったばかりで、経験ならエドナさんの方が断然上ですよ」
「確かにそれはそうかもしれないけど…」
「それにこの町に来たのも、昨日の出来事ですし、
この国についてもまだ分からないことばかりなんです。
いえ、分からない事の方が圧倒的に多いと言ってもいいでしょう。
だから私には色々なことを教えてくれる人が必要なんです」
「出会ったばかりの私にそう言うということは、
他に頼りになる身内や親戚なんかは居ないということね?」

さすが…と言うべきか、この鋭い洞察力は感服するしかない。
まぁ観察眼と言うスキルのおかげかもしれないが、私は一応頷いておいた。

「そうです。この国には私の血縁者は全く居ません。
故郷には居ますけど…。離れているので全く頼れません。
……いえ、ひょっとしたら会うことはもう出来ないかもしれません。
だから私には協力者が必要です。教えて助けてくれる人が必要なんです」
「………分かった。そういう事情なら協力するわ。
どちらにせよ。
特に予定があるわけでもないし、あなたに色々なことを教えてあげる」

そう言うとエドナは左手でとんがり帽子に触れた。

「それにあなたを見ていると、とても心配になるの。
どうしても放っておくことが出来ないの。
それこそ急に大きな子供が出来たみたいな感じにね」
「え? エドナさん、子持ちなんですか?」

そう言ったら、真っ赤になって否定された。

「違うわ! 私はずっと独身よ!!
そういうことじゃなくて、感覚的な意味でって事よ」
「ああ、そういう意味ですか」
「…まぁとにかくあなたは自分の持っている能力の強さを自覚していないから、
それだけは本当に気をつけた方が良い。
まぁ、あなたが常識外れな魔法が使えるのは聖眼を持ってるからでしょうけど、
他の人間にそれを隠したいのなら、なるべく人前で魔法を使わない方がいいわ」

はいと言いかけて、私は思い出した。
人前で魔法を使ってしまった時のことを―――。

「あ、あの、もう使っちゃったんです…」
「え?」
「冒険者達に勧誘された時に飛翔魔法を使って逃げました…」

そう言うと、エドナは呆れた顔をした。

「…このおバカ」
「…なんかすいません」
「……まあ起こってしまった事は仕方がないから、
それについてどうこう言うのは止めましょう。
でも…なんだかあなたは、変ね」
「変?」
「なんだかあなたを見ていると、違和感を感じるわ。
あなたは確かに強い。それは認めるけど、
何だか同時にとても不安定な存在に、私には見えるの」
「不安定?」
「…だって、難易度の高い魔法を無詠唱でホイホイ使えるわりには、
魔法については基本的な事をまるで知らないし、
普通それだけ強い力を持っていたら、もっと傲慢になりそうなものなのに、
それがないし…まるで…その力が最初から自分の物じゃなくて、
誰かから急に与えられた物のような…そんな感じがするの」

その言葉を聞いて私はぎょっとした。
その通りだよ。だってこの魔力は地獄神ので、私の物じゃないもん。
だから持て余しているのも当然なのだ。
ていうかエドナの洞察力半端ない。
まさかここまで的確に私の事を分析するとは。

「へ、へぇそうなんですか」
「まぁそんなことがあるはずは無いけどね。
あなたの力は生まれ持ったものに決まっているし…」
「なんでそれがわかるんですか?」
「だって聖眼持ちは、生まれつきな場合と後天的な場合で瞳の色が違うのよ。
生まれつきな場合はあなたと同じ金色の瞳になるわ。
後からなった場合は瞳の色が紫色になるの」

聖眼というのは神様から特別な力を与えられた人達のことだというのは、
以前聞いたが、生まれつきと後天的な場合で、
瞳の色が違うというのは初耳だった。
エドナが言うのは、生まれつきの場合は瞳が金色に、
後天的な場合は瞳の色が紫色になるらしい。
ただし紫色の瞳は、普通の聖眼よりも珍しくて滅多に現れないとされている。
一生のうちに見れば幸福になれるとも言われるぐらいだ。
そう言われてだらりと冷や汗が出た。
私の力は明らかに後天的ものだ。それなのに私の瞳の色は金色。
これは一体どういうことなんだろうか。
ひょっとして私は普通の聖眼持ちとは違うんだろうか。
そう思っているとエドナが口を開いた。

「まぁとにかく、
しばらくは他の冒険者に冒険に誘われても、断った方がいいわ」
「どうしてですか?」
「だってあなたの性格から考えて、
また目の前で強力な魔法を使いそうだし、
私みたいにみんながみんな、
あなたに対して詮索しないわけじゃないのよ」

…否定出来ないところが悲しい。
だって私、自分で言うのも何だけど、…うっかりしているからな。
気をつけていても、
何かのミスをしてしまうことがしょっちゅうあるのだ。

「とりあえずあなたは魔法の基本的なことを知った方がいいでしょうね。
それについては、私の持てる知識をあなたに伝えるわ」
「じゃあ、エドナさんは私の師匠ですね」
「いや、だからどう考えてもあなたの方が強いじゃない…」

笑顔でそう言ったら、エドナは呆れたような顔をした。

「まぁそんなことより…何か聞きたいことある?」
「じゃあ、魔法のコントロールの仕方を教えてください」
「コントロール?
あなたひょっとして自分の魔力を制御出来ていないの?」

「はいそうなんです。
使おうと思っても、
どうも思っている以上に強力な威力になってしまうみたいで」
「…どうもあなたは基本的なことを知らないみたいね。
いや基本的なことを知らなくても魔法が使えるという事は…、
それが聖眼持ちとしてのあなたの能力なのかもしれないけど、
やっぱり基本的なことから勉強した方が良いでしょうね。
まず最初に説明すると、
魔法って言うのは、基本的に詠唱が必要となるんだけど、
それだけで魔法が使えるというわけじゃないの。
魔法を使うには、魔力の流れを意識する必要があるのよ」
「魔力の流れ?」
「魔力っていうのは生命力と同じで、体にはなくてはならないものなの。
そして身体の周りを常に取り巻いているのよ」

それってスピリチュアルで言うオーラみたいなものなのかな。

「それってどうやったら意識出来るんですか?」
「魔力の貯蔵庫と言われている場所は
体のちょうどおへその下の部分にあると言われているの。
その流れを意識すれば、
魔法も自分でコントロール出来るようになると思うわ」

なるほど、早速試してみよう。
目を瞑って、おへその下の辺りに手を当てて意識を集中する。
するとそこから確かに魔力が流れているのが感じられた。
魔力は血液のように体中巡っている。
だけど私の場合、体中を巡る魔力の流れがかなり激しい。
多分このせいで魔法の威力がコントロール出来なかったんだろう。
少し弱めてみよう…そう思うと魔力の流れがゆっくりになった。
私は早速目を開けて、さっきの魔法を使ってみる。

「《小炎(ファイヤ)》」

すると今度、手のひらから出てきたのは、ろうそくサイズの炎だった。

「やった! ちゃんとコントロール出来た!」

なるほど威力を調節するには、魔力の流れを意識した方がいいんだ。
今度から魔法を使う時は、魔力の流れを意識してやってみよう
そう思っていると、エドナが引きつった顔をした。

「まさか本当に出来るなんて…」
「え? 何か問題ですか?」
「…大問題よ。はっきり言って…。
魔力の流れと言うのは、
意識してすぐに調整出来るようなものでもないの。
自分で調節出来るようになるには、
最低でも1年はかかると言われているのよ…」
「え? それをすぐに調整出来るようになったって事は…私って…」
「常識外れよ…はっきり言って。
こんなことがすぐに出来たら、
王都の魔法研究者の研究対象になりそうな気もするわ」

うわぁ…権力者どころか、
研究者にも目をつけられるぐらいに常識外れなのか私って…。
てゆうかそれだけ常識外れなら…、
最初からそれを説明してくれよ…地獄神よ。

そう思っていた時だった。唐突に頭の中にアラームが鳴り響く。
これは魔物が近くに接近してきた時のサインだった。

「魔物が来たみたいです」

すると森の中からぞろぞろとたくさんの魔物が現れた。
そういえば忘れていたが、ここは町の外だった。
魔物は10体以上は居るようだった。
だが、最強魔力を持つ私と、
Bランク冒険者であるエドナの敵ではないだろう。
これを機に彼女の実力を見てみるのもいいだろう。

「戦えますか?」
「戦えるわよ」

私とエドナは身構える。すると魔物が飛びかかってきた。
だがそれを難なく私は魔法で撃破する。

「よしゃあ、じゃあ行きますよ。師匠!」
「いや、だからあなたの方が強いじゃない!」

そう会話しながら、私とエドナは魔物に向かって行った。
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