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第1章過去と前世と贖罪と

12・孤児院

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世の中には、自分では全くそのつもりがないのに、
人から嫌われる行動を取ってしまうことがある。
でも私にはその理由が思い当たらなかった。
だって謝罪の気持ちを伝えただけなのに、
何で周りがドン引きして、エドナが怒っているのか理解出来ない。

「あの。どうして怒っているんですか…?」
「…別に怒っていないけど、不愉快になっていることは確かよ」

いや、だから何が不愉快だったの?

でもそれを訪ねたら、火に油を注いでしまうことは確実だろう。
ここはさっきの行動を思い出してみよう。
えっと、お礼を言って、昨日のことを謝っただけだよな。
でもそれぐらいで、エドナが怒るはずがないよな…。
なら、私の態度に何か問題があったのだろうか…。
考えられる原因といえば………あ。分かった。原因はアレだ。

「あの。ごめんなさい…。不愉快にしてしまったのなら謝ります。
ただ私はエドナさんが考えているような意味で、それをした訳じゃないです」
「………どういうこと?」
「私が生まれ育った国はこの国とは別の国で、
常識とか習慣とかが、この国の人とは違うんです。
だから頭を下げる行為が、人を不愉快にさせてしまうこととは知らなくて…」

私は謝罪の気持ちを伝えるつもりで頭を下げたが、
それがこの世界の人にとって良くない意味がこめられていたに違いない。
現に日本では好ましく取られるジェスチャーなどが、
海外ではとんでもない侮辱行為に当たることがある。
そういえばここは異世界だった。日本とは違うんだ。
そのことをすっかり失念していた。

「ああ、そういえば確かセツナは別の大陸から来たんだよね」

その時、今まで黙っていたイザベラがそう言った。

「別の大陸ですって?」

エドナは驚いたようにそう言った。

「はいそうです。私の故郷では頭を下げることは感謝の気持ちを伝える時や、
謝罪をする時などに使われていました」
「ああ、それで…。私はてっきり、
自分を卑下してそういうことをしているのかと思った」
「卑下?」
「あなたの故郷では、どうかは知らないけど、
この国では、人に頭を下げる行為はそれ自体が、
“私はあなたより劣っています”と言うようなものなの。
例えば使用人が主人に頭を下げるように、
普通は自分より目上で、相当位が高い人間にしか、頭は下げないものなの」

その話を聞いてイザベラがドン引きした理由が分かった。
多分普通に会話していたと思っていたら、
いきなり相手が土下座してきたような感じだろう。
そんなことをされたら確かに引くだろう。

「じゃあ、この国の人は、謝罪とか、
感謝の気持ちを伝えるのに、頭は下げないんですか?」
「謝罪の場合は下げる時もあるけど、余程の理由がないと、頭は下げないわ。
さっきみたいな程度の理由で、頭を下げる必要は無いから、度肝を抜いたわ…」

そう呆れ顔でエドナは言った。
ちなみにエドナの話では、会釈とかもこの国の人はしないみたいだ。
何かに同意する時は頷いたりはするみたいだが、
深々と頭を下げたりはしないらしい。
本当に相手に頭を下げる時は身分が高い人の前だったり、
相手に怪我を負わせてしまったとか、
そういった重大な責任が問われる時のみらしい。

そういえば異世界って言っても、実質外国に居るのと同じことだったんだ。
町の中世ヨーロッパっぽい外観から、
島国で、独自の文化を築いてきた日本とは、
習慣や常識などが違うのかもしれない。
そういえば日本の文化も、
海外の人から見たら変なところがたくさんあるって言うし、
私の常識と、この世界の人の常識は違っていて当たり前かもしれない。

「…なるほど、頭は下げない方が良いんですね」
「そうね。なるべくしない方がいいわ。
侮られやすくなるし、
人によっては不愉快にさせてしまうこともあるから」

あ、それでか。最初にこの町に来た時に、
私に絡んできた男が怒った理由がわかった。
私は謝罪のために頭を下げたが、
それがあの男にとっては不愉快なものに映ってしまったに違いない。

「なるほど、そういった事情があるなら、納得だね。
今度からは気をつけなよ」
「そうですね」

イザベラにそう言われて私は頷いた。
てゆうかこんな常識と習慣が違うなら…手帳に書いてくれよ地獄神…。

「ところでずっと気になっていたんだけど、
セツナはどうしてこの国に来たんだい?」
「え?」

突然そう聞かれて私は困った。確かに私も同じ立場だったら気になるだろう。

「………えーと、それは言えません」
「そう、言いにくいことなら別にいいけど」

そう言うと、イザベラはあっさりと引き下がってくれた。
あれ? と思ったけど、
どうやら私の気持ちを無視してまでそれを知りたいとは思わないみたいだ。
こういうところがイザベラの良い所だよな。
どっかの詮索付きのあの男とは違って…。

「あ、セツナちゃん」

その時、ギルドのカウンターの奥から1人の男が現れた。
緑色の髪をした褐色の肌の男。その男を見て私は戦慄した。

ぎゃー! 出会いたくないと思っていたけど、出会っちゃったよ。
男の名前はジャンと言うらしい。かなり詮索好きの男で、
私が空間術が使えるという事を大勢の前でバラした奴でもある。
私はこの男が苦手だ。
体が大きいというのもあるかもしれないが、
ぐいぐい迫ってくる感じが苦手なのだ。

「今日も可愛いね。ところで一緒に居るその人は誰?」

可愛いって…まぁお世辞か。
私の容姿は平凡そのものだから、そんなに可愛くなんてないと思うんだけどな。

「この人はエドナさんです。私の友達です」
「エドナ…?」

その時、ジャンの表情がにこやかな笑みから真顔になる。

「………まぁ、そんなはずがないか。
そんなことより、一緒に話そうよ。聞きたいことがあるんだ」

そうずいっと迫ってきたので、私は思わず後ずさる。

「えっと…今は無理です」
「じゃあ、いつなら空いてるの?」
「え、えっと…」

どうやって断ればいいのか考え込んでいると、
エドナが私とジャンの間に入った。

「今日は私との予定があるから」

無表情にエドナはそう言った。

「そうか…ならごめんね」

そう言うとジャンは大人しく引き下がってくれた。

「あの、ありがとうございます」
「それよりも、あなたはまだ依頼を受けたことがないのよね。
これを機会に何か依頼を受けておいたらいいと思うのだけど」
「えっとどんな依頼がいいですか?」

私がそう言うとエドナは依頼を2つほど見せてきた。
血止め薬の原料となるノコギリ草の調達依頼と、
下級魔物の討伐依頼。どれも期限がなく、簡単そうな依頼だった。

「じゃあこれを引き受けますね」
「わかった。じゃあ、ちゃんと受理するね」

そうして依頼を2つを引き受けると、私とエドナは外に出たのだった。



「そういえば、
この依頼を引き受けるって事は、
町の外に行かないといけないってことですよね」

一応期限は無制限だけど、早いうちに解決した方が依頼主のためだろう。

「そうね。なら私と一緒に町の外に行かない?
あなたがどれぐらい、魔物と戦えるのか知りたいの。
やっぱり話を聞いただけじゃ、分からないから」

特に断る理由は無いように思えた。
確かに相手の戦闘能力について、
知っておかないとサポートも難しいかもしれない。

「分かりました。いいですよ」
「それと…あの時は知らなかったとは言え、ごめんなさい」

なんのこと? と思ってすぐに気がついた。
ああ、あの頭を下げた件のことか。

「いえ、別にいいですよ。
失礼なことをしてしまったのは私の方なんですから」
「…今回は良かったけど、
あんな大勢が居る前であんなことをしてはダメよ。
本当に侮られたりするから」

その様子から、
エドナが私のことを心配しているということが読み取れた。
確かに知らなかったとは言え、
あんな大勢の前で頭を下げるのは良くなかったと思う。
説明したとは言え、絶対に変な人だと思われただろう。
でもこれからもきっと、
価値観や常識の違いでトラブルになる事はあると思う。
つくづく異世界というのは厄介だと思った。
だって、インターネットも無いから、
情報だって自分で手探りで得るしかない。
周りに適応していく努力をしていかないと、
あっという間に孤立しそうだ。

「あの、私はこの国に来たばかりで、
あまりこの国について知らないんです。
だからこれからも変なことをしたりするかもしれませんけど、
その時は指摘してくれればちゃんと直します」
「…分かった。もしおかしなところ見つけたら、
ちゃんとあなたに伝えるわ」
「あと私…自分で言うのもなんですけど、
世間知らずなところがあると思うんです。
だからこれからも、
突拍子もない事を聞いたりするかもしれませんけど、良いですか?」
「…心配しなくても一度関わると決めた以上は、
あなたが立派な冒険者になるまで、面倒は見るわ。
それにこのままあなたを放っておくのも…危なっかしいし…」
「え? そうですか?」
「だってあなたは警戒心も無さそうだし、
ちょっと純粋なところもあるし、
正直に言って、あなたが冒険者をやることには今も反対よ。
でもどうせやるなら、誰かが傍で見ていた方がいいでしょう」

そうじゃないと、あなたはこれから酷い目に遭いそうだから――――。

そんなぼそりとしたつぶやきが耳に入った。
何故そんなことが分かるんだろうか、
それを聞こうとした時、私はふとあることを思い出した。

「あ、そうだ。町の外に行く前に孤児院に寄っていいですか?」

町の外に行くとなると、それだけで1日が潰れそうだ。
とりあえず当初の目的である孤児院に先に寄っていきたい。

「孤児院? 別にいいけど、どうしてそこに行くの?」
「寄付しようと思って」

そう言った時、エドナが仰天した顔で、振り返った。

「寄付って、あの善意で人に金品を与える、あの寄付よね…?」
「はい、そうですけど」
「なんでまたそんなことを…」

信じられないといった様子でエドナは私の事を見た。
どうしてそんな風に驚くんだろうか、
ひょっとしてチャリティーとかにあんまり良いイメージがないだろうか。

「そもそも寄付するだけのお金をあなたは持っているの?」
「ありますけど…」
「………いい? 寄付するのはいいけど、
それは絶対に他の人間に言ったりしてはいけないわ。
私は金銭的に余裕のある人間ですと言うようなものだから」
「はぁ、そうなんですか」

エドナがそう言うなら、
そうした方がいいのかも知れない。
私がそう思っていると、
エドナは苦虫を噛み潰したようなそんな顔をしていた。
どうして私と話す時、いつもそんな顔をしているのだろう。
そういえば私はエドナが笑った顔を一度も見たことがない。
せっかく美人なんだから、もうちょっと笑えばいいのに。
そう思いながら、私はエドナと一緒に孤児院まで向かうことにした。



――――どうして、こんなことになってしまったんだろう。

関わるつもりなど無かった。
助けるつもりも無かった。
だがこうして一度関わってしまった以上、
関わるという以外に選択肢は無い。
自分で一度決めたことを投げ出すのだけは嫌だったからだ。

エドナはふと隣を歩いている少女を見る。
名前は確かセツナと言ったか。
あまり聞いたことがない珍しい名前だった。
首筋までの長さに切られた黒髪に、
黒(に見えているが、本当は金色)の瞳。
容姿はあまりこの地方にない顔立ちをしているが、
可愛らしい顔をしていると思う。
そして体は小柄で、体付きはあまりに華奢だった。
おそらく体がでかい男なら、担いで連れ去ることなど簡単だろう。
故にその少女は冒険者には不向きに見えた。

多少特殊な力を持っていようとも、
そんなことは関係ないぐらいに、
冒険者稼業は常に命の危険がつきまとう。
それゆえ冒険者となるものは常に冷静で、
冷酷でなければいけない。
冷酷とは、自分の命と他人の命を天秤にかけるということ、
一瞬の判断ミスが原因で人が死んでしまう事は、
この業界では多々あることだからだ。

しかしこの少女は、
そんな荒々しい世界でやっていけそうには見えなかった。
今までどこでどんな暮らしをしてきたのか知らないが、
彼女はあまりにも世間知らずで、警戒心がない子だった。
出会ったばかりのエドナを信用しているぐらいだ。
おそらく守られた安全な環境で育ってきたのだろう。
そんな人間は冒険者としてやっていけない。
ギルドは男社会で出来ている。
そんな中、
こんな弱々しそうな少女が一人でやっていけるとは思えなかった。

――この子はダメだ。冒険者には向いてない。

確信にも似たその言葉が浮かんだのは、すぐのことだった。
冒険者としてやっていくには、
セツナはあまりにも優しすぎた。
優しいのが悪いわけではない。
ただそれは他の人間に利用されやすいということ。
それほどまでに空間術という特殊な力は、誰もが欲しがる能力だ。
現にセツナと一緒にギルドに行った時、
彼女を物欲しそうな目で見る冒険者が多かった。
だからそれを牽制するために、
エドナは自分のギルドカードをわざと地面に落として、
その場にいた他の冒険者に、それが見えるようにした。
基本的に冒険者というのは、縦社会という程ではないが、
高位ランクであればあるほど、
下のランクの冒険者は話しかけにくいものだ。
それゆえにBランク冒険者の自分がセツナと共に居る事を他の冒険者が知れば、
そうやすやすとセツナを勧誘したりはしにくいだろうと、
想定してのことだった。
だがそれでも諦めない人間は出てくるだろう。
そのことを考えるだけで頭が痛くなるのを感じた。

さらに問題を上げれば、セツナは腰が低すぎる。
人前で頭を下げた時は、本当に気でも狂ったかと思った。
まぁそれは彼女の故郷の習慣みたいだが、
軽々しく頭を下げるのはやってはいけないことだ。
他の人間から侮られやすくなる。

――だいたいからして。セツナはものすごく怪しい。
怪しさの塊といってもいい。

別の大陸の国から来たとセツナは言ったが、
それは怪しいとエドナは思っていた。
別の大陸に移動するのはかなり大変だ。
この華奢で弱々しい少女が、どうやってそれに耐えられたというのだ。

さらにその怪しさに拍車をかけたのが、
セツナが寄付をしたいと言い出した時だった。
これには大変に驚かされた。
普通冒険者なりたての人間がやる行為では無いからだ。
冒険者が冒険者になる理由は、そのほとんどが自分の為だ。
理由は家族を養うためだったり、
名声を得るためだったり様々だが、
常に命のやり取りをしているため、他人なんてどうでもいい。
そう思う冒険者がほとんどだ。
いやこれは冒険者でなくとも、他の人間でもそうだ。
安定を欲するために、人は働く。
それゆえ自分が稼いだ貴重な金を、
余所に寄付するなど考えられない。
もちろん高ランク冒険者は金銭的な意味で不自由することがないので、
寄付することもあるだろうが、
エドナが聞く限り、
Fランク冒険者が孤児院に寄付したと言う話は聞いたことがない。

だが………この少女はいとも簡単にそれを覆した。

それがエドナには不安に思えて仕方がない。
優しすぎる人間は冒険者には向かない。
優しすぎる人間はその優しさゆえに身を滅ぼすことがあるからだ。
だからつい自分が面倒みると言ってしまったが、
早くもその言葉を後悔しつつあった。

ああ、嫌だ――――。

自分が味わった痛みを、自分が味わった苦しみを、
これからこの少女が味わうと思うと、
気が滅入って仕方がない。
女だからと馬鹿にされ、
女だからと侮られ、
対等に扱われた経験なんて、ほとんどない。

それにセツナは悪い意味でかなり目立っていた。
これは良くない兆候だ。
必ず何らかの形で報復をされる。
出る杭は打たれる。それが世の常だ。
このままだとかつての自分と同じように、
他の冒険者から酷い目に遭わされそうだ…。
それを考えるだけで、頭を掻きむしりたくなる程の焦燥感が胸を占める。
それだけは嫌だった。どうしても嫌だった。
世の中には自分の味わった痛みを、他人にも経験させたいと、
同じような目に遭わせる人間もいるが、エドナは絶対にそれだけは嫌だった。
自分の味わった痛みは出来る限り、他人にも味わって欲しくない。
だからエドナは反対した。冒険者だけは止めた方がいいと。
けれどセツナはそれを聞かなかった。
どうしても冒険者をやらないといけない理由があるからと。
これには本当に困らされた。
何がこの少女をここまで駆り立てるのだろうか…。

その理由はたぶんかなり切羽詰まったものだろう。
寄付がしたいといったぐらいだ。おそらく金銭的な理由ではない。

いやむしろ、神殿に寄付出来る程の金銭的余裕はあるぐらいだ。
セツナはどこかの貴族の令嬢か何かで、
冒険者に憧れて家出したのだろうか。
妙に礼儀正しいのはそのせいか…。

いや、だとした説明がつかない部分がある。
エドナがセツナにどんな魔物倒したことがあるのか聞いた時、
虎のような姿をした魔物を倒したと言った。

エドナの知る限りそんな魔物はただ1つしかない。
イビルタイガー。危険度がBランクに指定されている魔物で、
出会えばまず助からないといわれる程、獰猛で凶暴な魔物だ。
それをこの華奢な少女が倒したと言った時、エドナは耳を疑った。
最初は嘘ついてるのかと思ったが、
セツナがただの見栄でこんなことは言う子には見えなかった。
けれどそれをそのまま鵜呑みにするのは無理がある。
だから自分の目で確かめてみることにした。
ひょっとしたら倒したというのはセツナの勘違いかもしれないからだ。
そしてセツナの実力を確かめるために、
エドナは町の外に行くことを提案した。
外に出れば魔物は襲いかかってくるが、
まぁ近くには自分がいるので、さほど困った事態にはならないだろう。

そう思っていたのだが――――。

――エドナはその時まで、
自分がとてつもない勘違いをしていることに気づかなかった。
セツナの最強魔力は地獄神により与えられたもの。
それゆえセツナの人格と、最強魔力は結び付いていなかった。

エドナは観察眼に優れた人間だったが、彼女から見ても、
セツナは見かけ通り、弱々しそうな少女にしか見えなかった。
だからエドナは全く気が付いていなかった。予想すらしていなかった。
まさかこの華奢な少女が、
自分よりはるかに次元を超えて強い存在だとは――。

――そして軽い気持ちで、関わった事を心の底から後悔する。



「………ここが孤児院?」

目の前の建物は寂れた教会のようだった。
教会といっても、十字架やステンドグラスなどはない。
あくまで教会に近い建物と言うだけだ。
だが、建物にはヒビが入り、
壁には蔦が這っていて、かなり年季が入っている。

「どうやらここは神殿が経営している孤児院みたいね」
「神殿?」

そう聞くと、エドナは説明してくれた。
神殿というのは、この世界の宗教組織みたいなもんらしい。
この世界の神様というのは基本的に多神教みたいで、
国や地域によって崇め奉る神様というのは違うみたいだが、
同じ世界観の神様を信仰しているというのはどこも同じらしい。
それで神殿には、神官と呼ばれる光属性の魔法使いが常に居るらしく、
怪我や病気などをしたら、お金さえ払えば神官が治してくれるらしい。
ここら辺はRPGの神官職と同じだよな…。

で、そういった町の人のお布施などを利用して、
孤児院を運営したり、
何らかの慈善活動などをしていることが多いのだが、
中にはそういった信者からのお金を、
自分の私服を肥やすために使っている神官も多く、
腐敗してしまっている所もあるらしい。

「だからもし寄付したいなら、気をつけた方がいいわ」

確かに寄付したお金が子供達の元には行かず、
神官の懐に入ってしまったら何にもならないだろう。だが私は大丈夫だ。
相手がどんな人間かステータス魔法を使えばすぐに分かる。

「大丈夫ですよ。私は人を見る目はあるんで」
「まぁそう言うならせいぜい気を付けなさい。私はここで待っているから」
「あれ、一緒に来てくれないんですか?」
「こういった場所は好きじゃないの」

ああ、そういえば日本の友達にも同じようなことを言っていた子が居たな。
何故か神社とか教会とか行くと、
必ず体調を崩すので絶対に行けないって言ってた気がする。
エドナもそんな感じなんだろうか。

そう思いつつ、私はエドナと離れて、神殿の敷地内に入る。
その時、遠目では気づかなかったが、
建物は寂れているのに花壇には色とりどりの花が咲いていた。
パンジーやコスモスだろうか、いや異世界だから名前が違うかもしれないが、
それに似た花々がたくさん咲いていた。
しばらくそれに見入っていると、唐突に後ろから話しかけられた。

「どうされましたか?」

後ろを振り返ると1人の女性が立っていた。
年齢はおそらく30代ぐらい、ごくごく普通の顔立ちをした女性だった。
そして服は白い修道服みたいな服を着ていた。
何ていうか、ゲームに出てくるシスターとか修道女みたいな感じだな。
エドナといい、この女性といい、
もうコスプレ衣装が、この世界では普通の服になっているみたいだな。

「あの、ここが神殿ですか?」
「はい、そうですよ。どういうご用件ですか?」

女性はそう爽やかな笑みを浮かべた。
とりあえず私は彼女に向かってステータス魔法を使ってみた

【サラ・リース】
【年齢】37才 【種族】人間 【属性】水
【職業】神官補佐。
【称号】
【レベル】10
【体力】220/220
【魔力】320/320
【筋力】E 【防御力】F 【精神力】B
【判断力】D 【器用さ】C 【知性】B 【魅了】C
【状態】
【カルマ値】-26
【スキル】

あれ…カルマ値がマイナスになってる…。
カルマって誰もが持っているものじゃないのか…。
いや、前世からのカルマはステータスには表示されないらしいから、
あくまでマイナスになっているのは現世のカルマということで……。
あー! ややこしいっ。
まぁとにかくこの人が善人である事は確かなことだろう。

「えーと、ここって孤児院があるんですよね」
「そうですが、それがどうされましたか?」
「あの寄――」
「やぁ、ただいま」

その時、唐突に1人の男性が話しかけてきた。
年はおそらく40代程、短い金髪に青い瞳、服は白いローブを着ていた。

「おかえりなさい。神官様。どこに出かけていたんですか?」

そう女性が、てゆうか修道服着てるから、シスターでいいか。
とにかくシスターはそう言った。

「ちょっと散歩に行ってたら、
屋根から落ちて怪我をした人がいてね。
頑張って治療してきたところさ」
「神官様、治療代は?」
「あ」

おそらく治療代を請求してくるのを忘れてきたのだろう。
神官は頭をかいて笑った。その時、シスターの体が動いた。

「このドアホがぁあああッ!」

そう言うとシスターは、神官の顔にドロップキックをした。
いまだかつて、
あれほど綺麗に決まったドロップキックを私は知らない。
シスターは倒れた神官の胸ぐらを掴むと、思いっきり罵倒した。

「このアホ! バカ! 甲斐性無し!
あんたが無計画に治療してまわるから、いっつも孤児院の経営がギリギリなのよ!」
「いやでも困っている人を放っておくことは…」
「ああ? そう言うことは、ちゃんとそれなりの結果を出してから言えや」
「はい、すみません…」

その迫力は無関係な私が見ていても怖かった。
もう帰ろうかな…。そう思ったが、
当初の目的を果たせないといけない。
あの中に入っていくには相当な勇気が居るが、仕方がない。
私は覚悟を決めた。

「あの、すみません」
「はい? 何ですか?」

シスターが不機嫌そうに私を見た。

「孤児院に寄付したいんですけど出来ますか?」

そう言うとシスターは、はじけるように笑顔になった。
もうバックに花が咲くぐらい、笑顔がキラキラしていた。
異世界に来て二日目。
ようやくカルマを返済出来そうで、私はため息を付いた。
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ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

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