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パートナー試験
パートナー試験⑨
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まつ毛が触れそうなほど近い距離に紫紺の瞳が映し出される。
…どうしよう、目、逸らせない…。
由良さんのことを心から愛している。
これは試験で、きっと彼に従えば従うほど忠誠を示すことができるとわかっている。
それでも、彼のことが大好きだからこそ、彼以外の命令に従うなんてことはきっとひどく苦痛で。
でも。彼が望むなら…。
セーフワードを叫ぶか、彼以外のDomとプレイをするか。
どうしたって選べない二択で、声を失ってしまう。
…苦しいよ。
胸がぎゅっと痛んで、たまらず拳を握り締めた。
“はい”、というたった2文字の肯定の言葉が、ひどく難しい。
そんな時ふと、大きな手のひらが、ひどく優しい力で頬に添えられて。
全てを受け入れてくれそうな優しい力に、大丈夫だよ、言ってごらん、と言いたい言葉を促されているような気がした。
相変わらず彼の瞳はどんな感情も宿していないように見えるけれど、この手がいつも嘘をつかないことを知っている。
ポーカーフェイスが上手なだけで、俺のことを本当に雑に扱うことなんて決してできない人だ。
…ねえ、無理だって言っていいのかな。あなた以外には従いたくないと、泣いて縋ってもいい?
心の中で問いかける。
「幹斗。」
そんな俺の気持ちを全てわかっているように、今度は彼が大切に俺の名前を口ずさんだ。
ひどく優しい声音に、涙が溢れそうになる。
「…ヘリオトロープ。」
震える声で、その言葉を口にすれば、最後まで言い終えた途端に強く抱きしめられた。
「よかった。」
俺を抱きしめたまま、由良さんが泣きそうな声で紡ぐ。
「…えっ?」
「言ってくれてよかった。これで言ってくれなかったら、どうしようかと思った。」
どういうことだろうか。
そもそも、どうしてセーフワードを言ったことで彼が喜んでいるのかがわからない。
「…あの、どうしても嫌で。…すみません。」
「いいんだよ。そういう試験だから。」
「えっ?」
「ちゃんとSubがセーフワードを言えるかどうかの試験なんだ。嫌な時にちゃんと拒めることは、信頼関係が成り立っている証だから。」
「ええっ!?」
種明かしをされた瞬間、俺は力が抜けて彼の腕の中に倒れ込んだ。
ちなみに先程の電話の相手は咲さんで、この試験に協力してくれるように事前に相談していたからあの約束は嘘だったらしい。
まるで力が入らなくなってしまった俺は、裸のままお姫様抱っこでベッドまで連れて行かれた。
お姫様を扱うように優しくベッドの上に降ろされ、夢心地になった。
何も着ていないことは恥ずかしいけれど、幸せでたまらない。
「…本当によく頑張ったね。大変だった?...昔君を手放した時のトラウマも、蘇らせてしまったかな?」
言葉とともにたっぷりと甘いglareを注がれ、同時に口付けを落とされた。
たくさんの初めてを体験して、束の間の絶望もあったけれど、その口付けで全ての負荷が吹き飛んでいく。
「あのことは、ちょっとだけ思い出しましたが、すぐに今なら大丈夫だって安心して由良さんに任せちゃいました。…でも、由良さん以外の人とのプレイは、いやです。」
「ごめん。本当はプラグだけでセーフワードを言ってくれると思ったんだよ。」
「…由良さんになら、何をされても…。」
“何をされてもいいです。”
そう言いたかったけれど、言い終わる前に意識が遠のいた。
ハードなプレイの反動で、思っていた以上に疲れていたらしい。
幸せな夢へと誘われる直前、遠くから由良さんの優しい声が聞こえた気がした。
“ありがとう、幹斗。”
…俺の方こそ。
心の中でつぶやいて、彼の体温に身体を預ける。
そしてそのまま、春の日差しのような、優しくしあわせな眠りに誘われた。
…どうしよう、目、逸らせない…。
由良さんのことを心から愛している。
これは試験で、きっと彼に従えば従うほど忠誠を示すことができるとわかっている。
それでも、彼のことが大好きだからこそ、彼以外の命令に従うなんてことはきっとひどく苦痛で。
でも。彼が望むなら…。
セーフワードを叫ぶか、彼以外のDomとプレイをするか。
どうしたって選べない二択で、声を失ってしまう。
…苦しいよ。
胸がぎゅっと痛んで、たまらず拳を握り締めた。
“はい”、というたった2文字の肯定の言葉が、ひどく難しい。
そんな時ふと、大きな手のひらが、ひどく優しい力で頬に添えられて。
全てを受け入れてくれそうな優しい力に、大丈夫だよ、言ってごらん、と言いたい言葉を促されているような気がした。
相変わらず彼の瞳はどんな感情も宿していないように見えるけれど、この手がいつも嘘をつかないことを知っている。
ポーカーフェイスが上手なだけで、俺のことを本当に雑に扱うことなんて決してできない人だ。
…ねえ、無理だって言っていいのかな。あなた以外には従いたくないと、泣いて縋ってもいい?
心の中で問いかける。
「幹斗。」
そんな俺の気持ちを全てわかっているように、今度は彼が大切に俺の名前を口ずさんだ。
ひどく優しい声音に、涙が溢れそうになる。
「…ヘリオトロープ。」
震える声で、その言葉を口にすれば、最後まで言い終えた途端に強く抱きしめられた。
「よかった。」
俺を抱きしめたまま、由良さんが泣きそうな声で紡ぐ。
「…えっ?」
「言ってくれてよかった。これで言ってくれなかったら、どうしようかと思った。」
どういうことだろうか。
そもそも、どうしてセーフワードを言ったことで彼が喜んでいるのかがわからない。
「…あの、どうしても嫌で。…すみません。」
「いいんだよ。そういう試験だから。」
「えっ?」
「ちゃんとSubがセーフワードを言えるかどうかの試験なんだ。嫌な時にちゃんと拒めることは、信頼関係が成り立っている証だから。」
「ええっ!?」
種明かしをされた瞬間、俺は力が抜けて彼の腕の中に倒れ込んだ。
ちなみに先程の電話の相手は咲さんで、この試験に協力してくれるように事前に相談していたからあの約束は嘘だったらしい。
まるで力が入らなくなってしまった俺は、裸のままお姫様抱っこでベッドまで連れて行かれた。
お姫様を扱うように優しくベッドの上に降ろされ、夢心地になった。
何も着ていないことは恥ずかしいけれど、幸せでたまらない。
「…本当によく頑張ったね。大変だった?...昔君を手放した時のトラウマも、蘇らせてしまったかな?」
言葉とともにたっぷりと甘いglareを注がれ、同時に口付けを落とされた。
たくさんの初めてを体験して、束の間の絶望もあったけれど、その口付けで全ての負荷が吹き飛んでいく。
「あのことは、ちょっとだけ思い出しましたが、すぐに今なら大丈夫だって安心して由良さんに任せちゃいました。…でも、由良さん以外の人とのプレイは、いやです。」
「ごめん。本当はプラグだけでセーフワードを言ってくれると思ったんだよ。」
「…由良さんになら、何をされても…。」
“何をされてもいいです。”
そう言いたかったけれど、言い終わる前に意識が遠のいた。
ハードなプレイの反動で、思っていた以上に疲れていたらしい。
幸せな夢へと誘われる直前、遠くから由良さんの優しい声が聞こえた気がした。
“ありがとう、幹斗。”
…俺の方こそ。
心の中でつぶやいて、彼の体温に身体を預ける。
そしてそのまま、春の日差しのような、優しくしあわせな眠りに誘われた。
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初めまして!
Dom/Subの作品が本当に大好きでまだまだ作品が少ない中こんなに素晴らしい作品を読むことができて本当に嬉しいです!
コメントを拝見させていただいてエブリスタ様の方でも投稿があるのを見て早速アプリを入れて作品を見つけたので、もう一度こちらの方でゆっくり読ませていただいてそちらも読ませて頂こうと思います!
とりあえず本当に感想が上手く言い表さないぐらい素敵で心がキュってなる切なさやドキドキ、友情愛もあり心が苦しいほど素敵です!
本当にこんなに素晴らしい作品をありがとうございます!
本であれば即買いたいぐらいです!
こんにちは。
Twitter、Instagram、小説アプリ、、、
たくさんの媒体でDom/Subユニバースを読んで来ましたが、
こちらのお話が出会った中で1番好きです。
由良さんと幹斗くんの出会いから、境遇から、容姿から、、、
何から何までどストライクです。
伏線や話の展開も読みやすく飽きがこなくて、1ページにつき5回は読みました。笑
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幸せに思います。
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幹斗くん、ちゃんとセーフワード言えてよかった。やっぱり由良さんしか受け入れたくないものね。パートナー試験ってこういうことだったのね。二人の愛、信頼を再確認出来たかな。
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