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番外編 〜2人の夏休み〜
動物園でのコアラとの出会い③
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手を握り合わせ腕で輪っかの形を作ると、飼育員さんがそっと腕の中にコアラの赤ちゃんを抱かせてくれる。
短く滑らかなふわふわの毛が柔らかに腕に触れ、心地いい。
それとともに小さな爪のついた可愛らしい手が胸のあたりにぺたんと押し当てられ、愛らしさに胸が切なく疼く。
愛しいに“かなしい”という読み方がある理由を今実感した。
この小さな存在が生きているというだけで泣きたいくらい感動してしまう。
…ああ、いつまでも抱っこしていたい…。
「幹斗君、こっち向いて。」
大好きな由良さんの声にそちらを向くと、ぱしゃりとシャッターの音が鳴った。
…なんか、撮られるの、恥ずかしい…。
カメラマンに撮られることには全く何も感じなかったのに、由良さんに撮ってもらったと考えるとやたらと恥ずかしくなったから不思議だ。
まだ抱っこしていたかったがコアラを飼育員さんに返し、俺の番が終わると、今度は由良さんの番になる。
ひとまず俺はコアラを抱いた由良さんを撮影するべく、スマホのカメラを向けた。
…すごい…。
由良さんの伏し目がちに微笑む秀麗な表情とコアラの可愛さの相乗効果が恐ろしいほど絵になり、思わず見惚れてしまう。
しかしカメラマンがシャッターを切ったあと、由良さんのいる辺りがざわざわと騒がしくなった。
由良さんは平然としている一方で、ガイドさんや飼育員さんが少し青ざめて口に手を当てている。
何が起こったのだろうか。
よく見るとコンクリートの床と由良さんのシャツが不自然に濡れている。
しかも飼育員さんが慌ててコアラを由良さんから受け取ろうとするのにコアラは由良さんに抱きついたまま離れない。
「“ほら、早くこっちにおいで” 」
飼育員さんがコアラに英語で話しかけている。いや、飼育員さんはこっちの人だから英語で話すのが当然だけれど。
「“ゆっくりで大丈夫ですよ。君もありがとう。”」
飼育員さんが大きく目を見開いて顔を赤らめる。
飼育員さんが顔を赤らめる気持ちもコアラが由良さんから離れたくない気持ちも痛いほどによくわかった。
…と言うより俺も、今改めて彼の格好よさにやられている。
この状況で、さらりと英語で飼育員さんに微笑みかけたあとコアラに君もありがとうとお礼を言うなんて、意味が分からないくらい紳士的で格好いい。
ふと、先ほど由良さんが“コアラに妬く”と言った言葉を思い出す。
意図せず俺が妬いてしまいそうだ。
…もちろん由良さんに抱っこされながら粗相をしたいとかそう言うわけではないけれど、抱きしめられながらあんなふうに優しく微笑まれたい。
いつもそうしてもらっているのに今そうして欲しいと求めてしまう。
由良さんはそのあとガイドさんと何やら話してから俺の方に戻ってきた。
何か手に布を持っている。
「ごめん、待たせちゃって。お土産用のTシャツをもらったから、着替えてきてもいいかな?」
「あっ、あの、…はい…。あの、これ…。」
由良さんも持っているだろうと思いながらもポシェットの中からウェットティッシュを取り出して渡した。
「ああ、ありがとう。使わせてもらうね。」
受け取った由良さんが俺の頭に手を置こうとして、“洗ってからだね”、と少し残念そうに笑う。
無意識のうちに撫でられることを期待してしまっていた俺は、その手が自分の頭に触れなかったことに少し寂しさを覚えた。
短く滑らかなふわふわの毛が柔らかに腕に触れ、心地いい。
それとともに小さな爪のついた可愛らしい手が胸のあたりにぺたんと押し当てられ、愛らしさに胸が切なく疼く。
愛しいに“かなしい”という読み方がある理由を今実感した。
この小さな存在が生きているというだけで泣きたいくらい感動してしまう。
…ああ、いつまでも抱っこしていたい…。
「幹斗君、こっち向いて。」
大好きな由良さんの声にそちらを向くと、ぱしゃりとシャッターの音が鳴った。
…なんか、撮られるの、恥ずかしい…。
カメラマンに撮られることには全く何も感じなかったのに、由良さんに撮ってもらったと考えるとやたらと恥ずかしくなったから不思議だ。
まだ抱っこしていたかったがコアラを飼育員さんに返し、俺の番が終わると、今度は由良さんの番になる。
ひとまず俺はコアラを抱いた由良さんを撮影するべく、スマホのカメラを向けた。
…すごい…。
由良さんの伏し目がちに微笑む秀麗な表情とコアラの可愛さの相乗効果が恐ろしいほど絵になり、思わず見惚れてしまう。
しかしカメラマンがシャッターを切ったあと、由良さんのいる辺りがざわざわと騒がしくなった。
由良さんは平然としている一方で、ガイドさんや飼育員さんが少し青ざめて口に手を当てている。
何が起こったのだろうか。
よく見るとコンクリートの床と由良さんのシャツが不自然に濡れている。
しかも飼育員さんが慌ててコアラを由良さんから受け取ろうとするのにコアラは由良さんに抱きついたまま離れない。
「“ほら、早くこっちにおいで” 」
飼育員さんがコアラに英語で話しかけている。いや、飼育員さんはこっちの人だから英語で話すのが当然だけれど。
「“ゆっくりで大丈夫ですよ。君もありがとう。”」
飼育員さんが大きく目を見開いて顔を赤らめる。
飼育員さんが顔を赤らめる気持ちもコアラが由良さんから離れたくない気持ちも痛いほどによくわかった。
…と言うより俺も、今改めて彼の格好よさにやられている。
この状況で、さらりと英語で飼育員さんに微笑みかけたあとコアラに君もありがとうとお礼を言うなんて、意味が分からないくらい紳士的で格好いい。
ふと、先ほど由良さんが“コアラに妬く”と言った言葉を思い出す。
意図せず俺が妬いてしまいそうだ。
…もちろん由良さんに抱っこされながら粗相をしたいとかそう言うわけではないけれど、抱きしめられながらあんなふうに優しく微笑まれたい。
いつもそうしてもらっているのに今そうして欲しいと求めてしまう。
由良さんはそのあとガイドさんと何やら話してから俺の方に戻ってきた。
何か手に布を持っている。
「ごめん、待たせちゃって。お土産用のTシャツをもらったから、着替えてきてもいいかな?」
「あっ、あの、…はい…。あの、これ…。」
由良さんも持っているだろうと思いながらもポシェットの中からウェットティッシュを取り出して渡した。
「ああ、ありがとう。使わせてもらうね。」
受け取った由良さんが俺の頭に手を置こうとして、“洗ってからだね”、と少し残念そうに笑う。
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