強く握って、離さないで 〜この愛はいけないと分かっていても、俺はあなたに出会えてよかった〜 

沈丁花

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番外編 〜2人の夏休み〜

異国の地で⑥

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「今日はまず自然公園で野生動物を観察しに行きますが、まあ、コアラはなかなか見られないですねぇー…。会えたらラッキーということで!

カンガルーはめちゃくちゃいますよ。それはもう、一歩歩いたらカンガルー…ってほどではないですが確実に会えます!

自然公園に行ったあとはTボーンステーキを食べにいきましょう。これね、ついてくる食べ放題のガーリックバターバケットがめちゃくちゃ美味しいんですけど、あまり食べるとお肉が入らなくなるので注意してくださいねぇ!」

バスの中、寺本さんが今日の流れや雑談を話してくれた。

彼の引き出しは様々な分野に転がっていて、聞いていて楽しい上にそのまま土産話に出来そうなものも多い。

しかし幹斗君はその内容にあまり興味を示さず、窓枠に頬杖をつきじっと窓の外を眺めている。

酔ってしまったのだろうか。

「具合悪い?大丈夫?」

軽く肩を叩いて反応を求めると、彼がはっとした様子で振り返る。

その唇の端からは唾液が溢れていて、重たげなまぶたと相まって彼が寝ていたことを理解した。

「ごめん、起こしちゃったね。」

唇の端についた唾液を親指で拭ってやりながら謝れば、彼は慌てて首を横に振る。

「あの、…いえっ、そのっ、……すみません…。」

「謝らないで。具合が悪くなったんじゃないかって心配になってしまって声をかけたんだ。お昼の後、もしかしてあまり寝られなかった?」

「!!」

突然幹斗君が頬を真っ赤に染めた。

僕が寝ている間に何かあったのだろうか。

彼は気まずそうに視線を泳がせていて、そういえば僕が起きた直後幹斗君が挙動不審な様子を見せていたことを思い出す。

「なにがあったのか聞きたいな。」

“ぅー”、と愛らしい呻きを漏らしながら幹斗君が両手で顔を覆う。

「教えて、幹斗。」

優しく顔を覆う両手を剥がしその瞳をglareを放ちながらじっと見つめると、幹斗君は観念したように僕の耳に口を寄せた。

「…あの…実は…。」

ひそひそ声がくすぐったい。

そして内容を聞いてさらにくすぐったい気持ちになった。まったく、どうしてこんなにも愛おしい行動ばかり繰り返してしまうのかと疑問に思う。

彼は僕が寝ている間にちょっとした悪戯でキスをしようとしたらしい。

それなのに僕が無意識に抱きしめてきたらしく、眠れなくなったという。

「そんなにかわいいことをしていたの?起きていればよかった。」

耳元で囁けば彼がぴくりと肩を跳ねさせる。

「いっ、…意地悪、です…!」

むっと唇を尖らせる表情も可愛らしい。

出会った頃よりずっと、今の彼は僕の前で感情表現が豊かになった。

そのことを思うとさらに愛しくて、たまらず彼の唇を奪う。

つい欲望が勝ってしまうのは、彼の大きすぎる魅力が僕の理性を壊すのがいけない。

不可抗力だ。
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