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番外編 〜2人の夏休み〜
準備と飛行機⑤
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早めにチェックインを済ませ、搭乗券の番号が呼ばれるまで由良さんと旅行の流れを確認することにした。
そういえば手続きはETASの登録以外全て由良さんに任せてしまったからオーストラリアのどこにいくのかすら知らされていない。
柔らかなソファー椅子に隣り合わせに座り、由良さんが観光雑誌を開いて見せてくれる。
「今回行くところはゴールドコーストという場所で、1日目は少し観光した後で、夕方から野生公園に行って、それから土蛍を見て…。」
今日は9月の平日。オフシーズンのため人はまばらで、静寂の中に響く由良さんの穏やかな声が耳に心地いい。
伏し目がちに雑誌を見る彼の表情は美しく、もうこれだけで情緒的な雰囲気に酔ってしまいそうだ。
「…と、そこで1日目が終わり。2日目は10時半にホテルを出て動物園に。そこでコアラを抱っこして写真撮影をできるんだって。」
「コアラ!?抱っこできっ…すみません。」
自分で情緒的だと心の中で思っておきながらついコアラという単語に反応して雰囲気を壊してしまった。
とっさに口を塞ぐけれどもう遅く、由良さんが優しく微笑んでこちらを見ている。
「好きなの?コアラ。」
「…はい…。」
コアラでも猫でも犬でもかわいいものは正義だと思う。特にネザーランドドワーフが好きだ。
でも甘いものが好きなうえにかわいいものが好きだなんてあまりに子供っぽくて恥ずかしいから今までずっと隠していたのに。
control+zで一つ前に戻れたら…。
頭を抱えていると、悪戯っぽくくすりと笑われた。
「知ってた。」
そのままからかい口調で耳打ちをされてしまう。
「!?」
そんなの嘘だ。片付けが苦手だから一つも家にぬいぐるみは置いていないし、筆記具や日用品でも気づかれないように隠していたはずなのに、一体どこで…。
「動物やぬいぐるみを見ると表情が柔らかくなるよね。知らなかった?」
「…知りませんでした…。」
顔に出にくいとよく言われる俺の感情を、由良さんは意図もたやすく読み取ってくる。
あまりに正確に読み取られるものだから最近ものすごく顔に出やすくなったのではないかと不安になって谷津に尋ねたが、そんなことはないらしい。
「あっ、幹斗君、呼ばれたよ。行こうか。」
そうこうしているうちに番号が呼ばれ、立ち上がり由良さんの後をついていく。
「景色がよく見えるから、奥に座って。」
さりげなく奥にエスコートされ、一番窓側の席に座る。
やっぱりいつでも格好いいし、周りの視線が彼に集まっているのも当然だと思えた。
ここからゴールドコーストまでは約9時間。
その間ずっと空の上という隔離された空間で由良さんと隣に座るのだと思ったら、急にどきどきして顔が熱くなった。
そういえば手続きはETASの登録以外全て由良さんに任せてしまったからオーストラリアのどこにいくのかすら知らされていない。
柔らかなソファー椅子に隣り合わせに座り、由良さんが観光雑誌を開いて見せてくれる。
「今回行くところはゴールドコーストという場所で、1日目は少し観光した後で、夕方から野生公園に行って、それから土蛍を見て…。」
今日は9月の平日。オフシーズンのため人はまばらで、静寂の中に響く由良さんの穏やかな声が耳に心地いい。
伏し目がちに雑誌を見る彼の表情は美しく、もうこれだけで情緒的な雰囲気に酔ってしまいそうだ。
「…と、そこで1日目が終わり。2日目は10時半にホテルを出て動物園に。そこでコアラを抱っこして写真撮影をできるんだって。」
「コアラ!?抱っこできっ…すみません。」
自分で情緒的だと心の中で思っておきながらついコアラという単語に反応して雰囲気を壊してしまった。
とっさに口を塞ぐけれどもう遅く、由良さんが優しく微笑んでこちらを見ている。
「好きなの?コアラ。」
「…はい…。」
コアラでも猫でも犬でもかわいいものは正義だと思う。特にネザーランドドワーフが好きだ。
でも甘いものが好きなうえにかわいいものが好きだなんてあまりに子供っぽくて恥ずかしいから今までずっと隠していたのに。
control+zで一つ前に戻れたら…。
頭を抱えていると、悪戯っぽくくすりと笑われた。
「知ってた。」
そのままからかい口調で耳打ちをされてしまう。
「!?」
そんなの嘘だ。片付けが苦手だから一つも家にぬいぐるみは置いていないし、筆記具や日用品でも気づかれないように隠していたはずなのに、一体どこで…。
「動物やぬいぐるみを見ると表情が柔らかくなるよね。知らなかった?」
「…知りませんでした…。」
顔に出にくいとよく言われる俺の感情を、由良さんは意図もたやすく読み取ってくる。
あまりに正確に読み取られるものだから最近ものすごく顔に出やすくなったのではないかと不安になって谷津に尋ねたが、そんなことはないらしい。
「あっ、幹斗君、呼ばれたよ。行こうか。」
そうこうしているうちに番号が呼ばれ、立ち上がり由良さんの後をついていく。
「景色がよく見えるから、奥に座って。」
さりげなく奥にエスコートされ、一番窓側の席に座る。
やっぱりいつでも格好いいし、周りの視線が彼に集まっているのも当然だと思えた。
ここからゴールドコーストまでは約9時間。
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