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番外編 〜2人の夏休み〜
突然の提案
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※注意※
いつもお読み頂きありがとうございます!こちらは幹斗が暴行される事件と帰省回の間のお話になります。特に本編に関連はありませんが、2人の甘い旅行にお付き合いいただければ幸いです。
あの事件から1ヶ月。仙波君がいないから実験の負担は少し増えたが、授業が夏休みに入ったので、平日に実験をするだけの日々が続いている。
「おかえり、幹斗君。」
「ただいま、由良さん。」
家のドアを開けると由良さんが待っていて、挨拶と共に俺の身体を前からぎゅっと抱きしめてくれた。
__由良さんのにおい…。
鼓動が加速し身体が固まる一方で、ああ幸せだな、と胸がいっぱいになる。
毎日帰るたびにこうされているはずなのに、未だにこんなにも緊張してしまうのは、少し恥ずかしいけれど。
彼は9月の後半から新しい会社に勤務するらしく、今は長めの休みだと言って俺が帰ると家でお帰りなさいを言ってくれる。
他にも俺が学校に行っている間はジムに行ったりインテリアを見に行ったりしてるらしい。
「ねえ幹斗君、9月の前半に休みを取れない?」
抱きしめたまま耳元で囁かれれば、彼の息が鼓膜を震わせその甘美な刺激が全身にゆるく広がっていく。
「あ、の、…近い…。」
抱きしめながら耳元で囁くのは反則だ。
あまりにもどきどきして彼の言っていることを脳で処理できず、なんとかそう紡ぐと由良さんはやっと俺の身体を離してくれた。
「いつまで経っても慣れないね…?」
「…!!」
悪戯っぽく笑んで言われ、身体が熱くなる。
「顔真っ赤。かわいい。」
「…っ!…いじわる、です…。」
「かわいいからつい。ごめんね。」
「… 」
本当にずるい。いつだってさらりと嬉しくて恥ずかしいことを言われ、本当に心臓がもたない。
「…そっ、それで、さっきの、由良さんなんて…?」
「ああ、そうだった。幹斗君がもし長めのお休みを取れるなら、9月の前半に海外に行かない?オフシーズンにこんなに長く休みが取れることはそうそうないから、もし君さえ良ければ。」
一応暦上は9月前半まで休みだから、俺の研究室でも1週間程度の休みは取っている人が多い。
そういえば教授も9月の2週目はいないと言っていた気がする。
「9月の2週目は休みにできると思います。」
「本当?1週間も?」
「はい。」
普段落ち着いている彼が楽しそうに瞳に期待を宿らせ、なんだか俺まで嬉しくなる。
「じゃあオーストラリアに行ってみない?」
しかしいきなり海外を出されて途端に現実を考えてしまった。
「…オーストラリア…あの、…こういうことを今から聞くのはどうかとも思いますが、お金は…。」
「今回の件は社長もとても気にしていてね。退職金が出るからそれでどうかな?パスポートは持っていたよね?」
確かにパスポートは持っている。免許証がないからその代わりに身分証として。
でも、それとこれとは別だ。
俺だって行きたいけれど、でも…。
「…退職金は、貯金を…。」
「幹斗君とずっと海外旅行に行ってみたかったんだ。オフシーズンだから安く行けるし、残りは貯金するから。…だめかな?」
紫紺の瞳が揺らいで、すがるように俺を見つめる。
__…これ、断ったら今度は頷くまでglare放たれるやつだ…。
「行きたいです。…本当は俺も、由良さんと旅行したいから…。海外、行ったことないから楽しみです。」
「じゃあ決まりだね。明日資料を持ってくるよ。お休み、よろしくね。」
「はい。」
ご飯を食べた後に教授にメールを出し、9月の2週目は休みをもらえることになった。
それにしても、いきなり海外旅行だなんてびっくりだ。
__明日からも頑張ろう。
由良さんのおかげで、今日もそう思える。
明日行くわけでもないのに楽しみにしすぎて夜なかなか寝付くことができず、それに気づいた由良さんから、散々可愛がられたのはまた別のお話。
いつもお読み頂きありがとうございます!こちらは幹斗が暴行される事件と帰省回の間のお話になります。特に本編に関連はありませんが、2人の甘い旅行にお付き合いいただければ幸いです。
あの事件から1ヶ月。仙波君がいないから実験の負担は少し増えたが、授業が夏休みに入ったので、平日に実験をするだけの日々が続いている。
「おかえり、幹斗君。」
「ただいま、由良さん。」
家のドアを開けると由良さんが待っていて、挨拶と共に俺の身体を前からぎゅっと抱きしめてくれた。
__由良さんのにおい…。
鼓動が加速し身体が固まる一方で、ああ幸せだな、と胸がいっぱいになる。
毎日帰るたびにこうされているはずなのに、未だにこんなにも緊張してしまうのは、少し恥ずかしいけれど。
彼は9月の後半から新しい会社に勤務するらしく、今は長めの休みだと言って俺が帰ると家でお帰りなさいを言ってくれる。
他にも俺が学校に行っている間はジムに行ったりインテリアを見に行ったりしてるらしい。
「ねえ幹斗君、9月の前半に休みを取れない?」
抱きしめたまま耳元で囁かれれば、彼の息が鼓膜を震わせその甘美な刺激が全身にゆるく広がっていく。
「あ、の、…近い…。」
抱きしめながら耳元で囁くのは反則だ。
あまりにもどきどきして彼の言っていることを脳で処理できず、なんとかそう紡ぐと由良さんはやっと俺の身体を離してくれた。
「いつまで経っても慣れないね…?」
「…!!」
悪戯っぽく笑んで言われ、身体が熱くなる。
「顔真っ赤。かわいい。」
「…っ!…いじわる、です…。」
「かわいいからつい。ごめんね。」
「… 」
本当にずるい。いつだってさらりと嬉しくて恥ずかしいことを言われ、本当に心臓がもたない。
「…そっ、それで、さっきの、由良さんなんて…?」
「ああ、そうだった。幹斗君がもし長めのお休みを取れるなら、9月の前半に海外に行かない?オフシーズンにこんなに長く休みが取れることはそうそうないから、もし君さえ良ければ。」
一応暦上は9月前半まで休みだから、俺の研究室でも1週間程度の休みは取っている人が多い。
そういえば教授も9月の2週目はいないと言っていた気がする。
「9月の2週目は休みにできると思います。」
「本当?1週間も?」
「はい。」
普段落ち着いている彼が楽しそうに瞳に期待を宿らせ、なんだか俺まで嬉しくなる。
「じゃあオーストラリアに行ってみない?」
しかしいきなり海外を出されて途端に現実を考えてしまった。
「…オーストラリア…あの、…こういうことを今から聞くのはどうかとも思いますが、お金は…。」
「今回の件は社長もとても気にしていてね。退職金が出るからそれでどうかな?パスポートは持っていたよね?」
確かにパスポートは持っている。免許証がないからその代わりに身分証として。
でも、それとこれとは別だ。
俺だって行きたいけれど、でも…。
「…退職金は、貯金を…。」
「幹斗君とずっと海外旅行に行ってみたかったんだ。オフシーズンだから安く行けるし、残りは貯金するから。…だめかな?」
紫紺の瞳が揺らいで、すがるように俺を見つめる。
__…これ、断ったら今度は頷くまでglare放たれるやつだ…。
「行きたいです。…本当は俺も、由良さんと旅行したいから…。海外、行ったことないから楽しみです。」
「じゃあ決まりだね。明日資料を持ってくるよ。お休み、よろしくね。」
「はい。」
ご飯を食べた後に教授にメールを出し、9月の2週目は休みをもらえることになった。
それにしても、いきなり海外旅行だなんてびっくりだ。
__明日からも頑張ろう。
由良さんのおかげで、今日もそう思える。
明日行くわけでもないのに楽しみにしすぎて夜なかなか寝付くことができず、それに気づいた由良さんから、散々可愛がられたのはまた別のお話。
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