強く握って、離さないで 〜この愛はいけないと分かっていても、俺はあなたに出会えてよかった〜 

沈丁花

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第2部

バースデイ②

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GPSを頼りに指定された待ち合わせ場所に行くと、人気がなく薄暗い道路沿いだった。

待ち合わせた時間まであと15分。

そわそわとしながら空を見上げ、ああ春だな、と実感する。

ぼんやりと見える北斗七星が教えてくれた。

普段は街明かりに消されてしまうから、見るのはとても久しぶりな気がする。

「幹斗君。」

そのまま春の大三角を探そうかなと思い始めたところで、よく知る大好きな声に名前を呼ばれた。

あれ、でもどこにいるんだろう?

辺りを見回しても彼の姿が見当たらない。

先ほどと変わったことといえば、近くに高級車が止まっているくらいで。

ばたん、と音がして目の前の車の運転席から人が降りてくる。

ゆっくりと俺に近づいて来た見覚えのあるシルエットに、俺は目をぱちぱちと瞬かせた。

「由良さん…?」

ほとんど由良さんで間違いないが、つい疑心暗鬼に彼の名を呼ぶ。

由良さんって車持ってたっけ。

動揺する俺を前に、彼は少し申し訳なさそうな笑みを浮かべた。

「ごめん、驚かせちゃったね。今日のために借りて来たんだ。電車では少し難しいところに行くから。」

凛とした穏やかな声が彼が彼であることを実感させてくれる。

でもなんでその程度の難易度の答えに辿り着かなかったんだ、俺…。

「借りて…レンタカーですか!ごめんなさい、気づかなくて…。」

慌てて謝ると、由良さんはゆっくりと首を横に振った。

「ううん、幹斗君の前で運転したことはないし、驚くのも無理ないよ。」

それに…、と、今度は彼が悪戯っぽい笑みを浮かべ、俺の耳元に端正な唇をそっと寄せる。

鼻を掠めるシトラスの香だけでもう心臓が大きく跳ねるのに、低い声に色っぽく“驚いた君を見たかった”、なんて囁かれたら、動けなくなってしまうではないか。本当にずるい。

「行こうか。」

固まっている俺に、由良さんがすっと手のひらを上に向け差し出す。

紫紺の瞳からはわずかにglareが放たれていて、無意識のうちに俺はそれに従い彼の手に自らの手を重ねていた。

そのまま優しくエスコートされ、ドアを開け助手席に導かれる。

…何これ、夢?俺とうとうおかしくなった?

シートベルトを締めながらつい自分のほっぺたをつねった。普通に痛い。

凄まじい勢いで暴れている心臓はまるで別の生き物みたいだ。

由良さんに白いメルセデスはいけない。たとえ軽自動車でも由良さんに助手席までエスコートしてもらえたら誰だって惚れるのに、これは殺傷能力が高すぎる。

どこぞの王子様か何かか。

「幹斗君?」

運転席に掛けた由良さんが心配そうにこちらを見つめてくる。

…あの、片手をハンドルに添えながらこっちを見るのやめてくれませんか。俺の心臓が爆発するので。

心の中で訴えてはみるがどうやら無駄らしい。

紫紺の瞳が心配そうに揺れ、長い指が俺の頬にそっと触れた。

「具合悪い?」

近くで紡がれた憂いを帯びた声に鼓動をさらに加速させられる。

「…わっ、悪くないですっ!由良さんが格好良すぎて心臓に悪かっただけです!!」

気づけば口に出していた。

彼は一瞬驚いたように目を瞬かせたが、そのあと照れ臭そうに笑いながらあっさり俺から手を離して。

「それは光栄だな。今日一日君にそう思ってもらえるように頑張るよ。」

と、穏やかな声で告げた。

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