207 / 261
第2部
秘め事②
しおりを挟む
「えっ、じゃあ東弥は大学に残ることにしたの?」
「うん。国際学会も口頭発表で参加したし、論文も通ったし、このままいけば特別研究員制度に採ってもらえそうだから。幹斗は?」
「実は教授からの推薦で内定をもらったんだ。だからあとは修論のデータ集めてる。」
しばらくして話題は自然と進路の話に向いた。
東弥は修士を卒業した後博士課程に行くらしい。
たしかに東弥ほど優秀であれば特別研究員制度に採用されて学生のうちから給与をもらいながら研究できるだろう。
俺も就職は決まっているし、平和でよかった。
「2人とも進路決まってよかったー!幹斗は一年後に社会人だね!もしも困ったことがあったら先輩の俺にいつでも相談してねー!!」
えっへん、と谷津が拳で胸を叩く。
「…1%くらい期待しとく。」
「少なっ!!!…まあいいけど。
あっ、そうそう、俺4月に結婚式挙げるから来てね!!籍も今年度中には入れようかなーって話してて。」
…今、“あっ、そうそう”、なんて言って付け加えるように話すことじゃない重大な情報が聞こえた気がする。
4月に結婚。
そういえば結構前から谷津が結婚すると言っていたが、ついにするのか。時間が経つのって早い。
「おめでとう。もちろん出席するよ。そっか、結婚か…。」
しみじみとしていると、東弥がそういえば…、と口を開いた。
「俺と静留も養子縁組を結ぼうと思ってるんだ。相続とかは正直どうでもいいんだけど、大きな病気になった時とかに一緒にいる理由になりやすいのと、…あと、やっぱり家族になりたいから。」
「同性パートナー同士でそうしてる人も多いよねー!本当は静留君のこと法的にも手に入れたいっていう欲もあるんでしょー!!」
「…まあ、それもある。」
二人の話に突然胸の奥を突き刺されたような痛みを覚えて驚く。
どうしてだろうと少し考え、ある結論に辿り着いた。
…そっか、家族…。
両親がいない環境で生きてきた俺は家族への憧れが強くて、だから俺も由良さんの養子になれたならどんなに幸せだろうかと思うけれど、きっとそんなことを言ったら彼の傷を抉ることになるだろう。
そう思って、心が少しだけ傷ついたのだ。
…このままでいい。敢えて家族になろうだなんて、そんな残酷なことを由良さんに言うことはしない。
だって、あの日公園で静かに泣く彼はひどく苦しげに見えたから。
「…幹斗?」
谷津の心配そうな声ではっと我に帰った。
「あっ、ごめん、考え事してた…。こ、このナスの生ハム巻き、なんでこんな不味いんだろうなって…。」
咄嗟に出た言い訳だが、先程からずっと微妙な味だと思っていたから嘘ではない。
微妙な味を不味いと過剰に貶してしまったことについては、メニューを考えたひとに心の中でごめんなさいを言っておく。
「えっ、めちゃくちゃ美味しいけど!!俺持って帰っていい?真希ちゃんにも食べさせてあげるんだー!!」
「是非。もし残り物でよければ東弥も持って帰ってね。」
「本当?助かる。静留が喜ぶよ。」
ひとまずこの場は誤魔化すことができたらしい。
それからは互いのパートナーの話になった。
東弥は相変わらず静留君にデレデレで、谷津は真希さんと仲良しで、俺は格好いい由良さんがいつも大好きで。
それで幸せなはずなのに、2人が帰った後、夜は養子縁組のことについてばかり考えてしまい苦しかった。
これ以上を望んで、しかもそれが由良さんを傷つけることだなんて、自分が最低な人間に思えてくる。
でも、由良さんがいない今日だけは泣くことを許して欲しい。
寝て起きて訪れた明日には、何もかも忘れて幸せな俺でいるから。
そして笑顔で彼におかえりなさいを言おう。
「うん。国際学会も口頭発表で参加したし、論文も通ったし、このままいけば特別研究員制度に採ってもらえそうだから。幹斗は?」
「実は教授からの推薦で内定をもらったんだ。だからあとは修論のデータ集めてる。」
しばらくして話題は自然と進路の話に向いた。
東弥は修士を卒業した後博士課程に行くらしい。
たしかに東弥ほど優秀であれば特別研究員制度に採用されて学生のうちから給与をもらいながら研究できるだろう。
俺も就職は決まっているし、平和でよかった。
「2人とも進路決まってよかったー!幹斗は一年後に社会人だね!もしも困ったことがあったら先輩の俺にいつでも相談してねー!!」
えっへん、と谷津が拳で胸を叩く。
「…1%くらい期待しとく。」
「少なっ!!!…まあいいけど。
あっ、そうそう、俺4月に結婚式挙げるから来てね!!籍も今年度中には入れようかなーって話してて。」
…今、“あっ、そうそう”、なんて言って付け加えるように話すことじゃない重大な情報が聞こえた気がする。
4月に結婚。
そういえば結構前から谷津が結婚すると言っていたが、ついにするのか。時間が経つのって早い。
「おめでとう。もちろん出席するよ。そっか、結婚か…。」
しみじみとしていると、東弥がそういえば…、と口を開いた。
「俺と静留も養子縁組を結ぼうと思ってるんだ。相続とかは正直どうでもいいんだけど、大きな病気になった時とかに一緒にいる理由になりやすいのと、…あと、やっぱり家族になりたいから。」
「同性パートナー同士でそうしてる人も多いよねー!本当は静留君のこと法的にも手に入れたいっていう欲もあるんでしょー!!」
「…まあ、それもある。」
二人の話に突然胸の奥を突き刺されたような痛みを覚えて驚く。
どうしてだろうと少し考え、ある結論に辿り着いた。
…そっか、家族…。
両親がいない環境で生きてきた俺は家族への憧れが強くて、だから俺も由良さんの養子になれたならどんなに幸せだろうかと思うけれど、きっとそんなことを言ったら彼の傷を抉ることになるだろう。
そう思って、心が少しだけ傷ついたのだ。
…このままでいい。敢えて家族になろうだなんて、そんな残酷なことを由良さんに言うことはしない。
だって、あの日公園で静かに泣く彼はひどく苦しげに見えたから。
「…幹斗?」
谷津の心配そうな声ではっと我に帰った。
「あっ、ごめん、考え事してた…。こ、このナスの生ハム巻き、なんでこんな不味いんだろうなって…。」
咄嗟に出た言い訳だが、先程からずっと微妙な味だと思っていたから嘘ではない。
微妙な味を不味いと過剰に貶してしまったことについては、メニューを考えたひとに心の中でごめんなさいを言っておく。
「えっ、めちゃくちゃ美味しいけど!!俺持って帰っていい?真希ちゃんにも食べさせてあげるんだー!!」
「是非。もし残り物でよければ東弥も持って帰ってね。」
「本当?助かる。静留が喜ぶよ。」
ひとまずこの場は誤魔化すことができたらしい。
それからは互いのパートナーの話になった。
東弥は相変わらず静留君にデレデレで、谷津は真希さんと仲良しで、俺は格好いい由良さんがいつも大好きで。
それで幸せなはずなのに、2人が帰った後、夜は養子縁組のことについてばかり考えてしまい苦しかった。
これ以上を望んで、しかもそれが由良さんを傷つけることだなんて、自分が最低な人間に思えてくる。
でも、由良さんがいない今日だけは泣くことを許して欲しい。
寝て起きて訪れた明日には、何もかも忘れて幸せな俺でいるから。
そして笑顔で彼におかえりなさいを言おう。
1
お気に入りに追加
699
あなたにおすすめの小説
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる