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第2部
帰省⑨
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「すみれさん、俺お茶淹れてくるね。」
「いけない!忘れてたわ。最近あまり飲まないから。私がやるから幹斗は座っていて。秋月さんは何がいいかしら?」
飲み物が並んでいないことに気がつきキッチンに行こうとしたけれど、なぜだか今日は止められてしまった。
いつも自分の仕事だったから断られると変な感じがする。
「僕にはお構いなく。なんでも好きです。」
由良さんが完璧な答えを返すと祖母は納得したような頷いたが、次に俺の方を見た。
「それはよかった。それで幹斗、秋月さんは何がお好きかしら?」
「由良さんはブラックコーヒーだよ。俺は… 」
「いつものでしょう?わかってるわよ。私と同じね。」
祖母の方がこういう場面では一枚上手らしい。
唖然とする由良さんが珍しくて思わず口元が綻ぶ。
しばらくして祖母が4人分の飲み物を運んできてくれた。
俺と祖母は蜂蜜レモン、由良さんにはコーヒー、そして祖父には…
「あれ、史明さんも俺たちと同じやつ?」
いつも煎茶を飲んでいた祖父の前にも蜂蜜レモンが置いてあり、意外に思って尋ねてみると祖母は少し寂しげに笑んだ。
「気休めだけれど、蜂蜜が病気にいいって聞いてね。史明さんもこれなら飲めると言ってくれたから。」
「そっか…ごめん…。」
「いいのいいの。徐々に進行するそうだけれど、初期で気づくことができてよかったの。そんな顔をしないで。それより幹斗が帰ってきてくれて嬉しいわ。」
こうは言っているけどきっとすごく苦しいんだろうな。
無理に明るく笑おうとする祖母を前に、これからはもう少し帰ろうと思った。2人に会えることを思えばここまでの道のりも遠くはない。
「それよりもあなたたちの話を聞きたいわ。秋月さん、幹斗は家でどうですか?」
しんみりとした空気を吹き飛ばすように祖母が話題を180度変える。
その質問がまるでテストみたいで俺は慌てて由良さんの方をみた。
めちゃくちゃ役に立ってないとか言われてしまったらどうしよう…。
「幹斗君はとてもしっかりしていて、いつも支えられています。特に僕は料理がだめで幹斗君に任せてしまっていて。お世話になっています。」
役に立たないと言われるどころかむしろ誉められ過ぎてしまった。
しかしこのままでは由良さんの良いところが正当に伝わらない。
「俺の方こそ由良さんに支えられてて、掃除はだめでよく手伝ってもらってて、お世話とか何にもしてないよ。お弁当作ったら、いっつも美味しいって言ってくれるし洗い物とか…えっ、俺何か変なこと言った?」
必死で訂正していたら、祖父母に夏の雪でも見たような変な目で見られてしまった。
「…いえ…。ねえ、史明さん?」
「ああ。」
2人が言葉にせずとも納得し合っているのも理解できない。
「あなたがあんまりよく喋るから、驚いたのよ。嬉しくてねえ。」
そういえば雪菜さんにも同じようなことをさっき言われた気がする。
一体他人から俺はどんなふうに見えているのかと若干怖くなってきた。
ああでも、祖父も笑っている。
ここに来てよかった。由良さんが背中を押してくれたから前に進めた。
思わず頬を綻ばせて笑ったら、また2人に変な目で見られてしまった。
「いけない!忘れてたわ。最近あまり飲まないから。私がやるから幹斗は座っていて。秋月さんは何がいいかしら?」
飲み物が並んでいないことに気がつきキッチンに行こうとしたけれど、なぜだか今日は止められてしまった。
いつも自分の仕事だったから断られると変な感じがする。
「僕にはお構いなく。なんでも好きです。」
由良さんが完璧な答えを返すと祖母は納得したような頷いたが、次に俺の方を見た。
「それはよかった。それで幹斗、秋月さんは何がお好きかしら?」
「由良さんはブラックコーヒーだよ。俺は… 」
「いつものでしょう?わかってるわよ。私と同じね。」
祖母の方がこういう場面では一枚上手らしい。
唖然とする由良さんが珍しくて思わず口元が綻ぶ。
しばらくして祖母が4人分の飲み物を運んできてくれた。
俺と祖母は蜂蜜レモン、由良さんにはコーヒー、そして祖父には…
「あれ、史明さんも俺たちと同じやつ?」
いつも煎茶を飲んでいた祖父の前にも蜂蜜レモンが置いてあり、意外に思って尋ねてみると祖母は少し寂しげに笑んだ。
「気休めだけれど、蜂蜜が病気にいいって聞いてね。史明さんもこれなら飲めると言ってくれたから。」
「そっか…ごめん…。」
「いいのいいの。徐々に進行するそうだけれど、初期で気づくことができてよかったの。そんな顔をしないで。それより幹斗が帰ってきてくれて嬉しいわ。」
こうは言っているけどきっとすごく苦しいんだろうな。
無理に明るく笑おうとする祖母を前に、これからはもう少し帰ろうと思った。2人に会えることを思えばここまでの道のりも遠くはない。
「それよりもあなたたちの話を聞きたいわ。秋月さん、幹斗は家でどうですか?」
しんみりとした空気を吹き飛ばすように祖母が話題を180度変える。
その質問がまるでテストみたいで俺は慌てて由良さんの方をみた。
めちゃくちゃ役に立ってないとか言われてしまったらどうしよう…。
「幹斗君はとてもしっかりしていて、いつも支えられています。特に僕は料理がだめで幹斗君に任せてしまっていて。お世話になっています。」
役に立たないと言われるどころかむしろ誉められ過ぎてしまった。
しかしこのままでは由良さんの良いところが正当に伝わらない。
「俺の方こそ由良さんに支えられてて、掃除はだめでよく手伝ってもらってて、お世話とか何にもしてないよ。お弁当作ったら、いっつも美味しいって言ってくれるし洗い物とか…えっ、俺何か変なこと言った?」
必死で訂正していたら、祖父母に夏の雪でも見たような変な目で見られてしまった。
「…いえ…。ねえ、史明さん?」
「ああ。」
2人が言葉にせずとも納得し合っているのも理解できない。
「あなたがあんまりよく喋るから、驚いたのよ。嬉しくてねえ。」
そういえば雪菜さんにも同じようなことをさっき言われた気がする。
一体他人から俺はどんなふうに見えているのかと若干怖くなってきた。
ああでも、祖父も笑っている。
ここに来てよかった。由良さんが背中を押してくれたから前に進めた。
思わず頬を綻ばせて笑ったら、また2人に変な目で見られてしまった。
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