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第2部
帰省⑧
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「お帰りなさい、幹斗。遠いところ大変だったでしょう?そちらの方があなたのパートナー?」
ドアが開き、出てきた祖母は雪菜さんの言葉通り変わらない様子だった。
穏やかな話し方と明るい口調が俺の緊張を解かしてくれる。
「ただいま、すみれさん。…うん、紹介するね。こちらが秋月由良さん。」
「はじめまして、幹斗の祖母です。いつも幹斗がお世話になっています。」
「初めまして、秋月由良です。幹斗君とお付き合いをさせていただいています。粗末なものですが、お納めください。」
祖母が手を差し出すと、由良さんは彼女と握手を交わしてからお土産の紙袋を差し出した。
自然な立ち振る舞いと綺麗な笑顔に思わず俺の方が見惚れてしまう。
心なしか祖母の顔もほんのり赤い。
「まあ!栗羊羹!大好きなのよ、ありがとうございます。それにお煎餅まで。わざわざ気を遣わせてしまったかしら?」
「いえ、幹斗君と一緒に選んだので迷いませんでした。喜んでいただけて嬉しいです。僕もすみれさんとお呼びしても?」
“あらまあ”、と祖母が少女のように口に両手を当てながら驚きを浮かべる。
由良さんを前にしたらこの反応も無理はない。むしろこの状況で固まらないことがすごいなと思った。
「ええ、もちろん。むしろ歓迎だわ。さ、立ち話もなんですから、はいってくださいな。」
祖母に案内され中に入ると、内装が俺の記憶とかなり異なっていることに驚く。
リフォームをして二世帯住宅にしたのだと祖母が説明してくれた。
…そっか。俺がいない間に色々変わったんだな。
変化を少し寂しく思いながら廊下を進んでいく。
突き当たりのドアを開けると共に鼻をくすぐったお菓子の焼ける香りに、なぜだかひどく安心した。
帰省するといつも漂っていたその香りは、今も変わっていない。
「史明さん、幹斗がきましたよ。」
祖母の声を受け、腰掛けていた祖父がゆっくりと椅子から立ち上がった。
「よくきたな。元気でやってるか?」
「うん。史明さんは?」
「普通だ。」
言葉と共にゴツゴツした手がポンと俺の頭に置かれる。
難病にかかって普通なはずがないのに、祖父の様子があまりにいつも通りでなんだか泣きそうになってしまった。
寡黙な祖父は多くを語らない。
でも昔から、何かにつけてこうして俺の頭に励ますように手を置いてくれた。
「初めまして。幹斗の祖父です。」
「初めまして、秋月です。お会いできて光栄です。」
「私もだ。」
由良さんと挨拶をしている間も相変わらず祖父の反応はそっけない。
「準備ができたから皆さん座ってくださいな。秋月さんもお口に合うかはわかりませんが召し上がってくださいね。」
祖母の一声でしんとした空気が一気にほんわり温かくなる。
机には、ハートの型抜きクッキーにフルーツのタルト、ほうれん草とベーコンのキッシュなど、カフェ顔負けのラインナップが綺麗に並べられていた。
ドアが開き、出てきた祖母は雪菜さんの言葉通り変わらない様子だった。
穏やかな話し方と明るい口調が俺の緊張を解かしてくれる。
「ただいま、すみれさん。…うん、紹介するね。こちらが秋月由良さん。」
「はじめまして、幹斗の祖母です。いつも幹斗がお世話になっています。」
「初めまして、秋月由良です。幹斗君とお付き合いをさせていただいています。粗末なものですが、お納めください。」
祖母が手を差し出すと、由良さんは彼女と握手を交わしてからお土産の紙袋を差し出した。
自然な立ち振る舞いと綺麗な笑顔に思わず俺の方が見惚れてしまう。
心なしか祖母の顔もほんのり赤い。
「まあ!栗羊羹!大好きなのよ、ありがとうございます。それにお煎餅まで。わざわざ気を遣わせてしまったかしら?」
「いえ、幹斗君と一緒に選んだので迷いませんでした。喜んでいただけて嬉しいです。僕もすみれさんとお呼びしても?」
“あらまあ”、と祖母が少女のように口に両手を当てながら驚きを浮かべる。
由良さんを前にしたらこの反応も無理はない。むしろこの状況で固まらないことがすごいなと思った。
「ええ、もちろん。むしろ歓迎だわ。さ、立ち話もなんですから、はいってくださいな。」
祖母に案内され中に入ると、内装が俺の記憶とかなり異なっていることに驚く。
リフォームをして二世帯住宅にしたのだと祖母が説明してくれた。
…そっか。俺がいない間に色々変わったんだな。
変化を少し寂しく思いながら廊下を進んでいく。
突き当たりのドアを開けると共に鼻をくすぐったお菓子の焼ける香りに、なぜだかひどく安心した。
帰省するといつも漂っていたその香りは、今も変わっていない。
「史明さん、幹斗がきましたよ。」
祖母の声を受け、腰掛けていた祖父がゆっくりと椅子から立ち上がった。
「よくきたな。元気でやってるか?」
「うん。史明さんは?」
「普通だ。」
言葉と共にゴツゴツした手がポンと俺の頭に置かれる。
難病にかかって普通なはずがないのに、祖父の様子があまりにいつも通りでなんだか泣きそうになってしまった。
寡黙な祖父は多くを語らない。
でも昔から、何かにつけてこうして俺の頭に励ますように手を置いてくれた。
「初めまして。幹斗の祖父です。」
「初めまして、秋月です。お会いできて光栄です。」
「私もだ。」
由良さんと挨拶をしている間も相変わらず祖父の反応はそっけない。
「準備ができたから皆さん座ってくださいな。秋月さんもお口に合うかはわかりませんが召し上がってくださいね。」
祖母の一声でしんとした空気が一気にほんわり温かくなる。
机には、ハートの型抜きクッキーにフルーツのタルト、ほうれん草とベーコンのキッシュなど、カフェ顔負けのラインナップが綺麗に並べられていた。
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