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第2部
帰省⑥
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「幹斗久しぶりー!相変わらず綺麗な顔してるねーあんた。うちの娘と結婚しない?」
数年ぶりに会った甥への態度としてこれはいかがなものだろうか…。
相変わらず元気な叔母の反応に、俺はため息を吐きかけて呑み込んだ。
「…パートナーの前で結婚とか、何言ってくれるの…。それよりどうしてここに?」
そもそも娘さん中学生でしょう、とはひとまず言わないでおく。
「そっか、パートナー……って、ちょっと!!」
「えっ、なに?」
突然雪菜さんに腕を引かれ、耳に口を近づけられた。
「…パートナーって、まさかその後ろにいる人じゃないよね?」
「他に誰が…?」
「男の人だとは聞いてたけど、芸能人がパートナーだなんて聞いてないから!!」
「…一般人だよ…。」
こんなに格好いい人が一般人なわけがないという気持ちはわかるが、恥ずかしいからそろそろ終わりにしてほしいし、ついでになぜここにいるのかも教えてほしい。
どうしていいか分からずに俺が固まっている間に、由良さんがゆっくりとこちらへ歩いてきて、雪菜さんにすっと名刺を差し出した。
「初めまして、秋月由良です。」
「人事部…ってことは、本当に芸能人じゃないんですね!?」
名刺を見た雪菜さんが驚いたように目を大きく見開く。
「まさか。お上手ですね。」
美しい顔立ちに平然と笑みを浮かべる由良さんはやっぱり格好良くて、男勝りな雪菜さんですら顔をわずかに赤く染めていた。
「幹斗がいつもお世話になっています。とりあえず乗ってください。歩くには遠いので送ります。」
「感謝します。よろしくお願いします。」
…そっか。俺たちのことを迎えにきてくれたのか。
雪菜さんに促され彼女の車に乗る。
俺は助手席に、由良さんは後ろに。
そういえば雪菜さんの家に行くのは高校生以来で、どう行くのかを覚えていないから迎えにきてくれてよかった。
「…雪菜さん、史明さんの体調は?」
「元気だよ。それに薬も飲んでるから安心して。幹斗にあったら余計に元気になるんじゃないかなあ?」
「よかった。…すみれさんは…?」
「ああ、お母さんはめちゃくちゃ元気。むしろ幹斗が来るのに興奮して今ケーキとキッシュ焼いてるよ。お父さんとお母さん以外はこれから泊まりで旅行に行くから、気にせずゆっくりしてね。」
運転中の雪菜さんに気になっていたことを横から尋ね、祖父母が元気だと返ってきたからひとまず安心して息を吐く。
「ありがとう、気を遣わせちゃってごめんなさい。」
「なーに言ってんの!幹斗が会いに来るって言ってお母さんもお父さんもあんなに喜んでたんだから、むしろこっちがありがたいくらいだよ。…あっ、でも賭けには負けそう。」
「賭け?」
「幹斗のパートナーがどんな人か。」
ころころと雪菜さんの明るい笑い声が車内に響き渡った。
…まったく、何をしてるんだこの人は。
思わずふっと笑みが溢れる。
「あはは、2人とも何に賭けたの?」
しかし俺が笑ったのを見た雪菜さんはなんとも言い難いとても不思議そうな表情を浮かべた。
「…笑った…。」
「普通に笑うけど…?」
ぽかんと口を開けた俺の頭を彼女が雑にくしゃくしゃと撫でる。
「そっか、普通に笑うのか。…そっか。」
なんでちょっと泣きそうな顔で笑っているのかは分からなかったけれど、彼女が幸せそうだから俺も嬉しくなった。
今日は普段彼女と会う時よりもずっと多くのことを話している気がする。
車の中で雪菜さんと俺は色々なことを話し、由良さんは俺たちに気を遣ったのかずっと寝たふりをしてくれていた。
由良さんは座って眠る時決まって左手の指輪に右手で触れるから、空寝をしているとすぐにわかる。
一緒に暮らし始めてから知ったことだ。
きっと彼自身も気づいていない。
数年ぶりに会った甥への態度としてこれはいかがなものだろうか…。
相変わらず元気な叔母の反応に、俺はため息を吐きかけて呑み込んだ。
「…パートナーの前で結婚とか、何言ってくれるの…。それよりどうしてここに?」
そもそも娘さん中学生でしょう、とはひとまず言わないでおく。
「そっか、パートナー……って、ちょっと!!」
「えっ、なに?」
突然雪菜さんに腕を引かれ、耳に口を近づけられた。
「…パートナーって、まさかその後ろにいる人じゃないよね?」
「他に誰が…?」
「男の人だとは聞いてたけど、芸能人がパートナーだなんて聞いてないから!!」
「…一般人だよ…。」
こんなに格好いい人が一般人なわけがないという気持ちはわかるが、恥ずかしいからそろそろ終わりにしてほしいし、ついでになぜここにいるのかも教えてほしい。
どうしていいか分からずに俺が固まっている間に、由良さんがゆっくりとこちらへ歩いてきて、雪菜さんにすっと名刺を差し出した。
「初めまして、秋月由良です。」
「人事部…ってことは、本当に芸能人じゃないんですね!?」
名刺を見た雪菜さんが驚いたように目を大きく見開く。
「まさか。お上手ですね。」
美しい顔立ちに平然と笑みを浮かべる由良さんはやっぱり格好良くて、男勝りな雪菜さんですら顔をわずかに赤く染めていた。
「幹斗がいつもお世話になっています。とりあえず乗ってください。歩くには遠いので送ります。」
「感謝します。よろしくお願いします。」
…そっか。俺たちのことを迎えにきてくれたのか。
雪菜さんに促され彼女の車に乗る。
俺は助手席に、由良さんは後ろに。
そういえば雪菜さんの家に行くのは高校生以来で、どう行くのかを覚えていないから迎えにきてくれてよかった。
「…雪菜さん、史明さんの体調は?」
「元気だよ。それに薬も飲んでるから安心して。幹斗にあったら余計に元気になるんじゃないかなあ?」
「よかった。…すみれさんは…?」
「ああ、お母さんはめちゃくちゃ元気。むしろ幹斗が来るのに興奮して今ケーキとキッシュ焼いてるよ。お父さんとお母さん以外はこれから泊まりで旅行に行くから、気にせずゆっくりしてね。」
運転中の雪菜さんに気になっていたことを横から尋ね、祖父母が元気だと返ってきたからひとまず安心して息を吐く。
「ありがとう、気を遣わせちゃってごめんなさい。」
「なーに言ってんの!幹斗が会いに来るって言ってお母さんもお父さんもあんなに喜んでたんだから、むしろこっちがありがたいくらいだよ。…あっ、でも賭けには負けそう。」
「賭け?」
「幹斗のパートナーがどんな人か。」
ころころと雪菜さんの明るい笑い声が車内に響き渡った。
…まったく、何をしてるんだこの人は。
思わずふっと笑みが溢れる。
「あはは、2人とも何に賭けたの?」
しかし俺が笑ったのを見た雪菜さんはなんとも言い難いとても不思議そうな表情を浮かべた。
「…笑った…。」
「普通に笑うけど…?」
ぽかんと口を開けた俺の頭を彼女が雑にくしゃくしゃと撫でる。
「そっか、普通に笑うのか。…そっか。」
なんでちょっと泣きそうな顔で笑っているのかは分からなかったけれど、彼女が幸せそうだから俺も嬉しくなった。
今日は普段彼女と会う時よりもずっと多くのことを話している気がする。
車の中で雪菜さんと俺は色々なことを話し、由良さんは俺たちに気を遣ったのかずっと寝たふりをしてくれていた。
由良さんは座って眠る時決まって左手の指輪に右手で触れるから、空寝をしているとすぐにわかる。
一緒に暮らし始めてから知ったことだ。
きっと彼自身も気づいていない。
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