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第2部

前夜③

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インクを一滴水面に落とした時みたいに、彼の手や唇が触れた部分からじんじんと熱が広がっていき、身体中を支配する。

でも、まだ本当に欲しい部分には彼の指の一本すら施されていない。

もうおかしくなってしまう。お願い、触れて。

生理的な涙で視界がぼやける中、上擦った声で喘ぎながら必死に目で訴える。

「君は僕を煽る天才だね。」

熱っぽい声で由良さんが紡ぐとともに、覆いかぶさるようにして組み敷かれた。

目の前に映し出された男の人間離れした美しさに、心臓がまたどくりと脈打つ。

そのまま鼓動は加速して、またいつものように苦しいほど強く血流を送り出す。

「ぁっ…。」

由良さんの手が俺の腹部を滑りトランクスごとパジャマをずり下ろした。

反射的に隠そうとした腕は由良さんの手によっていとも簡単に捕捉されて、その手の感触はもう痛いほど俺の身体に刻まれているから、少し腹部に触れただけでも自然と甘い声が漏れる。

ローションを纏った指先が蕾に当てられればもう、触れられていない方の性器が熱を外に放出しそうなほどはっきりと主張を始めてしまった。

「うぅっ…。」

あまりの恥ずかしさにうめく俺の頭を由良さんが優しく撫でてくれる。

恥ずかしいことには変わりないけれど、その手の温もりはこれでいいのだといつも俺を安心させてくれる。

「痛くない?苦しくない?」

声とともにゆっくりと俺の中に入ってきたその場所を熟知した長い指は、すぐに俺の中の感じる部分を探り当て、緩く引っ掻いた。

「あぁっ…。」

この刺激にもいつまで経っても慣れず、されるたび花火が弾けたような快感に晒されて脳がおかしくなる。

「もう一本入れるよ。辛くなったらすぐ言ってね。」

だから、辛いわけ、ないのに…。

ひどく優しいその行為は、時々少しもどかしい。

2本の指が中を広げるように大きく動き、淫猥な音を響かせながら感じる部分を執拗に刺激する。

蓄積された熱は中に留めておけないほどに大きくなり、やがて解放を求めて中心に向かって迫り上がって。

「くるしっ…ないっ…、いっちゃっ…。」

「いいよ。一度出しておこうか。かわいい、幹斗。」

「んっ、あっ、…あぁっ…!!」

幹斗、と艶っぽい声に鼓膜を震わされたのを引き金に盛大に白濁を散らしてしまった。

同時に由良さんの指が引き抜かれる。

勢いよく吐き出されたそれの断片は、あろうことか由良さんの顔にまで及んでしまった。
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