強く握って、離さないで 〜この愛はいけないと分かっていても、俺はあなたに出会えてよかった〜 

沈丁花

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第2部

手紙④

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最近では偏見も減ったけれど、それでもセクシャルマイノリティーという事実は消えていないわけで。

それに、祖父母の世代では多分、まだ広く受け入れられる恋愛観ではなかった。

祖母が静かに息を吸う音が聞こえ、緊張に身がすくむ。

「…何よ、実はそんな人いないんだって言われるんじゃないかと冷や冷やしたでしょう。好きなんでしょう?その人のこと。」

しかし聞こえてきた言葉は予想外に温かく、そしておそらく電話口で祖母は微笑んでいた。

「えっ?…あ、うん、好き…。」

“まあ”、とまるで10代の少女のような声で祖母がはしゃぐのが聞こえてくる。

「じゃあいいじゃないの。2人で来なさい。理想の高い貴方が決めた人なら、どんなに素敵な人でしょうね。」

「えっ、高くないよ…。」

「会って判断してあげるわ。」

「それは困る…すごく素敵な人だから…。」

「ほらやっぱり。ねえ、史明さん、幹斗からよ。今度帰ってくるんですって、嬉しいわねぇ。」

俺、何を悩んでたんだっけ…。

楽しそうな祖母の声に毒気を抜かれ、唖然とした。

「幹斗、久しぶりだね。大学はどうだ?」

いつの間にか、聞こえる声が祖父のものに変わっている。

“学校では何をしているのか”、“体調はどうか”、“いつ帰ってこられるのか”、そんなありふれた話をする中で、祖父が時折こんこんと咳き込む音だけがやけに生々しく響き、切ない思いが込み上げた。

電話では泣くのを我慢したけれど、結局、切れてからは涙が溢れ出してきて。

「幹斗君、よく頑張ったね。」

いつの間にか隣に来ていた由良さんが、優しく身体を抱きしめてくれる。

「…帰りたい。2人に、会いたいです…。」

泣きながら、幼児おさなごのようにわがままを言って縋った。

「うん、一緒に帰ろう。明日?それとも今度の土日にする?」

綿菓子のような声が鼓膜を震わせ、俺の不安を包み込んでくれる。

その声に安心したせいでまた涙腺が緩んでしまい、滝のようにあふれ出す涙を止められない。

「土日にっ…、するっ…。」

「うん、じゃあそうしよう。ほら、そんなに泣いたら苦しいでしょう?」

言葉とともに長く綺麗な指が俺の涙を拭って、そのまま紫紺の瞳をじっと見つめさせられた。

放たれたどこまでも甘いglareに、段々と緊張が解け、心が落ち着いていく。

「いい子。良くできたね。上手。」

泣き止むと、頭を撫でられ唇にキスを落とされて。

軽い口付けは由良さんの温もりをじんわりと俺の身体に伝播させ、俺はただひたすらに、その温もりに溺れた。
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