強く握って、離さないで 〜この愛はいけないと分かっていても、俺はあなたに出会えてよかった〜 

沈丁花

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第2部

手紙③

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「本当に大丈夫?」

心配そうに見つめてくる由良さんに大丈夫ですと笑いかけ、別の部屋に向かう。

由良さんは2人の問題だと言っていたけれど、思い返せばやはり俺のせいだった。

同居を始める前に由良さんが挨拶に行こうと言ってくれた時、確か俺が大丈夫だと止めた気がする。

だから電話は1人ですることにした。

問題を長引かせたのは俺なのに、由良さんに一緒にしてもらうのはおかしい。

それ以前に俺は由良さんに頼りすぎている節がある。由良さんがなんと言おうとこのくらいは自分で乗り切るべきだ。

スマホを取り出しダイヤルボタンを押すも、番号を打ち込む手が震える。

ただ祖父の容態を聞いてパートナーが男性であることを伝えるだけ。

それだけなのに、それだけのことがとてつもなく怖い。

なんとか番号を打ち終え、るるる、と待機音が響いた。

ああ、怖い。もし出なかったら、先延ばしになるのが怖い。果たして俺はもう一度かけることができるのだろうか。

でも、祖母が出てしまったら由良さんのことを話さなくてはならないし、手紙の内容が嘘でないことも確定してしまう。それも怖い。

無機質な待機音の切れ目のたびに電話が取られたのかと身構えて、手が震え、肩が小さく跳ねて。

「もしもし、幹斗。どうしたの?」

10回目のコール音、そろそろ諦めかけた時、コールが途中で切れ、聞き慣れた祖母の声が穏やかに向こうから響いてきた。

「あの、すみれさん…。俺、話さなきゃいけないことがあって…。」

「声が震えているわね。史明さんの話を聞いたからかしら?大丈夫よ。今はまだ少し呼吸が苦しいくらいだから。それとも、あなたに良くないことが起こったの?」

祖母の言葉に、血の気がさぁっと引いていく。

史明さんとは祖父の名前だ。やっぱり嘘じゃなかったんだ。勘違いならよかったのに。

…って、そうじゃない。俺が電話したのは、ちゃんと伝えるためだ。

足踏みしたところで病気の進行は止まってくれない。だから、早く会えるように伝えなくちゃ。

握りしめた拳を胸に当て、とんとんと叩いて言葉を促す。

「…あのさ、俺と一緒に住んでる人のことなんだけど…。」

「ええ。その人がどうかしたの?」

相変わらず穏やかなままの祖母の声。

ああ、苦しいな。いつだって、本当のことを言うのには勇気がいる。

「…男の人なんだ。」

電話の向こうからは返答がない。

気まずい沈黙に、俺は唇を噛んだ。
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