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第2部
それから①
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「…。」
月曜日朝、学校に行く用意を終えてドアに手をかけた俺は、また手が強張って動けなくなってしまった。
御坂はもう俺に何もしてこないだろうし、仙波君は休学申請をしてすでに実家に戻っているという。
だから今こうしてドアの前で怯えていることはまったくもって意味を為さない。
昨日の夜由良さんに今日から学校に行くと宣言して、たくさん褒めてもらって甘やかしてもらったばっかりなのに、自分が情けなくなる。
深呼吸をしてもう一度開けようとすると、突然嘘のように簡単にドアが開いた。
驚いて見上げた先には目を細めてほほえむ由良さんの顔がある。
「ひとりで行こうとしていたの?研究棟の前まで一緒に行こう。」
時刻は午前8時前。今日は午後から引き継ぎの手続きをしに行くだけだと言っていたのにわざわざ彼は私服に着替えていて、俺の背中を優しく押してドアの外に連れ出してくれた。
「あのでも、…せっかく午前中お休みなのに…。」
「せっかく休みだから少しでも幹斗君と一緒にいたい。だめかな?」
「あ、の、…それは…。」
答えに詰まって視線を泳がせる。
いちいち聞き方がずるいし、何より格好良すぎてずるい。
俺が少しでも苦しんでいるとエスパーみたいにすぐに理解してくれて、こうして手を差し伸べてくれるなんて、完璧すぎる。
「行こうか。」
なんと答えようか考えているうちに由良さんが俺と手を繋いで、彼の優しさに泣きそうになりながら俺は黙って手を引かれた方向に歩みを進めた。
「怖い?」
「…少し。」
「それでいいよ。もしもどうしてもだめだと思ったらすぐに連絡して。いつでも必ず行くから。」
「…ありがとうございます…。」
「うん。こちらこそいつも僕と一緒にいてくれてありがとう。」
「…!!」
歩きながら由良さんが話を振ってくれて、俺もそれにたじたじと答える。
話しているうちに彼のことで頭がいっぱいになって、学校に行くことへの恐怖は無くなった。
「…じゃあ、行ってきます。」
研究棟の前に着いてしまい、躊躇いながらも繋いだ手を離す。
「本当に辛くなったらいつでも呼んでね。」
爽やかに微笑んで由良さんが言った。
俺に向けてまたねと手を振る仕草すら異様に格好良くて、ここは学校なのに思わずぼうっと見惚れてしまう。
さっきまでその手が自分の繋がれていたのだと思うと寂しさを感じ、まだ少し彼の温もりが残った自分の手のひらについ目をやってしまった。
こんなに暑いのに、彼の温もりだけは消えないで欲しい。
「!?」
突然手を掴み身体を引き寄せられ、かと思うと額に淡雪のようにやさしい口づけを落とされた。
あたりには誰もいない。
そのことに安堵しながら、突然与えられた甘美な刺激に身体が熱くなる。強く拍動を始めた心臓がうるさい。
由良さんの端正な顔立ちがこんなにも近いせいだ。
glareを放っているわけでもないのに、彼の瞳はどうしてこうも俺の心を乱すのだろう。
「じゃあ、応援しているよ。またね。」
悪戯っぽく言いながらいつのまにか手が離れ彼が去っていき、俺はしばらくぼうっとしたまま彼の後ろ姿を見送っていた。
…ずるい。
これから学校だと言うのに、こんなふうにしたら由良さんのことしか考えられなくなってしまうではないか。
…それもいいか。幸せだから。
月曜日朝、学校に行く用意を終えてドアに手をかけた俺は、また手が強張って動けなくなってしまった。
御坂はもう俺に何もしてこないだろうし、仙波君は休学申請をしてすでに実家に戻っているという。
だから今こうしてドアの前で怯えていることはまったくもって意味を為さない。
昨日の夜由良さんに今日から学校に行くと宣言して、たくさん褒めてもらって甘やかしてもらったばっかりなのに、自分が情けなくなる。
深呼吸をしてもう一度開けようとすると、突然嘘のように簡単にドアが開いた。
驚いて見上げた先には目を細めてほほえむ由良さんの顔がある。
「ひとりで行こうとしていたの?研究棟の前まで一緒に行こう。」
時刻は午前8時前。今日は午後から引き継ぎの手続きをしに行くだけだと言っていたのにわざわざ彼は私服に着替えていて、俺の背中を優しく押してドアの外に連れ出してくれた。
「あのでも、…せっかく午前中お休みなのに…。」
「せっかく休みだから少しでも幹斗君と一緒にいたい。だめかな?」
「あ、の、…それは…。」
答えに詰まって視線を泳がせる。
いちいち聞き方がずるいし、何より格好良すぎてずるい。
俺が少しでも苦しんでいるとエスパーみたいにすぐに理解してくれて、こうして手を差し伸べてくれるなんて、完璧すぎる。
「行こうか。」
なんと答えようか考えているうちに由良さんが俺と手を繋いで、彼の優しさに泣きそうになりながら俺は黙って手を引かれた方向に歩みを進めた。
「怖い?」
「…少し。」
「それでいいよ。もしもどうしてもだめだと思ったらすぐに連絡して。いつでも必ず行くから。」
「…ありがとうございます…。」
「うん。こちらこそいつも僕と一緒にいてくれてありがとう。」
「…!!」
歩きながら由良さんが話を振ってくれて、俺もそれにたじたじと答える。
話しているうちに彼のことで頭がいっぱいになって、学校に行くことへの恐怖は無くなった。
「…じゃあ、行ってきます。」
研究棟の前に着いてしまい、躊躇いながらも繋いだ手を離す。
「本当に辛くなったらいつでも呼んでね。」
爽やかに微笑んで由良さんが言った。
俺に向けてまたねと手を振る仕草すら異様に格好良くて、ここは学校なのに思わずぼうっと見惚れてしまう。
さっきまでその手が自分の繋がれていたのだと思うと寂しさを感じ、まだ少し彼の温もりが残った自分の手のひらについ目をやってしまった。
こんなに暑いのに、彼の温もりだけは消えないで欲しい。
「!?」
突然手を掴み身体を引き寄せられ、かと思うと額に淡雪のようにやさしい口づけを落とされた。
あたりには誰もいない。
そのことに安堵しながら、突然与えられた甘美な刺激に身体が熱くなる。強く拍動を始めた心臓がうるさい。
由良さんの端正な顔立ちがこんなにも近いせいだ。
glareを放っているわけでもないのに、彼の瞳はどうしてこうも俺の心を乱すのだろう。
「じゃあ、応援しているよ。またね。」
悪戯っぽく言いながらいつのまにか手が離れ彼が去っていき、俺はしばらくぼうっとしたまま彼の後ろ姿を見送っていた。
…ずるい。
これから学校だと言うのに、こんなふうにしたら由良さんのことしか考えられなくなってしまうではないか。
…それもいいか。幸せだから。
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