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第2部
捧げる愛⑤
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彼の身体は彼のものであるのに、それを彼自身が全くコントロールできてないように思える。
何か大きな黒い影が彼を覆っていて、それが彼を呑み込んでしまうような気さえした。
どうやって止めればいいのだろうか。
動揺を彼に悟られないように注意しながらひとまず彼を家の中に入れ、ドアを閉めて抱きしめた。
幹斗君は呼吸とともに激しく肩を上下させ、自分でも何が起こったのか理解できずパニックになっている様子だ。バッドトリップしたSubの状態によく似ている。
「幹斗、大丈夫だよ。もう外には出ないからね。ゆっくり吐いて。…そう、上手。リビングに行こうか。」
言葉をかけ、背中をさすりながら弱いglareを放つ。
収縮し切った瞳孔が緩み、少しずつ上下する肩の動きが落ち着いてきた。
玄関までは大丈夫だった…ということは問題はこの家の外に出たことだろうか。
外に出るのすら躊躇うほどの恐怖…。
彼に刻まれた傷は、身体にだけではなかったのだろう。
きっと身体よりずっと心の方がずたずたに引き裂かれた。
精神的な苦痛が身体的なものより苦しいことを僕はもうずっと前から知っている。
いっそ死んでしまいたいと、そんな気力すら起こらないほどの絶望を。
手を繋いでリビングへ戻り、結局食事はてきとうに済ませた。
お風呂も一緒で、トイレもドアの前までは一緒で。
collarを取る行為を激しく嫌がったから、お風呂はcollarをつけたままで入らせた。
髪を乾かして水を飲ませて歯を磨いて、その行為全てを彼は僕に委ねてくれた。
普段僕に気を遣ってばかりの彼が一日中僕の横にいて、僕の与える行為だけを受け取り、僕だけを必要としてくれる。そのことで皮肉にも自分の中のDom性がどんどん満たされていくのを感じる。
それに、この家だけで世界が完結する1日は、彼と離れて過ごしていた1ヶ月間ずっと彼に会いたいと願っていた僕にとって本望なはずだった。
けれど彼を蝕む傷の深さを考えればやっぱり苦しくて。
ゆっくりと時間をかけて愛で包み込んで、その傷を塗り替えてあげたいと願った。
また彼が笑ってくれるように。
何か大きな黒い影が彼を覆っていて、それが彼を呑み込んでしまうような気さえした。
どうやって止めればいいのだろうか。
動揺を彼に悟られないように注意しながらひとまず彼を家の中に入れ、ドアを閉めて抱きしめた。
幹斗君は呼吸とともに激しく肩を上下させ、自分でも何が起こったのか理解できずパニックになっている様子だ。バッドトリップしたSubの状態によく似ている。
「幹斗、大丈夫だよ。もう外には出ないからね。ゆっくり吐いて。…そう、上手。リビングに行こうか。」
言葉をかけ、背中をさすりながら弱いglareを放つ。
収縮し切った瞳孔が緩み、少しずつ上下する肩の動きが落ち着いてきた。
玄関までは大丈夫だった…ということは問題はこの家の外に出たことだろうか。
外に出るのすら躊躇うほどの恐怖…。
彼に刻まれた傷は、身体にだけではなかったのだろう。
きっと身体よりずっと心の方がずたずたに引き裂かれた。
精神的な苦痛が身体的なものより苦しいことを僕はもうずっと前から知っている。
いっそ死んでしまいたいと、そんな気力すら起こらないほどの絶望を。
手を繋いでリビングへ戻り、結局食事はてきとうに済ませた。
お風呂も一緒で、トイレもドアの前までは一緒で。
collarを取る行為を激しく嫌がったから、お風呂はcollarをつけたままで入らせた。
髪を乾かして水を飲ませて歯を磨いて、その行為全てを彼は僕に委ねてくれた。
普段僕に気を遣ってばかりの彼が一日中僕の横にいて、僕の与える行為だけを受け取り、僕だけを必要としてくれる。そのことで皮肉にも自分の中のDom性がどんどん満たされていくのを感じる。
それに、この家だけで世界が完結する1日は、彼と離れて過ごしていた1ヶ月間ずっと彼に会いたいと願っていた僕にとって本望なはずだった。
けれど彼を蝕む傷の深さを考えればやっぱり苦しくて。
ゆっくりと時間をかけて愛で包み込んで、その傷を塗り替えてあげたいと願った。
また彼が笑ってくれるように。
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