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第2部
捧げる愛①
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(由良side)
1ヶ月ぶりに会った恋人は変わらず美しくて、けれど頬や肩、腕などその身体の至る所に血のような赤が付いていた。
いつも僕をみて少し恥ずかしそうに潤む檜皮色の瞳は瞳孔が収縮し切って、口からは壊れたように謝罪の言葉が溢れ出して。
バッドトリップしているのだとすぐに分かった。
望まないプレイを強要され続けると、Subはパニックを起こしたり感情が無になるバッドトリップ状態に陥る。
そして今の幹斗君がそれだった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ… 」
頬についた緋色の物体が蝋であることを悟り、怒りが募る。一体誰がこんなことを。もちろん彼が望むわけがない。
commandで何があったかを聞き出すことは可能だが、今それをしたら症状が悪化してしまう。バッドトリップから引き戻すのが先だ。長く続けば精神が壊れたまま元に戻らなくなることだってある。
「幹斗君は悪くない。わかるよ。だから落ち着いて。」
言い聞かせながら彼の身体を抱きしめたら、ひどく震えていることがわかって少し焦った。
繰り返される謝罪の言葉は、まるで僕に捨てないでと言っているように聞こえる。
…捨てるわけがない。むしろ彼から離れられないのは僕の方なのに。
彼の顎に手を伸ばし、ゆっくりと上を向かせてglareを注いだ。
とびきり甘いglareを。愛していると伝わるように。
幹斗君の身体から一瞬力が抜けて、彼の瞳が柔らかに細められた。
しかし彼はすぐにまた硬直し、ごめんなさいを繰り返し始める。
…どうして。
明らかに幹斗君は被害者だ。手足についた拘束跡は、抵抗しなければこんなにくっきり浮かばない。
そもそも蝋を顔に垂らすなんて正気じゃない。
彼が悪くないのは自明だった。どうして謝るのか。
シルクのような肌にもし火傷の跡が残ったのなら、僕は絶対にその相手を許さない。
…いや、幹斗君をこんな状態に追い込んだ時点で、その人たちは地獄に落ちればいいと思うけれど。
僕のglareでもバッドトリップ状態から抜け出すことができずにただひたすら謝り続ける彼を、きつく抱きしめながら、彼の耳元で声をかけ続けた。
「幹斗は悪くない。大丈夫、愛してるよ。もう苦しまないで。僕がそばにいるから… 」
どうか伝わりますように。
そう強く願う。
ただ、愛していると。
どれくらいそうしていただろうか。
声が枯れても咳込みながら謝り続ける彼に、僕ができることは声をかけて頭を撫でて、抱きしめてやることだけで。
次第にその声が小さくなって、ある瞬間、彼の身体からぱたりと力が抜けた。
まるでスイッチが切れたみたいに。
1ヶ月ぶりに会った恋人は変わらず美しくて、けれど頬や肩、腕などその身体の至る所に血のような赤が付いていた。
いつも僕をみて少し恥ずかしそうに潤む檜皮色の瞳は瞳孔が収縮し切って、口からは壊れたように謝罪の言葉が溢れ出して。
バッドトリップしているのだとすぐに分かった。
望まないプレイを強要され続けると、Subはパニックを起こしたり感情が無になるバッドトリップ状態に陥る。
そして今の幹斗君がそれだった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ… 」
頬についた緋色の物体が蝋であることを悟り、怒りが募る。一体誰がこんなことを。もちろん彼が望むわけがない。
commandで何があったかを聞き出すことは可能だが、今それをしたら症状が悪化してしまう。バッドトリップから引き戻すのが先だ。長く続けば精神が壊れたまま元に戻らなくなることだってある。
「幹斗君は悪くない。わかるよ。だから落ち着いて。」
言い聞かせながら彼の身体を抱きしめたら、ひどく震えていることがわかって少し焦った。
繰り返される謝罪の言葉は、まるで僕に捨てないでと言っているように聞こえる。
…捨てるわけがない。むしろ彼から離れられないのは僕の方なのに。
彼の顎に手を伸ばし、ゆっくりと上を向かせてglareを注いだ。
とびきり甘いglareを。愛していると伝わるように。
幹斗君の身体から一瞬力が抜けて、彼の瞳が柔らかに細められた。
しかし彼はすぐにまた硬直し、ごめんなさいを繰り返し始める。
…どうして。
明らかに幹斗君は被害者だ。手足についた拘束跡は、抵抗しなければこんなにくっきり浮かばない。
そもそも蝋を顔に垂らすなんて正気じゃない。
彼が悪くないのは自明だった。どうして謝るのか。
シルクのような肌にもし火傷の跡が残ったのなら、僕は絶対にその相手を許さない。
…いや、幹斗君をこんな状態に追い込んだ時点で、その人たちは地獄に落ちればいいと思うけれど。
僕のglareでもバッドトリップ状態から抜け出すことができずにただひたすら謝り続ける彼を、きつく抱きしめながら、彼の耳元で声をかけ続けた。
「幹斗は悪くない。大丈夫、愛してるよ。もう苦しまないで。僕がそばにいるから… 」
どうか伝わりますように。
そう強く願う。
ただ、愛していると。
どれくらいそうしていただろうか。
声が枯れても咳込みながら謝り続ける彼に、僕ができることは声をかけて頭を撫でて、抱きしめてやることだけで。
次第にその声が小さくなって、ある瞬間、彼の身体からぱたりと力が抜けた。
まるでスイッチが切れたみたいに。
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