強く握って、離さないで 〜この愛はいけないと分かっていても、俺はあなたに出会えてよかった〜 

沈丁花

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第2部

それぞれの悩み④

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「あーもーやめよ!!パートナーの話しようパートナーの!!俺今年中に結婚すんだってー!!」

静寂に耐えきれなくなったらしい谷津が突然声を上げた。

パートナーの話。それなら平和だ…って、彼は今なんて言った?確か結婚って…。

「おめでとう。式はするの?」

東弥が優しく目を細めて言いながら、手を二回ぱちぱちと叩いた。

「ありがとー!もちろんするよ。20人くらい呼ぶんだってー!幹斗と東弥も来てね!!」

聞き違いかと思ったが、どうやらそうではなかったらしい。

結婚か。俺と東弥には関係ないことだけれど、俺たちももうそんな歳なんだな、としみじみ思う。

「おめでとう。仲良さそうでよかった。」

「うん!幹斗もありがとう!めっちゃ仲良いよー!昨日もマキちゃんが俺のこと縛っ…んぐぐぐっ…!!何すんの!!」

またもや谷津がプレイについて大声で話しそうだったので、慌てて口を塞ぐ。

「…ここは外です。」

「…はーい。ごめんなさーい…。」

案外素直に謝るところが憎めない。

谷津は一旦しょぼんとしたあと、俺を見てまたキラキラと目を輝かせた。

「幹斗の話ってあんまり聞かないけどさ、由良さんと幹斗ってどれくらいしてるの?」

…前言撤回。俺に話を回してくるなんて反則だ。谷津に冷たい視線を向ける。

「あっ、それ俺も聞きたいな。」

しかも珍しく東弥までが興味を示してきたので、引くに引けなくなってしまった。

「…プレイの方?それとも夜の方…?」

「「どっちも」」

「えっ…と、プレイは月1回とかで、夜は…次の日がお互いに休みなとき…?」

顔を真っ赤にしながら言うと、2人は驚いたように目を瞬かせた。

えっ、何俺なんか変なこと言ったかな?

「思ったより夜してんだねー!!幹斗そういうのしなそうなのに。」

しばらくの沈黙の後谷津が小声で紡ぐ。

「プレイの数は少ないけど、夜は結構…。」

東弥もしみじみとうなずいてそう続けた。

「えっ、じゃあ2人はどのくらいなの?俺そんなにしてるかな…?」

いつのまにか来ていたメロンソーダを一気飲みして、その勢いで聞いてみる。

他人の情事について聞くなんて恥ずかしいが、俺も聞かれたから聞き返しても許されるだろう。

「いや、俺は普通にプレイもあっちもしない日の方が少ないよー!だってマキちゃん可愛いし。でもマキちゃんが体調悪い時はしない!」

「プレイは週一かな。あっちは大体毎日。静留が夜甘えてくるとつい…。」

…おかしい。明らかにおかしい。

「じゃあ2人とも俺よりしてるでしょう…。」

「だって幹斗が抱かれてる姿とか想像できない。」

「だよね。」

「しなくていいから!」

食い気味に否定したあとですぐに食事が運ばれてきて、それを境にあとは取り止めのない話をした。

授業の話とか、会社の話とか、研究室の話とか。



「…あれ、幹斗あの子知り合い?」

会計の時に谷津に尋ねられ、彼の言う方を見ると例の後輩がいた。

「うん、研究室の後輩。どうして?」

「…いや、さっきめっちゃ幹斗のこと見てたからさ。ちょっと目つき怖いし。」

「…なるほど…。」

彼は一人で来ているようで黙々と豚カツを食べている。

きっと視界に俺が入って不快だっただろうな。

「幹斗はひとつも悪くないんだから、気にしちゃだめだよ。」

思わず俯いてしまっていたらしく、東弥がなだめてくれた。

「うん、ありがとう。じゃあまたね。」

「うん。」

「また会おーね!!」

2人にまたねを告げて家路につく。

街灯に照らされた夜道は明るい。

…あれ?

何か視線を感じ、辺りを見回したが誰もいなかった。

まあ多分あのDomのせいで少し神経質になっているだけだろう。

今日は本当に良い日だった。

帰宅して、いったんソファーに背中を預ける。

正直色々うまくいかないし由良さんとは会えないしで落ち込んでいたが、2人と話せてよかった。

今はもうそこまで苦しくない。

みんな口には出さないけれど、それぞれが違う悩みを同じように抱えている。そうわかったから、また前向きに頑張れるような気がした。
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