強く握って、離さないで 〜この愛はいけないと分かっていても、俺はあなたに出会えてよかった〜 

沈丁花

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第2部

胸騒ぎ①

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朝起きて、由良さんと自分のお弁当と朝ごはんを作って、途中で由良さんが起きてきてゴミ捨てや床掃除をして。

「今日は一緒に出たいです。」

向かい合わせに座って朝食を食べながら言ったら、由良さんの綺麗な唇が柔らかに弧を描いた。

その様子がとても艶美で、彼を見ていると常に心臓が早くなる。

「本当?幹斗君といられる時間が長くなって嬉しいよ。」

…その顔でこんな甘い台詞を言うのは反則だ。

「えっ…と、俺も、由良さんとたくさんいれるのが、その、嬉しいです… 」

しどろもどろになる俺を見ながら、彼は楽しげに藍の瞳を細める。

「このサラダのドレッシング、とてもさっぱりしていて美味しいね。」

「梅干しを使ってみたんです。よかった、気に入ってもらえて。」

「幹斗君は本当に料理上手だ。」

「ふふっ、ありがとうございます。」

ご飯を作ると彼はいつも何かと褒めてくれて、それがくすぐったい。

食事を終えて俺は学校に、由良さんは仕事に行くための支度をし、玄関先でキスを交わしてから同じ家に鍵をかける。

「少し曇っているけれど、涼しくていいね。」

あいかわらず車道側を歩きながら、彼が爽やかに言った。

「そうですね。風が気持ちいい。」

俺はそれに見惚れすぎないように気をつけながら歩みを進める。

「今日は一限?」

「いえ。でも、朝に実験の準備をしてしまおうと思って。」

「そう。偉いね。」

こう言う些細な会話でも褒めてくれて、そういうところも好きだ。大人になるにつれて褒められる機会が少なくなると言うが、由良さんと出会ってからは毎日褒め言葉をもらえるようになった。

穏やかで優しくて完璧な性格で顔もいいなんていつ見てもずるいと思うし、そんな人が自分のパートナーだなんて、と毎回心の中で惚気て見せたりする。

しかもプレイ中は大人の色気が半端ないし…いや、色気があるのはいつもか。

偉いね、と由良さんに言われたとき、口ではありがとうございますと小さく呟くくらいだが、実は心の中ではいつもこんな風に忙しくごちゃごちゃと考えてしまうのだ。彼が完璧すぎるのが多分90%くらい悪い。

由良さんの職場まで10分、俺の大学まで徒歩15分の距離は短くて、今日もすぐについてしまった。

「お仕事応援してます、由良さん。」

「うん、行ってきます。幹斗君も頑張って。」

「はい。」

「じゃあ。」

由良さんが手を振りながら爽やかにビルの中に消えていく。

今日も1日頑張ろう、と思いながら俺も手を振り返した。

「やあ、また会ったね。」

「?」

由良さんがいなくなって大学の方へ向かうところで、肩を掴まれ呼び止められた。

振り返ると、派手なスーツを纏った派手な顔立ちの男性が立っている。

…このひと、軽そうだしあんまり積極的には関わりたくないタイプだ。でもどこか見覚えが…。

「忘れちゃった?ほら、名刺渡したのに連絡くれないからさー、

…寂しかったよ。今日こそ食事でもどう?」

「!!」

突然彼の声が低くなり、俺の顎を掴みglareを放ってくる。

…いや待って、効かなくて怒られるのもきついけど、効くと動けなくなっちゃうんだけど。

そしてglareを放たれた瞬間に、その人が5日前俺が落とし物を届けたひとだと理解した。

「あの、…っ、やめてもらえませんか…。いくら男だとはいえ非常識ですよ。」

由良さん以外の人からglareを放たれるなんて、嫌悪感しかない。なのに俺の中のSub性が本能的に彼に怯えて身体を動けなくさせる。

「じゃあ連絡先教えてよ。正直好みなんだよね。一晩だけどう?」

やめろと訴えた俺の言葉は聞かず、さらにglareを強くしてそう言われた。

気持ち悪い…。

「すみませんこれから授業なので。」

「へえ、大学生なんだ?じゃあ大学名教えてくれたら帰すよ。Say言え. 」

「…◯◯大… 」

commandを放たれたので逆えずに言ってしまい、さらに気持ち悪い感覚が身体を巡る。

「なるほど、この近くなんだね。」

爽やかに笑った彼はやっと俺を離してくれた。

やはりこの人は少しまずい。今夜由良さんに朝一緒に行くのはやめようかなって相談してみよう。

由良さんと朝長くいられる大切な時間を奪われるのは心外だし、自意識過剰かもしれないが、何かとてつもなく嫌な予感がするから。
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