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続編記念ss3
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タクシーの中で聞いた話だと、今俺は熱が39度以上あるらしい。
由良さんに支えてもらいながらたった2階分の高さをエレベーターで上り、入るなりお姫様抱っこをされて洗面所に連れて行かれた。
…ああ、靴も揃えていないのに…。
「…すみません、お邪魔します… 」
せめて入り口でそう言うと、いらっしゃい、と間近で微笑まれてすでに熱い身体が余計に熱くなる。
子供のように由良さんに指示されるまま手洗いとうがいをし、喉が痛いことに今更気がついた。
「その格好だときついよね。僕の部屋着に着替えようか。」
「えっ、そ、そこまでしてもらうわけには…と言うより、俺帰ります!由良さんにうつしちゃ…わっ!」
勢いよく言ったらそのまま視界が眩んで躓いてしまい、由良さんに優しく支えられる。
「病人は大人しく世話されること。はい、ばんざい。」
「えっ、あのっ…わっ…… 」
glare混じりに“ばんざい”と言われて反射的に手を上げ、そのまま着ていた服を脱がされ由良さんのスウェットを上から被せられた。
流石に下は自分で履こうとしたが、glareを解いてもらえず結局由良さんに委ねる。
子供みたいで恥ずかしくて、でも洋服を着せてくれる由良さんは格好良い。
顔を真っ赤にしながら見惚れていたら、またお姫様抱っこで由良さんのベッドに連れて行かれて寝かされた。
由良さんはベッドのそばに椅子を持ってきて俺の隣に座ってくれる。
…由良さんのにおい、安心する…。
「幹斗君、ご飯は食べた?」
言いながら頭を撫でてくれる大きな手が心地いい。
「…まだ… 」
「何かお腹に入れないと薬飲めないから作ってくるね。うどんとおかゆどっちがいい?」
「そのくらいは自分で… 」
「だめだよ、ちゃんと寝てて。それでどっちがいい?」
「…うぅ…、おかゆでおねがいします…。」
「うん。作ってくるね。」
彼のベッドの上、彼の匂いに包まれていて、彼は同じ空間の中にいて、なのに由良さんが見えない位置に行った途端にどうしようもない寂しさに襲われた。
枕をぎゅっと抱きしめて布団にくるまり身体を抱え込む体勢になると、寂しさはいくらかマシになる。
熱を出したのなんて、“熱を出したら学校を休める”、と思っていた時期ぶりで、こんなにも心細くなるものなんだと驚いた。
こう言う時、ふとcollarを切られた直後のことを思い出す。
世界に自分だけが取り残されたような感覚。
もうきっとそんなことはないとわかっているのに、どうしてかひどく不安になって。
寝ていてと言われていても不安で眠ることができなかった。
目を閉じると悪いことばかり考えてしまうから、ヘッドボードに置いてあるデジタルフォトフレームを手に取ってみる。
中の写真は全て俺と一緒に撮ったもので、このフォトフレームはそれを飾るために買ったと言っていた。
これから増やそうね、と柔らかに笑った彼の嬉しそうな笑顔と共にその話を覚えている。
誕生日に夏祭り。秋には紅葉の美しい滝にも行ったし、これからもたくさん増えるといいな。
そうこうしているうちに由良さんがお盆に卵粥を乗せて持ってきてくれた。
…ほかほかと湯気が立っていて美味しそう…。
「幹斗君、お待たせ。…あれ、写真見てたの?」
「はい。なんだか眠れなくて。」
「そっか。…自分で食べられる?」
「はい。…あっ…。」
そう答えたはいいものの、由良さんから受け取ってすぐに匙を床に落としてしまった。
「無理しないで。ほら、口を開けて。」
予め匙を二つ持ってきていたのか、粥を別の匙で掬って少し冷まし、由良さんが俺の口元へと差し出す。
「…子供みたいで恥ずかしい… 」
「僕から見たらいつまで経っても子供だからね。ほら、Open. 」
今度はglareを放ちながら言われたから、反射的に口を大きく開けた。
口の中に流し込まれたお粥をゆっくりと嚥下する。
風邪のせいであまり味がしなかったけれど、それは柔らかくてちょうど良い温かさで、隣に由良さんがいたせいもあってか、今まで食べたお粥のなかで一番美味しく感じた。
由良さんに支えてもらいながらたった2階分の高さをエレベーターで上り、入るなりお姫様抱っこをされて洗面所に連れて行かれた。
…ああ、靴も揃えていないのに…。
「…すみません、お邪魔します… 」
せめて入り口でそう言うと、いらっしゃい、と間近で微笑まれてすでに熱い身体が余計に熱くなる。
子供のように由良さんに指示されるまま手洗いとうがいをし、喉が痛いことに今更気がついた。
「その格好だときついよね。僕の部屋着に着替えようか。」
「えっ、そ、そこまでしてもらうわけには…と言うより、俺帰ります!由良さんにうつしちゃ…わっ!」
勢いよく言ったらそのまま視界が眩んで躓いてしまい、由良さんに優しく支えられる。
「病人は大人しく世話されること。はい、ばんざい。」
「えっ、あのっ…わっ…… 」
glare混じりに“ばんざい”と言われて反射的に手を上げ、そのまま着ていた服を脱がされ由良さんのスウェットを上から被せられた。
流石に下は自分で履こうとしたが、glareを解いてもらえず結局由良さんに委ねる。
子供みたいで恥ずかしくて、でも洋服を着せてくれる由良さんは格好良い。
顔を真っ赤にしながら見惚れていたら、またお姫様抱っこで由良さんのベッドに連れて行かれて寝かされた。
由良さんはベッドのそばに椅子を持ってきて俺の隣に座ってくれる。
…由良さんのにおい、安心する…。
「幹斗君、ご飯は食べた?」
言いながら頭を撫でてくれる大きな手が心地いい。
「…まだ… 」
「何かお腹に入れないと薬飲めないから作ってくるね。うどんとおかゆどっちがいい?」
「そのくらいは自分で… 」
「だめだよ、ちゃんと寝てて。それでどっちがいい?」
「…うぅ…、おかゆでおねがいします…。」
「うん。作ってくるね。」
彼のベッドの上、彼の匂いに包まれていて、彼は同じ空間の中にいて、なのに由良さんが見えない位置に行った途端にどうしようもない寂しさに襲われた。
枕をぎゅっと抱きしめて布団にくるまり身体を抱え込む体勢になると、寂しさはいくらかマシになる。
熱を出したのなんて、“熱を出したら学校を休める”、と思っていた時期ぶりで、こんなにも心細くなるものなんだと驚いた。
こう言う時、ふとcollarを切られた直後のことを思い出す。
世界に自分だけが取り残されたような感覚。
もうきっとそんなことはないとわかっているのに、どうしてかひどく不安になって。
寝ていてと言われていても不安で眠ることができなかった。
目を閉じると悪いことばかり考えてしまうから、ヘッドボードに置いてあるデジタルフォトフレームを手に取ってみる。
中の写真は全て俺と一緒に撮ったもので、このフォトフレームはそれを飾るために買ったと言っていた。
これから増やそうね、と柔らかに笑った彼の嬉しそうな笑顔と共にその話を覚えている。
誕生日に夏祭り。秋には紅葉の美しい滝にも行ったし、これからもたくさん増えるといいな。
そうこうしているうちに由良さんがお盆に卵粥を乗せて持ってきてくれた。
…ほかほかと湯気が立っていて美味しそう…。
「幹斗君、お待たせ。…あれ、写真見てたの?」
「はい。なんだか眠れなくて。」
「そっか。…自分で食べられる?」
「はい。…あっ…。」
そう答えたはいいものの、由良さんから受け取ってすぐに匙を床に落としてしまった。
「無理しないで。ほら、口を開けて。」
予め匙を二つ持ってきていたのか、粥を別の匙で掬って少し冷まし、由良さんが俺の口元へと差し出す。
「…子供みたいで恥ずかしい… 」
「僕から見たらいつまで経っても子供だからね。ほら、Open. 」
今度はglareを放ちながら言われたから、反射的に口を大きく開けた。
口の中に流し込まれたお粥をゆっくりと嚥下する。
風邪のせいであまり味がしなかったけれど、それは柔らかくてちょうど良い温かさで、隣に由良さんがいたせいもあってか、今まで食べたお粥のなかで一番美味しく感じた。
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