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誕生日ss2
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「おはよう、幹斗君。」
かけていたアラームより先に由良さんの声で起こされた。
「おはようございます…。」
目を擦りながら身体を起こすと、由良さんはもうしっかりと着替えている。
…それもかなりフォーマルな感じに。
えっ、もしかして今日のデートって、ドレスコードつき…?
「あの俺、家で着替えてきたほうがいいですか?」
「そのままで大丈夫だよ。」
そう言われほっとした。だってドレスコード付きの場所なんて大盤振る舞いすぎる。
着替えを済ませ、何故だか朝は軽めにしておくよう言われたので、ひとまずヨーグルトだけで済ませた。
ちなみに財布を持っていくのは禁じられた。理解できない。
「じゃあ、行こうか。」
自然に差し出された大きな手を握る。
どこに行くとも言わずに優しく手を引いてさりげなくエスコートをしてくれるうえに、気づけば車道側はいつも由良さんだし、エスカレーターはいつのまにか俺が上に乗ってるし、どうしてこう、この人はいつもこんなにも完璧なんだろう。
視界に入るとどうしてもどきどきするから俯いて歩いていると、“下ばかり見ていると転ぶよ”って、少しからかうように言われた。
その後付け加えるように“転ぶ前に支えるけどね。”ってさらりと言われるからたまったものではない。
まず入った先は、メンズ服のブランド店が集まっているビルだった。
なんで服?何か予約してたものを近場に来たついでに取りに行くとか…?
「あの、俺場違いなので外で待ってます…。」
一度だけ入ったことがあるが、大学生が私服で入るような雰囲気の場所ではなかった。
それにしても由良さんは、本当にここの雰囲気に合っている。むしろ由良さんみたいなすごく格好いい大人の男性以外は入ってはいけない気がする。
…おまけにこんな格好だし…。
Tシャツに黒のカラーパンツ、その上にカジュアルコートという形では救いようがない。
しかし由良さんは手を離してくれなかった。
それどころかいつのまにかエレベーターに乗せられている。
「幹斗君がいなかったら買えないからだめ。」
「えっ…?」
なにを?と聞くと秘密、と悪戯っぽく笑われて、そのまま今まで入ろうと考えたことすらなかったような高級ブランド店に誘導された。
問答無用でジャケット、シャツ、パンツを試着させられ、“やっぱり似合う”、と満足げに言われて。
私服は紙袋に綺麗に入れられてそれをそのまま着ていくことを余儀なくされた。
「じゃあ、行こうか。」
「待ってください、こんな高いもの… 」
「うん。今までの誕生日全部分祝うなら、まだまだ足りないね。」
タグを切った新品を渡されて試着しているうちに会計は済まされていたようで、そのまま店の外に出ると今度は近くにある高級ホテルのエレベーターまで連れて行かれた。
…次は何…?
エレベーターのついた先は最上階。
「ここの鉄板焼き、とても美味しいんだよ。」
由良さんがさらりと俺の肩に手を回し、景色の綺麗な(明らかに高そうな)レストランの前まで誘導してくれる。
「秋月様、お待ちしておりました。」
店先で丁寧に店員さんに頭を下げられた。
緊張して動きがカクカクしてしまう。
由良さんは自然にこの場所に溶け込んでいて、俺だけが何処かから迷い込んできたみたいに思えた。
由良さんは格好良くて、見ただけでもいつまでもどきどきしてしまうのに、洋服をプレゼントされて、こんなところにまで連れてこられてしまって…
「ゆめ… ?…いたっ…」
鉄板の前に座った後に夢かと思ってほっぺたを思い切りつねったら、めちゃくちゃ痛くて思わず涙目になってしまった。
「だめだよ、自分を傷つけちゃ。」
由良さんがつねっていた方の俺の手首を優しく掴み、紫紺の瞳から少し強めのglareが放たれる。
「あの、…はい、ごめんなさい…。」
そのglareにどくりと身体が震え、俺は涙目になりながら由良さんに謝罪した。
しかし呼び覚まされた感情は恐怖だけじゃない。彼の視線に胸の奥をぎゅっと締め付けられるような甘い痛みと快楽を覚えてしまう。
「悪い子。」
そして俺の気持ちを全部わかっているみたいに意地悪く由良さんに言われたから、顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなった。
かけていたアラームより先に由良さんの声で起こされた。
「おはようございます…。」
目を擦りながら身体を起こすと、由良さんはもうしっかりと着替えている。
…それもかなりフォーマルな感じに。
えっ、もしかして今日のデートって、ドレスコードつき…?
「あの俺、家で着替えてきたほうがいいですか?」
「そのままで大丈夫だよ。」
そう言われほっとした。だってドレスコード付きの場所なんて大盤振る舞いすぎる。
着替えを済ませ、何故だか朝は軽めにしておくよう言われたので、ひとまずヨーグルトだけで済ませた。
ちなみに財布を持っていくのは禁じられた。理解できない。
「じゃあ、行こうか。」
自然に差し出された大きな手を握る。
どこに行くとも言わずに優しく手を引いてさりげなくエスコートをしてくれるうえに、気づけば車道側はいつも由良さんだし、エスカレーターはいつのまにか俺が上に乗ってるし、どうしてこう、この人はいつもこんなにも完璧なんだろう。
視界に入るとどうしてもどきどきするから俯いて歩いていると、“下ばかり見ていると転ぶよ”って、少しからかうように言われた。
その後付け加えるように“転ぶ前に支えるけどね。”ってさらりと言われるからたまったものではない。
まず入った先は、メンズ服のブランド店が集まっているビルだった。
なんで服?何か予約してたものを近場に来たついでに取りに行くとか…?
「あの、俺場違いなので外で待ってます…。」
一度だけ入ったことがあるが、大学生が私服で入るような雰囲気の場所ではなかった。
それにしても由良さんは、本当にここの雰囲気に合っている。むしろ由良さんみたいなすごく格好いい大人の男性以外は入ってはいけない気がする。
…おまけにこんな格好だし…。
Tシャツに黒のカラーパンツ、その上にカジュアルコートという形では救いようがない。
しかし由良さんは手を離してくれなかった。
それどころかいつのまにかエレベーターに乗せられている。
「幹斗君がいなかったら買えないからだめ。」
「えっ…?」
なにを?と聞くと秘密、と悪戯っぽく笑われて、そのまま今まで入ろうと考えたことすらなかったような高級ブランド店に誘導された。
問答無用でジャケット、シャツ、パンツを試着させられ、“やっぱり似合う”、と満足げに言われて。
私服は紙袋に綺麗に入れられてそれをそのまま着ていくことを余儀なくされた。
「じゃあ、行こうか。」
「待ってください、こんな高いもの… 」
「うん。今までの誕生日全部分祝うなら、まだまだ足りないね。」
タグを切った新品を渡されて試着しているうちに会計は済まされていたようで、そのまま店の外に出ると今度は近くにある高級ホテルのエレベーターまで連れて行かれた。
…次は何…?
エレベーターのついた先は最上階。
「ここの鉄板焼き、とても美味しいんだよ。」
由良さんがさらりと俺の肩に手を回し、景色の綺麗な(明らかに高そうな)レストランの前まで誘導してくれる。
「秋月様、お待ちしておりました。」
店先で丁寧に店員さんに頭を下げられた。
緊張して動きがカクカクしてしまう。
由良さんは自然にこの場所に溶け込んでいて、俺だけが何処かから迷い込んできたみたいに思えた。
由良さんは格好良くて、見ただけでもいつまでもどきどきしてしまうのに、洋服をプレゼントされて、こんなところにまで連れてこられてしまって…
「ゆめ… ?…いたっ…」
鉄板の前に座った後に夢かと思ってほっぺたを思い切りつねったら、めちゃくちゃ痛くて思わず涙目になってしまった。
「だめだよ、自分を傷つけちゃ。」
由良さんがつねっていた方の俺の手首を優しく掴み、紫紺の瞳から少し強めのglareが放たれる。
「あの、…はい、ごめんなさい…。」
そのglareにどくりと身体が震え、俺は涙目になりながら由良さんに謝罪した。
しかし呼び覚まされた感情は恐怖だけじゃない。彼の視線に胸の奥をぎゅっと締め付けられるような甘い痛みと快楽を覚えてしまう。
「悪い子。」
そして俺の気持ちを全部わかっているみたいに意地悪く由良さんに言われたから、顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなった。
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