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誕生日ss1
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緊張しながらチャイムを押すと、ドアが開いて部屋着姿の由良さんが俺を迎えてくれた。
部屋着と言ってもおそらく何かのブランドもので、開いた襟元や下ろした前髪の色っぽさにどくりとしてしまう。
…また顔、熱くなっちゃう…。
「いらっしゃい…あれ、幹斗君、何かあった?」
第一声からそう言われ、驚いた。
確かに少し元気がないかもしれない。
けれど周りからは顔に出にくいタイプだと言われているし、そのうえ今日は由良さんに会っているから自分でも自分の元気がないとは感じないのに、どうして由良さんにはそう見えてしまうのだろうか。
エスパーみたい。
「… 」
「言ってごらん。隠し事はすぐわかるから。」
言葉に詰まっていると、由良さんが俺を背中を抱き寄せるようにして家の中に入れ、そして優しく耳元でささやいた。
由良さんの動作一つ一つに心臓を跳ねさせながら、俺が今少し元気がないのかもしれない理由をどう説明しようか考える。
本当に大したことのない理由なのだ。
「…あの、本当にどうでもいいことなんですけど… 」
一応前置きで言っておく。
「うん。教えて?」
じっと目を見て、幼子に言い聞かせるように言われた。
「…明日が誕生日で…。」
そう、明日は俺の誕生日。一年に一回、生まれてきたことを少しだけ後悔する日。
祖父母はいつも俺に優しかったけれど、母の命日である俺の誕生日だけは、すこしちがった。
2人とも家事をこなす以外はじっと母の写真を見つめていて、俺の顔を見ると複雑そうに顔を歪めた。
小学校高学年になってからはそれが耐えられず、ただじっと、ご飯にもいかず部屋にこもってコンビニのおにぎりを食べていたことを思い出す。
祖父母に気を使わせないように、体調が悪くて食欲がないと言って一日中仮病を理由にしていた。
それでこの日が嫌いになった。ただそれだけの話。
何不自由なく暮らしてきた俺の、周りから見たらきっとあまりにもくだらない悩み。
誕生日が嫌いだなんておかしい、と幼稚園で言われてからは誰にも打ち明けたことがなかったけれど。
…由良さんにおかしいって言われたら凹むかも…。
そう思い、言葉を選びながら恐る恐る話す。
話終わった後、突然強い力で抱きしめられた。
予想外の反応に驚いて固まってしまう。
「じゃあ沢山お祝いしなくちゃね。今からホテルを予約しようか。」
少しの静寂の後、由良さんが俺の頭を撫でながら言った。
「えっ…?」
言われた意味がわからず首を傾げている俺に、少し切なげに彼は微笑む。
「愛しい君が生まれた日だからね。生まれてきてから今日までの分、全部含めてお祝いしよう?」
「お祝い…。」
「うん、お祝い。」
愛しい君が生まれた日、と言われて、そんなふうに考えたことはなかったから、本当に驚いた。
けれど泣きそうなくらいに優しく細められた彼の眼差しを見ていたら、本当にそうなのではないかと思えてしまう。
「じゃあ明日、1日デートしようね。」
「はっ、はいっ…。」
由良さんと1日デートできるなんて。しかもホテルということは、夜も一緒に過ごせるわけで。
ずっと抱えていた心の蟠りが取れたうえに由良さんと1日デートできるなんて夢みたいで、collarと指輪で身にしみてわかったはずの由良さんの金銭感覚が俺に対してバグっていることについて、この時の俺は完全に見落としていた。
部屋着と言ってもおそらく何かのブランドもので、開いた襟元や下ろした前髪の色っぽさにどくりとしてしまう。
…また顔、熱くなっちゃう…。
「いらっしゃい…あれ、幹斗君、何かあった?」
第一声からそう言われ、驚いた。
確かに少し元気がないかもしれない。
けれど周りからは顔に出にくいタイプだと言われているし、そのうえ今日は由良さんに会っているから自分でも自分の元気がないとは感じないのに、どうして由良さんにはそう見えてしまうのだろうか。
エスパーみたい。
「… 」
「言ってごらん。隠し事はすぐわかるから。」
言葉に詰まっていると、由良さんが俺を背中を抱き寄せるようにして家の中に入れ、そして優しく耳元でささやいた。
由良さんの動作一つ一つに心臓を跳ねさせながら、俺が今少し元気がないのかもしれない理由をどう説明しようか考える。
本当に大したことのない理由なのだ。
「…あの、本当にどうでもいいことなんですけど… 」
一応前置きで言っておく。
「うん。教えて?」
じっと目を見て、幼子に言い聞かせるように言われた。
「…明日が誕生日で…。」
そう、明日は俺の誕生日。一年に一回、生まれてきたことを少しだけ後悔する日。
祖父母はいつも俺に優しかったけれど、母の命日である俺の誕生日だけは、すこしちがった。
2人とも家事をこなす以外はじっと母の写真を見つめていて、俺の顔を見ると複雑そうに顔を歪めた。
小学校高学年になってからはそれが耐えられず、ただじっと、ご飯にもいかず部屋にこもってコンビニのおにぎりを食べていたことを思い出す。
祖父母に気を使わせないように、体調が悪くて食欲がないと言って一日中仮病を理由にしていた。
それでこの日が嫌いになった。ただそれだけの話。
何不自由なく暮らしてきた俺の、周りから見たらきっとあまりにもくだらない悩み。
誕生日が嫌いだなんておかしい、と幼稚園で言われてからは誰にも打ち明けたことがなかったけれど。
…由良さんにおかしいって言われたら凹むかも…。
そう思い、言葉を選びながら恐る恐る話す。
話終わった後、突然強い力で抱きしめられた。
予想外の反応に驚いて固まってしまう。
「じゃあ沢山お祝いしなくちゃね。今からホテルを予約しようか。」
少しの静寂の後、由良さんが俺の頭を撫でながら言った。
「えっ…?」
言われた意味がわからず首を傾げている俺に、少し切なげに彼は微笑む。
「愛しい君が生まれた日だからね。生まれてきてから今日までの分、全部含めてお祝いしよう?」
「お祝い…。」
「うん、お祝い。」
愛しい君が生まれた日、と言われて、そんなふうに考えたことはなかったから、本当に驚いた。
けれど泣きそうなくらいに優しく細められた彼の眼差しを見ていたら、本当にそうなのではないかと思えてしまう。
「じゃあ明日、1日デートしようね。」
「はっ、はいっ…。」
由良さんと1日デートできるなんて。しかもホテルということは、夜も一緒に過ごせるわけで。
ずっと抱えていた心の蟠りが取れたうえに由良さんと1日デートできるなんて夢みたいで、collarと指輪で身にしみてわかったはずの由良さんの金銭感覚が俺に対してバグっていることについて、この時の俺は完全に見落としていた。
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