強く握って、離さないで 〜この愛はいけないと分かっていても、俺はあなたに出会えてよかった〜 

沈丁花

文字の大きさ
上 下
101 / 261

17-3

しおりを挟む
「…ありがとう。」

しばらくして、由良さんの声が降ってきた。

泣きそうなくらい優しい声音で、見上げたら、彼はすこし罰が悪そうにしている。

「僕は君に、救ってもらってばっかりだね。」

俺を抱きしめていた手が解かれる。

救ってもらって、ということは、これからも一緒にいてくれるということなのか、それともまだ安心するには早いのか。

「由良さんがあの日俺にしてくれたことです。」

「僕は何も…。」

「何もかも、ほしいもの全部くれた。」

キッパリ言い切ると、由良さんは驚いたように目を見開いて。

そして、ふわり。優しく微笑んだ。

「じゃあ、次は僕の番だ。」

手を取り、引き寄せられる。

由良さんは俺をもう一度抱きしめて、たくさん頭を撫でてくれた。

気持ち良くて、嬉しくてたまらない。でも、これはどっちなのだろう。抱きしめ頭を撫でるくらいなら、親子でもするものではないだろうか。

不安で彼の瞳をじっと見つめると、だんだん紫紺の瞳が近づいてきて、そのまま唇を重ねられた。

家族にするような軽いものではなく、深く、互いの熱を探り合うようなキス。

何度も重ねた唇だが、タバコの味がしたのは初めてだった。

「幹斗君、黒髪の方が似合うね。」

唇が離れた後、名残惜しそうに俺の髪を梳きながら、由良さんが言う。

「…由良さんとお揃いです。」

不意打ちの褒め言葉に頭に血が上って、思わず俯きながら口に出してしまった。

気まずい雰囲気になったらどうしようと一瞬不安になったけれど、由良さんがそうだね、と笑ってくれたので安心して息をつく。

「ちょっと、お店の前よ。あとは家でやって頂戴。」

いつのまにか咲さんがそばに来ていて、俺たちを見て呆れている。

俺はとっさに由良さんから離れた。抱き合っているところなんて、人に見せるものじゃない…。

「少しくらいいいでしょう。」

拗ねた口調で由良さんが言う。

「…だから少しは黙って見ててあげたじゃない。これ以上はだーめ!!」

「えっ!?」

咲さんどこから見てたんですか?…とは、怖いから聞かない。

「ていうか幹斗ちゃん、さらにいい男になったじゃない。由良なんてやめて、私と付き合わないー?」

「咲っ!!」

咲さんの謎の冗談に、由良さんは噛み付くように抗議する。

「冗談よ冗談。でも今度こんなことになったら、遠慮なく奪いに行くわ。東弥君とも競争になるかしらね。」

ひらりと手を翻して、咲さんがお店に戻っていく。

「もう離さない。絶対、何があっても。」

由良さんのその言葉は、咲さんでなく俺に向けて放たれた。

「俺も。」

ふと、頬に何か冷たい感触が当たって、空を見上げる。

「雪だね。」

同じく空を仰いだ由良さんが、言葉と共に白い息を吐く。

幸せだ。本当に幸せで、

この幸せをずっと続けるためなら、何を犠牲にしたっていいと、心からそんなことを思った。






しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

処理中です...