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東弥たちには、フラれたときの由良さんの様子が確かにおかしかったかもしれない、ということだけ告げて、そのあとはたくさん励まされた。

帰り道、無機質な明かりで照らされた通りを、重い足取りで歩いていく。

そういえばこの近くに由良さんが住んでるんだよな、と帰りながら考えて、余計に苦しくなった。

どこかから家族の会話が聞こえる。

”ねえパパ、大きくなったらパパと結婚したいの。”

”ダメよ。パパはママと結婚しているんだから。”

”まあまあ、大きくなったら言わなくなるさ。”

何気ない会話が、全く微笑ましく聞こえなかった。





なんとか帰宅し、ずっと棚の奥に入れたままだった一冊の日記を取り出す。

タイトルに妊娠日記と書いてあるこれは、俺が生まれるまで母がつけていった日記らしい。

家を出るときに祖父母に渡されたものの、なんとなく自分の母親という存在がいること自体が実感できなくて、そのまま開かずにいたものだ。

もしかしたらここに、何かあの仮説を否定する、もしくは裏付ける情報がここ書いてあるかもしれない。

否定するものでありますようにと、1ページ目をめくる。

中にはこう書いてあった。

”好きな人の子供を妊娠した。嬉しい。これで○○さんとも結婚せずに済むわね。

私が一方的に臨んだ妊娠で、誰の子かは言えないし、だからこの子にお父さんはいない。

でも、大切に育てるから、許してね。好きな人の子供だもの。この世界で一番愛してあげる。”

…これじゃあ辻褄が合ってしまうではないか。

絶望しながら読み進めていく。

どうやら俺の母には婚約者がいて、でも他に好きな人がいたらしい。それで好きな相手の子供を妊娠して、家出をして、家出先で一人で俺を産んで、そのまま亡くなった…。

にわかには信じられず、”母親の友達に秋月という子がいなかったか”、と祖父母に電話で尋ねてみた。

大学時代の同級生にそんな子がいた、と言われて、もう否定ができなくなった。多分由良さんの義理のお姉さんだ。

じゃあつまり俺は、由良さんが無理やり襲われた結果で産まれてきた、一緒にいると彼を苦しめてしまう存在なのだろうか。

そんなのもう、生まれた時から決まっていて、どうにもできないじゃないことじゃないか。

泣く気力すら湧かなくて、未だに捨てられない真っ二つのcollarと、肌身離さずにつけている由良さんからもらった時計を呆然と見つめた。

まだ夜は明けない。
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