強く握って、離さないで 〜この愛はいけないと分かっていても、俺はあなたに出会えてよかった〜 

沈丁花

文字の大きさ
上 下
71 / 261

11-1

しおりを挟む
「あー…、俺もう無理、頭爆発して死ぬ…。」

大量の記号が書いてある試験用ノートをバタンと閉じて、谷津がさけんだ。

「頭が突然爆発するのは物理的にありえないでしょう。」

「そうだよエネルギーは保存するもんな!!…ってそうじゃないから!!

まあ幹斗は普段から真面目にやってるし余裕だろうけど。」

いや、羨ましそうにこちらを見られても困るのだけれど。それに、俺だって決して余裕ではない。

今日は俺の家で、東弥と谷津と3人で中間試験に向けて勉強会をしている。

1週間後、合計4つの中間試験があるのだが、全て必修のため落とせない。来年さらに忙しくなる中で再履修だなんて、冗談じゃないのだ。

「俺も結構忘れてるし、解き方わからない問題あるし…。東弥、ここからここの変形ってどうなってるのかわかる…?」

「ああここ…?これは、ここで部分微分を… 」

谷津に構わず、何度計算しても合わなかったところを東弥に尋ねると、すぐに間違いを指摘してくれた。

ちなみに、後期入試で入った東弥は学部での成績がひと頭抜けている。

テスト期間になると名前を聞いたこともない人からこの問題教えてくれとLINEが来るレベルだ。彼を勉強仲間に確保できたから、俺たちは非常に運がいい。

「あっ、そうか。変数見落としてた。東弥ありがとう。」

「幹斗の力になれて嬉しいよ。」

礼を言うと、東弥は爽やかな笑みを浮かべる。

「あーお前らなにいちゃいちゃしてんの俺もまきちゃん(彼女)とイチャイチャしたいー!!」

「彼女さんと一緒にいたいのもわかるけど、谷津が留年したら俺ら寂しいから、今は一緒に頑張ろうね。ほら、ここで計算違っちゃってる。」

「うぅっ…わかった、やる…。うわ、1行目から計算し直しかぁ…。」

谷津の叫びを優しくかわしながら東弥は谷津の試験用ノートを開き、止まっていた手を再開させた。できたらいちゃいちゃしてる、の部分もついでに否定して欲しかったが。

東弥は塾講師のバイトをしており、他人に教えるのが好きなのだという。

「ねえ幹斗、ここ、こうしたらもっと楽になると思わない…?」

「…あー、でもそうするとこの条件見落としてない?」

「確かに…。じゃあやっぱりこう解くしかないな…。」

東弥が相談してきたのは、過去問の答えについてだ。4年分の過去問を解けば、似たような問題が何問が出てくるらしい。

…由良さん、元気かな。

計算ミスを直して答え合わせをしたあと、ふとそんなことを思った。

年末まで忙しいらしく、水族館でデートした時以来由良さんとは会っていないし、連絡もほとんど取れていない。

イブとクリスマスは一緒に過ごそう、と約束して、あとは生存確認のようにおはようとおやすみのLINEをするだけ。

そろそろ会いたいな。会ってキスをしたい。あの体温に抱きしめられたい。プレイをされたい。そんなことを毎日のように考えている。

もともと出会ってから由良さんのことばかりだったのに、水槽のプレイをした時から、さらに由良さんのことが頭から離れなくなってしまった。

「なーに、幹斗考え事?彼氏さんとうまく行ってないの?」

つんつん、と東弥にシャーペンでほっぺたをつつかれる。

「多分すごくうまくいってる…。会いたいだけ…。」

「ふーん、そっか。」

自分から聞いてきたくせに、意外とそっけない返事をされた。

「あっまー!!!俺ブラックコーヒー飲む!!幹斗淹れて!!」

代わりに谷津が楽しそうに過剰な反応を返してくれる。

「東弥もいる?紙コップになっちゃうけど。」

「ああ、じゃあお言葉に甘えて。」

「砂糖幾つ?」

「ブラックで。」

谷津と東弥のコーヒーを淹れ、ついでに自分用の甘いミルクコーヒーも淹れた。

そういえば由良さんの家にはコーヒーメーカーがあったな。豆も高そうだったし。

…せめて声、聞きたいな。

「幹斗ぉー…。計算合わないぃ…。」

谷津の悲痛な声で我に返る。

今は集中しなきゃ。

そして今日の目標が終わったら、由良さんにLINEをしてみようかな。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...