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「まずどのくらい耐えられるか確認しようね。耐えられなくなったら、左手で机を叩いて。」

そう言って由良さんは、水で満たした洗面器を机の上に置いた。

ちゃぷんと音を立て由良さんが俺の顔を水に埋める。

身体が危機を察知して反射的に逃げ出そうとしたが、上から強く押さえつけられた。

「…苦しい?」

尋ねられ、水の中でふるふると首を横に振った。

押さえつけられることでより不安が煽られるが、予行練習でそんなことを言っていても仕方がない。

どのくらいの時間が経っただろうか、だんだん息が苦しくなってきて、少しだけ息を吐こうとした。すると意図せず全ての空気を吐き切ってしまい、肺が新たな空気を吸い込もうとする。

わかっている。ここは水の中で、いくら吸っても水しか得られない。

けれど習慣とは怖いものだ。わかっているのに、鼻から、口から、思いっきり息を吸ってしまった。

…苦しい。

侵入してきた水を吐き出そうと、身体がもがく。咳を出そうとしても出すことができなかった。

苦しくて身体が暴れ、押さえ込む腕を、必死で跳ね除けようとするけれど、それでも由良さんの腕はびくともしない。

ふと、限界になったら机を叩けと言われたことを思い出した。

…でも、そんなことでは、由良さんに想いは伝えられない。

口から、鼻から、水が入ってくる。

もう無理だ、と思った時、やっと頭を押さえる力が弱くなり、俺は勢いよく顔を上げた。

「げほっ…、ごほっ、ぐっ… うぅっ…、げほっ…!」

新たな空気を少しでも多く取り入れようと、そして体内の水を全て吐き出そうと、身体は必死にもがきだす。

俺を襲うのは、全力疾走した後に酸素の薄い場所に連れて行かれたような、耐え難い苦しみ。

何度か呼吸を繰り返しやっと落ち着いてきたところで、“幹斗”、と由良さんが、プレイ中だとは思えない、雲のような優しい声で囁いてきた。

「…全身を潜らせたら、もっと苦しいよ。僕への忠誠はわかったから、水槽に入るのはやめておこうか。」

端正な唇が歪んでいる。

彼は以前、Subに苦痛を与えるのが苦手だと言っていた。なら、この行為は彼にとってしたくないことであるかもしれない。

…けれど俺は、ふと彼の瞳の奥に期待が宿っていることに気がついた。

そう、彼はDomなのだ。きっと彼のDom性はこの行為によって満たされる。Subの強い従属を嫌うDomはいない。

「辞めません。由良さんに委ねたい。」

はっきりと言ってのけると、負けたよ、と由良さんが苦笑まじりに言った。
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