強く握って、離さないで 〜この愛はいけないと分かっていても、俺はあなたに出会えてよかった〜 

沈丁花

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週末。いつものように由良さんの家に行くだけでは言える気がしなかったから、俺は由良さんをデートに誘った。

ちょうど3駅先の水族館がクリスマスイベントとしてカップル向けの夜営業をしており、待ち合わせはその水族館が入ったビルの前。

「久しぶり。」

待ち合わせ場所に着くともうすでに由良さんが立っていて、俺を見て片手を上にあげ、爽やかに微笑んでくれた。

今日は仕事だと言っていたが、私服に着替えている。最高に格好いい。

「お久しぶりです。」

周りの女性の視線を痛いほど感じながら、俺は彼の元にかけていく。

当の由良さんは何も気にした様子はなく、自然に俺と手を繋いだ。

けれど見上げた先に映る彼の瞳はやはりどこか寂しげで。

「早速行こうか。」

…心臓がうるさい。顔が熱い。でもこんなことに惑わされていてはいけない。今度は由良さんに俺が手を差し伸べる番なのだから。

落ち着け、俺。



金曜日とはいえ平日の夜で、クリスマスからは遠く、客はまばらだ。

「幹斗くん、水族館好きなの?」

「あ、…ええ、まあ… 」

なんとなく目を逸らす。本当は学校行事でしか行ったことがない。

家以外で人目を気にせず過ごせる場所、かつ話すことができて、重い話をそれとなく切り出せる場所、というとこのくらいしか思いつかなかったのだ。

「夜の水族館なんて、ちょっと不思議な感じだね。…あ、流石にイルカショーとかはやってないんだね。」

パンフレットとにらめっこしながら由良さんが言う。

「その代わりに普段やっていないライトアップとか、されるみたいです。」

「それは楽しみだ。」

入ってすぐ、クラゲが虹色にライトアップされていた。

その先に進むと、暗い照明の中で、様々な深海魚の水槽がある。

「あの、手… 」

チケットを買う瞬間を除いて、由良さんはずっと俺と手を繋いでいる。しかし館内は人もまばらではぐれる心配もないし、何より俺の心臓がもたない。

そろそろ離しませんか?と目で訴えてみた。

「つなぐの、嫌?」

しかし由良さんに悲しそうに言われ、いえ、と首を振ってしまった。無理だ。こんな、すがるように見られたら断れない。

そうして由良さんと他愛のない話をしながら館内を回り、気づけば巡路の半分以上まで来てしまった。

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