強く握って、離さないで 〜この愛はいけないと分かっていても、俺はあなたに出会えてよかった〜 

沈丁花

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「それで、相談って?」

30分話を逸らし続けるスキルは俺にはないから、本筋に踏み込むしかない。

「その、…幹斗ってさ、あの人と付き合ってるの?」

「あの人?」

歯切れ悪そうに言われたその言葉の意味を、俺は一度では理解できずに聞き返す。

「あの、文化祭に来てた従兄弟って言ってた人。」

一瞬、聞き間違えかと思った。

けれど、東弥のいつになく真剣な表情のせいで、聞き間違えではないと分かってしまう。

「…だったら?」

最近はもうそんなに差別はないのだとしても、谷津以外にゲイだとばれて注目を浴びるのが怖い。

なんと言っていいのか分からずに、曖昧な答えを返した。まず、どうしてそんなことを聞くのだろうか。

「…俺さ、実はゲイなんだ。誰にも言ってないけど。だから相談に乗って欲しくて。」

「えっと… 」

「違ったらごめん。でも、あの人と幹斗のやりとり見てて、なんとなくそうなのかなって思って。…もしそうだとしたら、俺、今まで隠してきたこと、幹斗にだけは話せる…。」

ここまで言われては仕方がない。むしろルックスも人当たりもいい彼が、ゲイだという事実を隠しながらああいった集団の中にいることを尊敬さえしてしまう。

…モテるだろうに、さぞかし苦労しているのだろう。

「東弥の察し通り。あの人は俺のパートナーなんだ。谷津も知ってる。」

「そっか。じゃあ谷津がいるところでも、俺幹斗に相談していいかな。」

そんな捨て犬みたいな目をされたら受け入れるしかないって言うか谷津にはゲイバレしていいのか…?

「…谷津以外いないところなら。」

「ありがとう。なんだかすごく、救われた気がしたよ。幹斗ってとても優しいね。」

「そんなことないよ。」

キラキラのスマイルで言われ、俺は苦笑いした。そんな、救うなんてものじゃない。優しくもない。

…俺はただ、東弥の気持ちが少しわかるだけだ。

自分を偽って周りに溶け込もうとするのは辛いことで、もしばれたら捨てられるのではないかと言う恐怖を伴う。

その恐怖に負けた俺は、谷津以外と関わらないことを選んだけれど、もし東弥と同じ道を選んだのなら、きっと、周りに1人くらい本当のことを話し合える同士がいることで、救われる。

…あれ。

捨てられるのが怖い、という感情を思い出したとき、ふと、“息子が1人”、と言った時の、由良さんの姿が脳裏に浮かんだ。

震える手、寂しげな微笑み。

どうしてこのタイミングでそう思ったのか、それはわからないけれど、なぜか、由良さんは本当は俺に話を聞いて欲しかったのではないか、と思えてきた。

だって本当に聞かれたくなかったら、いくらアフターケアで求められたからって言わないだろう。

由良さんが俺のことを好きじゃないと言う説は、成立すると全ての命題が成り立たないからこの際置いておくとして。

「…幹斗?どうした、悩み事…?」

心配した様子で東弥が聞いてくる。さすが?空気が読める男だ。

「いや、…なんでもない。」

「そっか。」

俺だったら、自分のことは、受け入れて欲しいから話す。あの寂しげな表情は、震える身体は、本当は、俺に全部聞いて受け止めて欲しいという意思表示だったのではないだろうか。

…ちゃんと話そう、と思った。

亀裂が入ったのなら、丁寧に治せばいい。無視して大きくなった後に上からセメントを塗りたくったって、根本的な解決にはならないのだ。

俺にできることは、どんな由良さんでも受け止めて、愛すること。

…由良さんが、出会ったあの日からずっと、俺にそうしてくれたように。
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