強く握って、離さないで 〜この愛はいけないと分かっていても、俺はあなたに出会えてよかった〜 

沈丁花

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学祭当日。

“え、うそ、超かっこいい…っ!!”

“ね、やばい!写真撮らせて!”

…もし仮に聖徳太子だったとしても、なんて返せばいいのかわからない…。

「やっほー幹斗!!…ってうわ、めっちゃ似合ってるじゃん!

ほら女子、撮影禁止だかんね!客に禁止してるんだからダメ!!」

女子に囲まれて硬直していると、軽快に谷津が割り込んできた。谷津も衣装に着替えており、髪が赤いのと可愛い顔立ちのせいでなんだかアニメキャラみたいだ。

しかし、その服には既視感が。

「…谷津のそれ、クロスタイ以外は入学式のスーツ?」

俺は金縁の黒い燕尾服にベスト、クロスタイ、手袋とアニメキャラに出てきそうな明らかに恥ずかしい格好をしているのに、谷津だけではない、他の執事役も全員普通のスーツにクロスタイと白い手袋をしているだけだ。

「フッ、よく気付いたな!幹斗以外はみんなこれだからな!」

「風間君は執事長だから衣装にもお金かけてみたんだー!!」

谷津と女子のうち1人(たしか裁縫サークルの子だったはずだ)が顔を見合わせて“ねー”、と笑っている。

聞いてない。絶対に確信犯だ。あとで締める。

「…谷津。」

「な、なんだよ怖えな!」

静かに告げると、谷津がぴくりと跳ねた。

「ハーゲン箱。」

ここまでされたら怒っていい気がしてきたので遠慮なく言わせていただく。

「…ちなみに買わなかったら…?」

「もうご飯作らない。」

「はっ、箱なんてお安い御用!なんならファミリーサイズもつける!!」

「ゆるす…。」

「ほらみんな、そろそろ10時半だよ!」

そうこう言っているうちに昨日配られたマニュアルに書いてあった開店時間になった。

喫茶店とはいっても、契約したケーキ屋さんのケーキと常温のアイスティー、アイスコーヒーを注文に応じて出すだけだけの学祭クオリティー。

しかしドアを開けると、異様に女子率の高い長蛇の列ができている。

「おかえりなさいませ、お嬢様方、旦那様方。」

恥ずかしさを必死に噛み潰しながら満面の笑み(のつもり)でマニュアル通りの言葉を言うと、並んでいる客たちからきゃーという歓声が上がった。

…まあ学祭のノリってやつだろう。
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