上 下
24 / 261

5-2

しおりを挟む
「あ、ちょっと待っててー!」

谷津(とその彼女)の部屋の前までくると、一旦ドアの前で放置された。中からどたばたと聞くからにやばそうな音がするけれど大丈夫だろうか。

「おっけー!」

ドアを開けた谷津は、軽く息を切らしている。

「…もしかしてどこかにいろいろ突っ込んだ?」

「ふっ…、それは聞かない約束だろっ。」

ドヤ顔でクールっぽく言われても困るんですが。

「もしかして彼女さんの洗濯物もその中に突っ込んだりした?」

「… 」

「風呂場にかけて乾燥機つけなって。それで前喧嘩したでしょ?」

「確かに!!ごめんもーちょっとまってて!!」

「待ってるから、ついでに突っ込んだものも元の位置にね。」

なぜ俺がこんなことを言うかというと、以前この家に来た後、彼女に怒られた、と谷津に泣きつかれたからだ。

ちなみに彼女さんは綺麗好きで、谷津は散らかす専門。エントロピーは増大するだろ?とか笑って言っているけれど、おそらく彼女さんの怒りの方も指数関数的に増大してる。

そんなこんなで15分後。

「待たせたなっ…!!はぁっ…、はぁっ…。」

「お邪魔します。」



洗面所で手を洗ってからダイニングの椅子に向かい合わせに座ると、すでに谷津が目をキラキラさせながらスタンバっている。

「昨日は、カフェに行った後… 」

昨日のことを順番に辿り、丁寧に話していく。

話し下手でだらだらと順番にオチのつかない話を続けてしまったが、谷津は顔を真っ赤にして口を塞いだり机の上に置いた拳を握りしめたりしてめちゃくちゃ真剣に俺の話を聞いてくれた。

「うわっ、甘酸っぱ!!やばい俺ブラックコーヒー飲むわ。幹斗は?」

「砂糖もミルクもよろしく…。」

「まじかお前よくそんな甘い話ししながら甘いもの飲めるな!?」

話の内容が甘いとしても舌で感じる甘さとは無関係だ。そして、プレイについて話しているときは昨夜の記憶を辿って話すだけだったのに、反応を返されると恥ずかしい。

顔、熱くなってきた…。

手でパタパタと仰いでみるけれど、それにたいした効果はない。

「それで相談って?」

仰ぐのをやめ、両手で火照った顔を押さえていると、その間にコーヒーを淹れてくれたらしく、俺にそれを渡しながら谷津が聞いてきた。

「…もやもやするんだ…。」

「もやもや…?」

「由良さんのこと、考えるとなんというかその…。

例えば由良さんは俺とプレイしてくれたけど、あんなにかっこいいから彼女とか奥さんがいるかもしれないし、次もしようって言ってくれたけどそもそも俺とパートナーになってくれるかわからないし…

って考えたら、もやもやっていうか、いらいらっていうか、…怒ってるわけじゃないけど… 」

目の前で谷津が目をまん丸に見開いて口を押さえた。そして先ほどプレイの話をした時よりもさらに反応がいい。

「え!?やだそれ恋じゃね!?」

「…?」

鈍器で頭を殴られたような衝撃だった。この感情の正体が、恋…?

「てゆーか相手に恋するとか当たり前じゃん!恋愛的にも好きだからプレイしてもらったんだろうし、どうせこれからセックスするだろ?」

そのまま続いた谷津の言葉がまるで大砲みたいにガツンと響く。

セックスって、セックス…?

「え、だってパートナーになる時セックスするだろ?」

…そうだった。

もう使うことがないと思って心の棚の1番奥にしまっていた教科書の知識を引き出し、パートナーになる際、結婚する時の結婚式のように、儀式的にセックスを行うということを思い出した。

ちなみにその最中にはglareやcommand命令を使ってはいけないことになっている。

SubがcommandなしでそのDomと繋がることで、お互いの信頼関係を確かめ、そしてそのあとDomがSubに対してcollarカラーと呼ばれる首輪を渡すことで、パートナーシップが成立するらしい。

それらのことを考えると、プレイ相手に恋をするのは当たり前なのかもしれない。

「お前を家に招いてる時点で他に相手がいる可能性は低いし、そもそもいくらglareが効くからってそんな奴なら願い下げだろ。

とっとと好きって言っちゃえばすぐパートナーになれるかもしれないぜ??」

谷津は続ける。

それは世の中の人が聞けばほとんどの人が首を縦に振るう正論かもしれない。

けれど、俺は考えてしまう。

もし由良さんが俺に情けでプレイしてくれているだけだったら…?

由良さんはゲイじゃなくて、もし恋愛感情を伝えたせいでこの関係が壊れてしまうとしたら…?

…それなら、今のままがいい。

glareが効くだけと谷津は言ったが、俺にとってはそれだけじゃない、人生で初めてのことだったのだ。

「ありがとう。いろいろ考えてみるよ、谷津。」

おどけて答えてみると、谷津は得意そうに笑った。

「そうだぞ!先輩の言うことだから心して聞くがいい!!

せっかくだから昨夜の俺らのプレイについても教えてやる!今後の参考になっ!」

彼は俺のためを思って色々言ってくれてて、すごくいいやつで頼りになる。

…と、そう思ったのは、ここまでだった。

まず、そのあと谷津が教えてくれた昨夜のプレイが激しすぎてなんと言うか白目を剥きかけた。

さらに後日、行われた執事服の採寸になぜか谷津は来ず(谷津も執事役だったはずだ)、コミュ症を発動した挙句上裸で採寸され女子にキャーキャー騒がれて。

友達とはいえ殺意が湧いたのは、墓まで持っていく秘密である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

支配された捜査員達はステージの上で恥辱ショーの開始を告げる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男

湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。 何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。

風邪をひいてフラフラの大学生がトイレ行きたくなる話

こじらせた処女
BL
 風邪でフラフラの大学生がトイレに行きたくなるけど、体が思い通りに動かない話

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

処理中です...