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「あ、ちょっと待っててー!」
谷津(とその彼女)の部屋の前までくると、一旦ドアの前で放置された。中からどたばたと聞くからにやばそうな音がするけれど大丈夫だろうか。
「おっけー!」
ドアを開けた谷津は、軽く息を切らしている。
「…もしかしてどこかにいろいろ突っ込んだ?」
「ふっ…、それは聞かない約束だろっ。」
ドヤ顔でクールっぽく言われても困るんですが。
「もしかして彼女さんの洗濯物もその中に突っ込んだりした?」
「… 」
「風呂場にかけて乾燥機つけなって。それで前喧嘩したでしょ?」
「確かに!!ごめんもーちょっとまってて!!」
「待ってるから、ついでに突っ込んだものも元の位置にね。」
なぜ俺がこんなことを言うかというと、以前この家に来た後、彼女に怒られた、と谷津に泣きつかれたからだ。
ちなみに彼女さんは綺麗好きで、谷津は散らかす専門。エントロピーは増大するだろ?とか笑って言っているけれど、おそらく彼女さんの怒りの方も指数関数的に増大してる。
そんなこんなで15分後。
「待たせたなっ…!!はぁっ…、はぁっ…。」
「お邪魔します。」
洗面所で手を洗ってからダイニングの椅子に向かい合わせに座ると、すでに谷津が目をキラキラさせながらスタンバっている。
「昨日は、カフェに行った後… 」
昨日のことを順番に辿り、丁寧に話していく。
話し下手でだらだらと順番にオチのつかない話を続けてしまったが、谷津は顔を真っ赤にして口を塞いだり机の上に置いた拳を握りしめたりしてめちゃくちゃ真剣に俺の話を聞いてくれた。
「うわっ、甘酸っぱ!!やばい俺ブラックコーヒー飲むわ。幹斗は?」
「砂糖もミルクもよろしく…。」
「まじかお前よくそんな甘い話ししながら甘いもの飲めるな!?」
話の内容が甘いとしても舌で感じる甘さとは無関係だ。そして、プレイについて話しているときは昨夜の記憶を辿って話すだけだったのに、反応を返されると恥ずかしい。
顔、熱くなってきた…。
手でパタパタと仰いでみるけれど、それにたいした効果はない。
「それで相談って?」
仰ぐのをやめ、両手で火照った顔を押さえていると、その間にコーヒーを淹れてくれたらしく、俺にそれを渡しながら谷津が聞いてきた。
「…もやもやするんだ…。」
「もやもや…?」
「由良さんのこと、考えるとなんというかその…。
例えば由良さんは俺とプレイしてくれたけど、あんなにかっこいいから彼女とか奥さんがいるかもしれないし、次もしようって言ってくれたけどそもそも俺とパートナーになってくれるかわからないし…
って考えたら、もやもやっていうか、いらいらっていうか、…怒ってるわけじゃないけど… 」
目の前で谷津が目をまん丸に見開いて口を押さえた。そして先ほどプレイの話をした時よりもさらに反応がいい。
「え!?やだそれ恋じゃね!?」
「…?」
鈍器で頭を殴られたような衝撃だった。この感情の正体が、恋…?
「てゆーか相手に恋するとか当たり前じゃん!恋愛的にも好きだからプレイしてもらったんだろうし、どうせこれからセックスするだろ?」
そのまま続いた谷津の言葉がまるで大砲みたいにガツンと響く。
セックスって、セックス…?
「え、だってパートナーになる時セックスするだろ?」
…そうだった。
もう使うことがないと思って心の棚の1番奥にしまっていた教科書の知識を引き出し、パートナーになる際、結婚する時の結婚式のように、儀式的にセックスを行うということを思い出した。
ちなみにその最中にはglareやcommandを使ってはいけないことになっている。
SubがcommandなしでそのDomと繋がることで、お互いの信頼関係を確かめ、そしてそのあとDomがSubに対してcollarと呼ばれる首輪を渡すことで、パートナーシップが成立するらしい。
それらのことを考えると、プレイ相手に恋をするのは当たり前なのかもしれない。
「お前を家に招いてる時点で他に相手がいる可能性は低いし、そもそもいくらglareが効くからってそんな奴なら願い下げだろ。
とっとと好きって言っちゃえばすぐパートナーになれるかもしれないぜ??」
谷津は続ける。
それは世の中の人が聞けばほとんどの人が首を縦に振るう正論かもしれない。
けれど、俺は考えてしまう。
もし由良さんが俺に情けでプレイしてくれているだけだったら…?
由良さんはゲイじゃなくて、もし恋愛感情を伝えたせいでこの関係が壊れてしまうとしたら…?
…それなら、今のままがいい。
glareが効くだけと谷津は言ったが、俺にとってはそれだけじゃない、人生で初めてのことだったのだ。
「ありがとう。いろいろ考えてみるよ、谷津せんぱい。」
おどけて答えてみると、谷津は得意そうに笑った。
「そうだぞ!先輩の言うことだから心して聞くがいい!!
せっかくだから昨夜の俺らのプレイについても教えてやる!今後の参考になっ!」
彼は俺のためを思って色々言ってくれてて、すごくいいやつで頼りになる。
…と、そう思ったのは、ここまでだった。
まず、そのあと谷津が教えてくれた昨夜のプレイが激しすぎてなんと言うか白目を剥きかけた。
さらに後日、行われた執事服の採寸になぜか谷津は来ず(谷津も執事役だったはずだ)、コミュ症を発動した挙句上裸で採寸され女子にキャーキャー騒がれて。
友達とはいえ殺意が湧いたのは、墓まで持っていく秘密である。
谷津(とその彼女)の部屋の前までくると、一旦ドアの前で放置された。中からどたばたと聞くからにやばそうな音がするけれど大丈夫だろうか。
「おっけー!」
ドアを開けた谷津は、軽く息を切らしている。
「…もしかしてどこかにいろいろ突っ込んだ?」
「ふっ…、それは聞かない約束だろっ。」
ドヤ顔でクールっぽく言われても困るんですが。
「もしかして彼女さんの洗濯物もその中に突っ込んだりした?」
「… 」
「風呂場にかけて乾燥機つけなって。それで前喧嘩したでしょ?」
「確かに!!ごめんもーちょっとまってて!!」
「待ってるから、ついでに突っ込んだものも元の位置にね。」
なぜ俺がこんなことを言うかというと、以前この家に来た後、彼女に怒られた、と谷津に泣きつかれたからだ。
ちなみに彼女さんは綺麗好きで、谷津は散らかす専門。エントロピーは増大するだろ?とか笑って言っているけれど、おそらく彼女さんの怒りの方も指数関数的に増大してる。
そんなこんなで15分後。
「待たせたなっ…!!はぁっ…、はぁっ…。」
「お邪魔します。」
洗面所で手を洗ってからダイニングの椅子に向かい合わせに座ると、すでに谷津が目をキラキラさせながらスタンバっている。
「昨日は、カフェに行った後… 」
昨日のことを順番に辿り、丁寧に話していく。
話し下手でだらだらと順番にオチのつかない話を続けてしまったが、谷津は顔を真っ赤にして口を塞いだり机の上に置いた拳を握りしめたりしてめちゃくちゃ真剣に俺の話を聞いてくれた。
「うわっ、甘酸っぱ!!やばい俺ブラックコーヒー飲むわ。幹斗は?」
「砂糖もミルクもよろしく…。」
「まじかお前よくそんな甘い話ししながら甘いもの飲めるな!?」
話の内容が甘いとしても舌で感じる甘さとは無関係だ。そして、プレイについて話しているときは昨夜の記憶を辿って話すだけだったのに、反応を返されると恥ずかしい。
顔、熱くなってきた…。
手でパタパタと仰いでみるけれど、それにたいした効果はない。
「それで相談って?」
仰ぐのをやめ、両手で火照った顔を押さえていると、その間にコーヒーを淹れてくれたらしく、俺にそれを渡しながら谷津が聞いてきた。
「…もやもやするんだ…。」
「もやもや…?」
「由良さんのこと、考えるとなんというかその…。
例えば由良さんは俺とプレイしてくれたけど、あんなにかっこいいから彼女とか奥さんがいるかもしれないし、次もしようって言ってくれたけどそもそも俺とパートナーになってくれるかわからないし…
って考えたら、もやもやっていうか、いらいらっていうか、…怒ってるわけじゃないけど… 」
目の前で谷津が目をまん丸に見開いて口を押さえた。そして先ほどプレイの話をした時よりもさらに反応がいい。
「え!?やだそれ恋じゃね!?」
「…?」
鈍器で頭を殴られたような衝撃だった。この感情の正体が、恋…?
「てゆーか相手に恋するとか当たり前じゃん!恋愛的にも好きだからプレイしてもらったんだろうし、どうせこれからセックスするだろ?」
そのまま続いた谷津の言葉がまるで大砲みたいにガツンと響く。
セックスって、セックス…?
「え、だってパートナーになる時セックスするだろ?」
…そうだった。
もう使うことがないと思って心の棚の1番奥にしまっていた教科書の知識を引き出し、パートナーになる際、結婚する時の結婚式のように、儀式的にセックスを行うということを思い出した。
ちなみにその最中にはglareやcommandを使ってはいけないことになっている。
SubがcommandなしでそのDomと繋がることで、お互いの信頼関係を確かめ、そしてそのあとDomがSubに対してcollarと呼ばれる首輪を渡すことで、パートナーシップが成立するらしい。
それらのことを考えると、プレイ相手に恋をするのは当たり前なのかもしれない。
「お前を家に招いてる時点で他に相手がいる可能性は低いし、そもそもいくらglareが効くからってそんな奴なら願い下げだろ。
とっとと好きって言っちゃえばすぐパートナーになれるかもしれないぜ??」
谷津は続ける。
それは世の中の人が聞けばほとんどの人が首を縦に振るう正論かもしれない。
けれど、俺は考えてしまう。
もし由良さんが俺に情けでプレイしてくれているだけだったら…?
由良さんはゲイじゃなくて、もし恋愛感情を伝えたせいでこの関係が壊れてしまうとしたら…?
…それなら、今のままがいい。
glareが効くだけと谷津は言ったが、俺にとってはそれだけじゃない、人生で初めてのことだったのだ。
「ありがとう。いろいろ考えてみるよ、谷津せんぱい。」
おどけて答えてみると、谷津は得意そうに笑った。
「そうだぞ!先輩の言うことだから心して聞くがいい!!
せっかくだから昨夜の俺らのプレイについても教えてやる!今後の参考になっ!」
彼は俺のためを思って色々言ってくれてて、すごくいいやつで頼りになる。
…と、そう思ったのは、ここまでだった。
まず、そのあと谷津が教えてくれた昨夜のプレイが激しすぎてなんと言うか白目を剥きかけた。
さらに後日、行われた執事服の採寸になぜか谷津は来ず(谷津も執事役だったはずだ)、コミュ症を発動した挙句上裸で採寸され女子にキャーキャー騒がれて。
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