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カフェの中に入ると、駅の周りの騒騒しさとは無縁の、静かで落ち着いた空間が広がっていた。
人はそこそこいるのだが、間取りがゆったりとしているせいか閉塞感がない。
客は、商談をしているスーツを着た人たちやカップルらしい2人組ちらほら。あとは隅でパソコンに向かっている人や、読書をしている人がいる。そしておそらく殆どが社会人。
…どうしよう、俺、浮いてない…?
私服できてしまった自分の存在がひどく場違いな気がしてならず、俺は案内された席に慌ただしく座り、なんとなくメニューで自分の顔を隠した。
対する由良さんはスーツ姿でこの場にものすごく馴染んでいる。
座るときにごく自然にジャケットのボタンを外す仕草などはとても格好良く、学生の俺もいつかはこんな風になりたいと、メニュー越しに見惚れてしまった。
「知り合いでもいた?」
由良さんが不思議そうに尋ねてくる。
「あ、いえ…
…あの、俺浮いてないですか…?」
「どうして?」
くすりと笑って、由良さんはそんなことないよ付け加えた。
「俺私服だし、あと…、髪もその、銀だし…。」
そう。もう半年近くこの色だから普段はあまり気にしていないのだが、俺は髪を銀に染めているのだ。流石にこの場では浮いてしまうのではないかと、心配し始めたら止まらない。
「浮いてないよ。それにその服、似合っているしとてもおしゃれだ。でも確かに…。どうして幹斗君は髪の毛を銀色に?」
「やっぱり変ですか?」
「いや、丁寧に手入れされていてとても綺麗だし、似合っていると思う。でも話せば話すほど、君がそんな髪色をするような子に思えなくて。」
由良さんの目には俺がどんな風に映っているのだろう。ふとそんな疑問が浮かんだ。
髪を染めたのは、別に人に言えない理由じゃない。
ただ、派手な方が女子に遠ざけられるかなと思ったからだ。現に俺のいる工学部の女子は全員ノリはいいが一緒にいる相手を選ぶのには慎重なので、谷津には話しかけるが俺にはほぼ話しかけない。
けれど、それは俺の臆病さを露わにしているようにも思える。
男が好きだと公言するのが怖い。新しい誰かと関わるのが怖い。そんな弱さ。
「大した理由じゃないですよ。…ただ、やってみたかったんです。」
少し考えて、そう答えた。嘘はよくないと思ったが、それ以上に自分の弱さを知られるのが怖かった。やっぱり俺は臆病だ。やっと出会えた由良さんに、バイバイされたくない。
「そっか。
あ、注文決めた?」
素っ気ない答え。まるで俺が嘘をついていると見抜いているようで、少しこわい。
けれどそれ以上に、メニューを顔で隠していたから全くメニューを見ていなかったことに気が付き、恥ずかしくなった。
改めて見ると、やはりどれも高い。カフェだと言うから食事を摂らずに来たけれど、パスタやサンドイッチとセットにしたら、財布が昇天してしまう。
…バイトはじめようかな…
「ミルクティーで。」
食事は家に帰ってから食べようと、とりあえず紅茶を注文した。
「幹斗君、ご飯食べてきた?」
「えっと… 」
由良さんに指摘され、言葉に詰まる。
「じゃあこれとこれ、頼もうか。ここは奢るから、気にしないで。」
「いえ、自分で払います。」
持ち合わせ自体は大丈夫だったはずだ。少し節約すればいい話だし、こんなところで減点されたくない。
しかし由良さんは緩く首を横に振る。
「僕、普段自分のパートナーはとことん甘やかしたいんだ。
…それに、この後するならちゃんと食べておいた方がいい。」
最後の言葉はワントーン低く、脳の奥深くを揺さぶるような力を持っていて、言われた途端に全身が震えた。
この人はすごい、と思う。普段の立ち振る舞いは極めて穏やかなのに、時々ぞっとするほどSub性を刺激してくる。
俺はうなずくので精一杯で、由良さんが店員とアイコンタクトを取り注文を終えてるのをただぼうっと見つめていた。
人はそこそこいるのだが、間取りがゆったりとしているせいか閉塞感がない。
客は、商談をしているスーツを着た人たちやカップルらしい2人組ちらほら。あとは隅でパソコンに向かっている人や、読書をしている人がいる。そしておそらく殆どが社会人。
…どうしよう、俺、浮いてない…?
私服できてしまった自分の存在がひどく場違いな気がしてならず、俺は案内された席に慌ただしく座り、なんとなくメニューで自分の顔を隠した。
対する由良さんはスーツ姿でこの場にものすごく馴染んでいる。
座るときにごく自然にジャケットのボタンを外す仕草などはとても格好良く、学生の俺もいつかはこんな風になりたいと、メニュー越しに見惚れてしまった。
「知り合いでもいた?」
由良さんが不思議そうに尋ねてくる。
「あ、いえ…
…あの、俺浮いてないですか…?」
「どうして?」
くすりと笑って、由良さんはそんなことないよ付け加えた。
「俺私服だし、あと…、髪もその、銀だし…。」
そう。もう半年近くこの色だから普段はあまり気にしていないのだが、俺は髪を銀に染めているのだ。流石にこの場では浮いてしまうのではないかと、心配し始めたら止まらない。
「浮いてないよ。それにその服、似合っているしとてもおしゃれだ。でも確かに…。どうして幹斗君は髪の毛を銀色に?」
「やっぱり変ですか?」
「いや、丁寧に手入れされていてとても綺麗だし、似合っていると思う。でも話せば話すほど、君がそんな髪色をするような子に思えなくて。」
由良さんの目には俺がどんな風に映っているのだろう。ふとそんな疑問が浮かんだ。
髪を染めたのは、別に人に言えない理由じゃない。
ただ、派手な方が女子に遠ざけられるかなと思ったからだ。現に俺のいる工学部の女子は全員ノリはいいが一緒にいる相手を選ぶのには慎重なので、谷津には話しかけるが俺にはほぼ話しかけない。
けれど、それは俺の臆病さを露わにしているようにも思える。
男が好きだと公言するのが怖い。新しい誰かと関わるのが怖い。そんな弱さ。
「大した理由じゃないですよ。…ただ、やってみたかったんです。」
少し考えて、そう答えた。嘘はよくないと思ったが、それ以上に自分の弱さを知られるのが怖かった。やっぱり俺は臆病だ。やっと出会えた由良さんに、バイバイされたくない。
「そっか。
あ、注文決めた?」
素っ気ない答え。まるで俺が嘘をついていると見抜いているようで、少しこわい。
けれどそれ以上に、メニューを顔で隠していたから全くメニューを見ていなかったことに気が付き、恥ずかしくなった。
改めて見ると、やはりどれも高い。カフェだと言うから食事を摂らずに来たけれど、パスタやサンドイッチとセットにしたら、財布が昇天してしまう。
…バイトはじめようかな…
「ミルクティーで。」
食事は家に帰ってから食べようと、とりあえず紅茶を注文した。
「幹斗君、ご飯食べてきた?」
「えっと… 」
由良さんに指摘され、言葉に詰まる。
「じゃあこれとこれ、頼もうか。ここは奢るから、気にしないで。」
「いえ、自分で払います。」
持ち合わせ自体は大丈夫だったはずだ。少し節約すればいい話だし、こんなところで減点されたくない。
しかし由良さんは緩く首を横に振る。
「僕、普段自分のパートナーはとことん甘やかしたいんだ。
…それに、この後するならちゃんと食べておいた方がいい。」
最後の言葉はワントーン低く、脳の奥深くを揺さぶるような力を持っていて、言われた途端に全身が震えた。
この人はすごい、と思う。普段の立ち振る舞いは極めて穏やかなのに、時々ぞっとするほどSub性を刺激してくる。
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