1 / 261
1
しおりを挟む
“ねえねえ、◯◯君はどうだった?”
“どうって?”
“第2性検査”
“俺はDomー!!”
“いいなーかっけー!!僕はNormalだったー残念!”
講義が終わってアパートに帰る途中、下校時刻の中学生達が交わす会話を聞いて、ああそういえばこの時期だったなと少し懐かしく感じた。
「みーきーとっ!!」
不意に後ろから背中を押され、驚いて振り返ると友人の谷津が立っている。
「谷津か。びっくりしたじゃん。」
「ははっ!一緒帰ろー!」
学祭の出し物に向けて染めた真っ赤な髪を雑にかきあげながら、谷津はしてやったりといった風に笑ったあと、先ほど俺が耳を傾けていた中学生達の方を見た。
「そっか第2性検診。懐かしいなー…。」
谷津もやはり彼らの会話に興味が行ったらしい。
「うん。」
「あの時は、Domならかっこいい、Subなら弱そう、Normalならつまらない、くらいの感覚で受けてたよな。」
「だね。」
…成長してもずっと、そう思えたらよかったのな。そんなことを思ったところで無意味だけれど。
考えながら見上げた空は、泣きたいくらいに青くって。それを素直に喜べないくらいには、俺はもう大人になってしまった。
この世界の約10%はDom、Subという第2性を持っている。
簡単に言えばDomはサディスト、Subはマゾヒストである。しかし第2性を持つ者はお互いにプレイと呼ばれる“DomがSubに命令し、Subはそれに従う行為”を行わないと、過度に凶暴的になったり体調を崩したりする。
「大きくなったらあの子もSubのこと、glare放って脅迫したりcommand使ってパシッたりすんのかなー。」
ふと、隣で谷津が漏らした。
Domは目からglareと呼ばれるSubを従える目力のようなものを放つことができる。
Subはそれを見ると恐怖などの感情から震えたり動けなくなったりするのだが、さらにglareを放ちながらcommandという命令形の指示をされると、自分の意思とは無関係にそれに従ってしまうのだ。
自分の認めた主人からされるプレイとしてのそれは至福だが、ただ単純な面倒臭いことの押し付けはSubにとって苦痛でしかない。
「…こっわー…。」
谷津は冗談めいた口調で言ったが、そう言ったいじめは高校でよくあることで、想像しただけで恐ろしい。谷津ももしかしたらやられたことがあるのだろうか。
「まあでも、俺今超美人のパートナーがいるから幸せだけどな!Subだったおかげで彼女とも出会えたし。」
「それはよかった。」
谷津の幸せそうなオチで、会話は終わった。
いいな。幸せで。
そんなことを思いながら、俺と谷津は丁字路で別れた。
お互いにプレイをし合うDomとSubのペアをパートナーという。通常恋人とパートナーは一緒であることが多い。
“お互いのことが性的にも第2性的にも好きな相手と出会えるなんて、運命的だ。”
少なくとも第2性がある人に配られた冊子にはそう書いてあったし、俺にもそう思っていた時期があった。
でも、現実は違う。
glareが効きにくくパートナーが見つからないSubは、Sub性が暴走しないために一夜限りの相手を求め、望まない虐げを受けなくてはならない。
加えてセクシャルマイノリティーであれば尚更パートナーなど見つからない。
…俺みたいに。
“どうって?”
“第2性検査”
“俺はDomー!!”
“いいなーかっけー!!僕はNormalだったー残念!”
講義が終わってアパートに帰る途中、下校時刻の中学生達が交わす会話を聞いて、ああそういえばこの時期だったなと少し懐かしく感じた。
「みーきーとっ!!」
不意に後ろから背中を押され、驚いて振り返ると友人の谷津が立っている。
「谷津か。びっくりしたじゃん。」
「ははっ!一緒帰ろー!」
学祭の出し物に向けて染めた真っ赤な髪を雑にかきあげながら、谷津はしてやったりといった風に笑ったあと、先ほど俺が耳を傾けていた中学生達の方を見た。
「そっか第2性検診。懐かしいなー…。」
谷津もやはり彼らの会話に興味が行ったらしい。
「うん。」
「あの時は、Domならかっこいい、Subなら弱そう、Normalならつまらない、くらいの感覚で受けてたよな。」
「だね。」
…成長してもずっと、そう思えたらよかったのな。そんなことを思ったところで無意味だけれど。
考えながら見上げた空は、泣きたいくらいに青くって。それを素直に喜べないくらいには、俺はもう大人になってしまった。
この世界の約10%はDom、Subという第2性を持っている。
簡単に言えばDomはサディスト、Subはマゾヒストである。しかし第2性を持つ者はお互いにプレイと呼ばれる“DomがSubに命令し、Subはそれに従う行為”を行わないと、過度に凶暴的になったり体調を崩したりする。
「大きくなったらあの子もSubのこと、glare放って脅迫したりcommand使ってパシッたりすんのかなー。」
ふと、隣で谷津が漏らした。
Domは目からglareと呼ばれるSubを従える目力のようなものを放つことができる。
Subはそれを見ると恐怖などの感情から震えたり動けなくなったりするのだが、さらにglareを放ちながらcommandという命令形の指示をされると、自分の意思とは無関係にそれに従ってしまうのだ。
自分の認めた主人からされるプレイとしてのそれは至福だが、ただ単純な面倒臭いことの押し付けはSubにとって苦痛でしかない。
「…こっわー…。」
谷津は冗談めいた口調で言ったが、そう言ったいじめは高校でよくあることで、想像しただけで恐ろしい。谷津ももしかしたらやられたことがあるのだろうか。
「まあでも、俺今超美人のパートナーがいるから幸せだけどな!Subだったおかげで彼女とも出会えたし。」
「それはよかった。」
谷津の幸せそうなオチで、会話は終わった。
いいな。幸せで。
そんなことを思いながら、俺と谷津は丁字路で別れた。
お互いにプレイをし合うDomとSubのペアをパートナーという。通常恋人とパートナーは一緒であることが多い。
“お互いのことが性的にも第2性的にも好きな相手と出会えるなんて、運命的だ。”
少なくとも第2性がある人に配られた冊子にはそう書いてあったし、俺にもそう思っていた時期があった。
でも、現実は違う。
glareが効きにくくパートナーが見つからないSubは、Sub性が暴走しないために一夜限りの相手を求め、望まない虐げを受けなくてはならない。
加えてセクシャルマイノリティーであれば尚更パートナーなど見つからない。
…俺みたいに。
21
お気に入りに追加
704
あなたにおすすめの小説

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。



塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる