跪くのはあなただけ

沈丁花

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ep47

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「やっぱり一葉や。えらい金持ちっぽい人ば連れて、どげんしたと?」

声の方向にいるのは、長い髪を横に束ねている、見知らぬ赤毛の男だった。

隣にはくりっとした目の可愛らしい面立ちをした男性を連れている。Color首輪をつけていることから、彼のSubだと見て取れた。

少なくとも仕事で関わった相手ではないし、クラブでもおそらく会っていない。

「…あんた誰?」

「まーだそんな生意気な喋り方ばしとーと?調教ば足らんかったか?」

彼は片頬を釣り上げて笑いながらそう言うが、どんなに記憶を探っても、彼についての欠片はない。

「みつやさん、あの人誰?」

赤毛の彼は、みつや、と言うのだろうか。その横で彼のSubがコクリと首をかしげた。

興味津々といった様子でくりくりの目を大きく見開き、みつやの顔を覗き込んでいる。

「…専門学校ん実習で調教した子ばい。」

少し気まずそうに、みつやが言った。

「…なにそれ。みつやさん、いつもは調教した子のことなんて覚えてないじゃん。」

彼のSubは少し唇を尖らせ、不安そうに眉をしかめた。笑ったり不思議がったり悲しそうにしたり、ころころと表情が変わるところが可愛らしい。

しかしそのやりとりを聞いて、一葉はますます意味がわからなくなった。彼から調教を受けた覚えなどない。

そもそも一葉は愛染家にきてから一度も、紅司以外に対しSub性で会ったことがないのだから。

「…どう言う意味だ?」

紅司がみつやに向かい、低い声で問いかける。その音は冷静で、しかし確かに怒りの色を帯びていた。

「おそらく人違いでしょう。紅司様、あまり気にされない方がよろしいかと…。」

一葉は紅司にそう進言するが、紅司はみつやを見据えたまま動かない。

本当に知らないんだって!!と、心の中で一葉は何度も毒づく。

「ねえみつやさん、もう行こうよぉ…」

みつやのSubが、更にむくれてみつやの腕にすがりつき、彼の身体をゆさゆさと揺すった。

或斗あると、少し黙っとって。」

「… 」

あると、と呼ばれる彼は、みつやの強い口調で、しゅんとしながらも口を塞いだ。

「10年…いや、それより前になるか。一葉にダイナミクスんコントロールば教えたんが俺ばい。」

10年以上前…?ダイナミクスのコントロール…?

そこまで聞いて、わずかに一葉の脳裏にその記憶が呼び起こされた。

‘くくっ、こりゃあ、おもしろかね。調教のしがいがあるばい。’

確か、2番目の主人に買い取られた直後のことだ。ダイナミクスのコントロールが上手くいかず、調教師に預けられていた期間があった。

よく見れば、彼の面持ちも、見たことがあるような気がしてきて。

「本当か、一葉?」

「…おそらく。あまりいい思い出ではないので、忘れていましたが。」

くつくつと、みつやが面白そうに笑う。何か悪い予感がした。

「…やけん、あんたが相応しか男かくらいは、見極めてやらなね。」

そう言いながら、みつやの目から、容赦ないglareが放たれて…

「見極めるだと?何様のつもりだ。」

紅司も負けじと睨み返したのが、一葉には気配で感じ取れた。
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