跪くのはあなただけ

沈丁花

文字の大きさ
上 下
49 / 57

ep47

しおりを挟む
「やっぱり一葉や。えらい金持ちっぽい人ば連れて、どげんしたと?」

声の方向にいるのは、長い髪を横に束ねている、見知らぬ赤毛の男だった。

隣にはくりっとした目の可愛らしい面立ちをした男性を連れている。Color首輪をつけていることから、彼のSubだと見て取れた。

少なくとも仕事で関わった相手ではないし、クラブでもおそらく会っていない。

「…あんた誰?」

「まーだそんな生意気な喋り方ばしとーと?調教ば足らんかったか?」

彼は片頬を釣り上げて笑いながらそう言うが、どんなに記憶を探っても、彼についての欠片はない。

「みつやさん、あの人誰?」

赤毛の彼は、みつや、と言うのだろうか。その横で彼のSubがコクリと首をかしげた。

興味津々といった様子でくりくりの目を大きく見開き、みつやの顔を覗き込んでいる。

「…専門学校ん実習で調教した子ばい。」

少し気まずそうに、みつやが言った。

「…なにそれ。みつやさん、いつもは調教した子のことなんて覚えてないじゃん。」

彼のSubは少し唇を尖らせ、不安そうに眉をしかめた。笑ったり不思議がったり悲しそうにしたり、ころころと表情が変わるところが可愛らしい。

しかしそのやりとりを聞いて、一葉はますます意味がわからなくなった。彼から調教を受けた覚えなどない。

そもそも一葉は愛染家にきてから一度も、紅司以外に対しSub性で会ったことがないのだから。

「…どう言う意味だ?」

紅司がみつやに向かい、低い声で問いかける。その音は冷静で、しかし確かに怒りの色を帯びていた。

「おそらく人違いでしょう。紅司様、あまり気にされない方がよろしいかと…。」

一葉は紅司にそう進言するが、紅司はみつやを見据えたまま動かない。

本当に知らないんだって!!と、心の中で一葉は何度も毒づく。

「ねえみつやさん、もう行こうよぉ…」

みつやのSubが、更にむくれてみつやの腕にすがりつき、彼の身体をゆさゆさと揺すった。

或斗あると、少し黙っとって。」

「… 」

あると、と呼ばれる彼は、みつやの強い口調で、しゅんとしながらも口を塞いだ。

「10年…いや、それより前になるか。一葉にダイナミクスんコントロールば教えたんが俺ばい。」

10年以上前…?ダイナミクスのコントロール…?

そこまで聞いて、わずかに一葉の脳裏にその記憶が呼び起こされた。

‘くくっ、こりゃあ、おもしろかね。調教のしがいがあるばい。’

確か、2番目の主人に買い取られた直後のことだ。ダイナミクスのコントロールが上手くいかず、調教師に預けられていた期間があった。

よく見れば、彼の面持ちも、見たことがあるような気がしてきて。

「本当か、一葉?」

「…おそらく。あまりいい思い出ではないので、忘れていましたが。」

くつくつと、みつやが面白そうに笑う。何か悪い予感がした。

「…やけん、あんたが相応しか男かくらいは、見極めてやらなね。」

そう言いながら、みつやの目から、容赦ないglareが放たれて…

「見極めるだと?何様のつもりだ。」

紅司も負けじと睨み返したのが、一葉には気配で感じ取れた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

処理中です...