跪くのはあなただけ

沈丁花

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ep37

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指示された場所は荒れ果てた、すでに使われていない大きな倉庫のような場所。

駐車場らしき駐車場もなくて、一葉は敷地内の隅に車を止めた。

降り続く雨は容赦なくコンクリートを打ち付ける。

「…紅司様。」

「ああ。」

時計の長針が動いて、13時20分を示す。

指示された時刻の10分前だ。

車から出て助手席側のドアを開け、出てくる紅司に傘を差し出す。

「今は執事としてではなく、パートナーとして来ているんだ。そんなことはしなくていい。」

紅司は傘を自分で持つと、一葉に向かって微笑みかける。…その口角はひきつり、震えていた。



「時間は守れたみたいだね、ここまでお疲れ様。そこのドアをくぐって。あと、そこから先はグレア禁止。」

誰かはわからない、しかし聴き覚えのある能天気な声が、コンクリートで反響した。上に無造作に付けられたスピーカーから発せられているようだ。

入り口から入ってすぐのスペースには何もなく、正面に手動のドアが付いている。

「私が先に。」

2人で来た時点で、紅司を守れるのは一葉しかいない。ドアノブに触れて少し動かし、妙な挙動がないのを確認してからゆっくりと押し出す。

「なんで来たの、こうちゃんっ!!」

遠くに見える、何人かの男の手で押さえつけられた女性が、大きな声で一葉たちに怒鳴りかけた。

間近で聞くのは半年ぶりだが、紅司と一緒に通話で話すことはあったから、その声だけで紅司の妹、桃香だとわかる。

部屋には30人ほどスーツをまとった男性がいる。おそらく、全員なんらかの訓練を受けている人だ。

うしろでひゅっと、紅司の息を呑む音が聞こえた。

桃香の首元によく研がれたナイフの先端が突きつけられたからだ。白い首に、赤い血が妙に映える。

取り乱した桃香にナイフを持った男が何かをささやき、桃香は抵抗をやめた。
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