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ep28
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…紅司の手術が終わってから4日目。
縁起の悪い数字だと心の中で毒づきながら、一葉は紅司の身体を、湯をくぐらせたタオルで丁寧に拭いていった。
まだ、彼は目を覚まさない。それが不安で、面会時間以外ずっと、通い続けている。
当主からは紅司の専属執事なのだから、ついて世話をしてやれとの命令だ。
こんこん、ドアをノックする音が聞こえる。
「どうぞ。」
「失礼します。」
入ってきたのは紅司の主治医。酒々井と言うらしい。まだ30半ばと若いが、紅司の知り合いで腕は確かだと言う。
「まだ目は覚めないけど、特に異常も見られないね。君も無理せず休みなさい。」
優しそうに笑う彼もまた、紅司を見て心配の色を浮かべている。
俺に休む資格なんてない、と言いたい言葉を飲み込んで、一葉は素直に頭を下げた。
「じゃあ、何かあったら呼んでね。」
酒々井がそのまま病室を後にして、再び一葉は紅司と2人きりになる。
「…あの時、どうして俺を止めたの。紅司様。」
もしも、なんて考えても仕方ない。仕方ないけれど考えてしまう。
相手の標的は紅司だった。なら一葉を盾にしておけばそもそも撃ってこなかったのではないか。
それにそのことを差し置いても、愛染家の跡取りという立場にある紅司が一葉の盾になるなんて常識ではありえない。
正直、泣きそうだ。彼に守ってもらう価値なんて自分にはない。
いつだって真摯に向き合ってくれた彼を最後まで信用できなかった。もし彼が目を覚まさなかったら、いっそ死んだほうがましだと思うほどに、苦しくて。
不意に、涙が自らの頬を伝い、紅司の瞼を濡らした。
「残された方の気持ち、考えてよ。もし起きなかったら、あなたが好きだって、そんなことも伝えられないでしょう… 」
「それは本当か?」
「えっ!?」
とつぜんすぐそばから聞こえてきた声に、一葉は驚いて変な声をあげる。
気づけば紅司の目が開いていて、真剣な眼差しを浮かべていた。
「紅司様っ!すぐ酒々井さんに連絡をっ!!」
慌てふためき携帯を取ろうとする一葉の右腕を、紅司の節ばった手が力なく掴む。それを振り払うこともできなくて、一葉はピタリと手を止めた。
「…俺が好きだと言った。本当か?」
縁起の悪い数字だと心の中で毒づきながら、一葉は紅司の身体を、湯をくぐらせたタオルで丁寧に拭いていった。
まだ、彼は目を覚まさない。それが不安で、面会時間以外ずっと、通い続けている。
当主からは紅司の専属執事なのだから、ついて世話をしてやれとの命令だ。
こんこん、ドアをノックする音が聞こえる。
「どうぞ。」
「失礼します。」
入ってきたのは紅司の主治医。酒々井と言うらしい。まだ30半ばと若いが、紅司の知り合いで腕は確かだと言う。
「まだ目は覚めないけど、特に異常も見られないね。君も無理せず休みなさい。」
優しそうに笑う彼もまた、紅司を見て心配の色を浮かべている。
俺に休む資格なんてない、と言いたい言葉を飲み込んで、一葉は素直に頭を下げた。
「じゃあ、何かあったら呼んでね。」
酒々井がそのまま病室を後にして、再び一葉は紅司と2人きりになる。
「…あの時、どうして俺を止めたの。紅司様。」
もしも、なんて考えても仕方ない。仕方ないけれど考えてしまう。
相手の標的は紅司だった。なら一葉を盾にしておけばそもそも撃ってこなかったのではないか。
それにそのことを差し置いても、愛染家の跡取りという立場にある紅司が一葉の盾になるなんて常識ではありえない。
正直、泣きそうだ。彼に守ってもらう価値なんて自分にはない。
いつだって真摯に向き合ってくれた彼を最後まで信用できなかった。もし彼が目を覚まさなかったら、いっそ死んだほうがましだと思うほどに、苦しくて。
不意に、涙が自らの頬を伝い、紅司の瞼を濡らした。
「残された方の気持ち、考えてよ。もし起きなかったら、あなたが好きだって、そんなことも伝えられないでしょう… 」
「それは本当か?」
「えっ!?」
とつぜんすぐそばから聞こえてきた声に、一葉は驚いて変な声をあげる。
気づけば紅司の目が開いていて、真剣な眼差しを浮かべていた。
「紅司様っ!すぐ酒々井さんに連絡をっ!!」
慌てふためき携帯を取ろうとする一葉の右腕を、紅司の節ばった手が力なく掴む。それを振り払うこともできなくて、一葉はピタリと手を止めた。
「…俺が好きだと言った。本当か?」
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