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ep27
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もう半日は経っただろうか。
開かない手術室のドアの前、一葉はただ紅司が助かることだけを願っていた。
一葉の周りには先程から付いていた警護人2人以外に誰もいない。愛染家の人が外出をするのにこの状況はあまりにも危険だからだ。
「一葉さん、少し休んでください。それとこれを。」
「…?」
隣から菓子パンが差し出される。気づけば、日付が変わっていた。
何か食べる気分でもないが、2人があまりに心配そうにこちらを覗くから袋を開け手をつける。
紅司の妹とあった際に食べたケーキ以来初めて口に入れたパンは、全くなんの味もしない。
食べ終わり、周囲にゴミ箱を探していると、ガラリと手術室のドアが開いて、一葉たちは一斉に立ち上がった。
「紅司様はっ…!?」
「…手術は成功です。しかし意識が戻るにはまだ時間がかかるでしょう…。」
疲れ切った表情の医師が、気怠げにそう答える。見れば他の医師や看護師達も疲れ切っていて、つい食らいついた自分を反省する。
「…ありがとうございました。」
ひとまずホッと息を吐き、一葉は手術室から出てきた紅司の身体に視線を移した。
…自分の無力さが恨めしい。
あの時、紅司に危険が及ぶとわかっていながら、一葉の足は全く動かなかった。そして紅司に致命傷を負わせてしまったのだ。
そして、ここまで思われていながら彼を信頼できなかった自分が、本当に、本当に…。
せめて紅司が目覚めるまで側にいよう。自分にはその責任がある。
そしてもし、まだ彼が一葉をパートナーに望むなら。もし、彼が一葉と一緒にいたいと言うのなら。
彼がどうしてここまで一葉に執着するのかはわからないが、彼だけのSubになる。そう心に誓った。
考えてみれば、今までの一葉の主人と彼を、比べることすら失礼だった。彼らと紅司ではあまりに違いがありすぎるから。
…雨は、まだ止まない。
開かない手術室のドアの前、一葉はただ紅司が助かることだけを願っていた。
一葉の周りには先程から付いていた警護人2人以外に誰もいない。愛染家の人が外出をするのにこの状況はあまりにも危険だからだ。
「一葉さん、少し休んでください。それとこれを。」
「…?」
隣から菓子パンが差し出される。気づけば、日付が変わっていた。
何か食べる気分でもないが、2人があまりに心配そうにこちらを覗くから袋を開け手をつける。
紅司の妹とあった際に食べたケーキ以来初めて口に入れたパンは、全くなんの味もしない。
食べ終わり、周囲にゴミ箱を探していると、ガラリと手術室のドアが開いて、一葉たちは一斉に立ち上がった。
「紅司様はっ…!?」
「…手術は成功です。しかし意識が戻るにはまだ時間がかかるでしょう…。」
疲れ切った表情の医師が、気怠げにそう答える。見れば他の医師や看護師達も疲れ切っていて、つい食らいついた自分を反省する。
「…ありがとうございました。」
ひとまずホッと息を吐き、一葉は手術室から出てきた紅司の身体に視線を移した。
…自分の無力さが恨めしい。
あの時、紅司に危険が及ぶとわかっていながら、一葉の足は全く動かなかった。そして紅司に致命傷を負わせてしまったのだ。
そして、ここまで思われていながら彼を信頼できなかった自分が、本当に、本当に…。
せめて紅司が目覚めるまで側にいよう。自分にはその責任がある。
そしてもし、まだ彼が一葉をパートナーに望むなら。もし、彼が一葉と一緒にいたいと言うのなら。
彼がどうしてここまで一葉に執着するのかはわからないが、彼だけのSubになる。そう心に誓った。
考えてみれば、今までの一葉の主人と彼を、比べることすら失礼だった。彼らと紅司ではあまりに違いがありすぎるから。
…雨は、まだ止まない。
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