26 / 57
ep24
しおりを挟む
…驚くほど早かったな。
着替えている紅司を前にして、漠然とそんなことを考えた。
彼とパートナー契約を結んでから今日で1ヶ月。
今日、一葉がYesと言わなければ一葉は紅司専属の執事ではなくなり、一時的なパートナーシップも解消されるのだ。
…少し、寂しいな。
紅司とのプレイは気持ちいい。でも、寂しい理由はそれだけではない。
パートナーというだけでここまで甘くなるのかというほど、プレイ時以外の紅司は一葉に優しくて、
プレイ中でさえむやみに一葉を痛めつけたりせず、巧みな言葉術とテクニックで絶頂まで連れて行ってくれる。
…一緒にいて、紅司が一葉を無碍にすることはないと、もう痛いほどに理解した。
しかし、時間を共にすればするほど、自分がこの人の隣を占領することが申し訳なくて。
…あの人が好きだ。そう、言い切れる。
幸せになって欲しくて、だから離れることにした。
…もし、自分がDomだったなら、
…もしくはnormalだったなら。
抑制剤やプレイなどなくても、ただそばで仕えることができただろうか。
あるいはSubだったなら、一生初恋の人といっしょにいることができただろうか。
少し考えて、放棄する。
考えたって意味がないことだから。
「考えは変わらないのか?一葉。」
ふと、隣で凛とした低い声が一葉に問いかけた。羽織りかけのシャツの合わせから覗く筋肉質な上半身も、今日で見るのは最後だろう。
「…変わりません。私は常にDomでありたい。」
「そうか。」
伏し目がちにそう言った紅司の声は悲しげに響いた。
そんなに苦しそうにしないで欲しい。罪悪感が残るじゃないか。
「最後に、1つ、付き合って欲しい場所がある。付いてきてくれるか?」
「…?ええ。もちろんです。」
「私服を頼む。一葉も私服に着替えてこい。」
私服?
私服だなんて、珍しい…というより、そもそも見たことすらない。
「かしこまりました。」
クローゼットの中から紅司の私服を適当に見繕い、紅司に渡す。
さすが愛染家の跡取りだけあって、一葉が手を出せないような高級ブランドがずらり並んでいた。
「朝食を済ませたらすぐに出る。一葉も今のうちに着替えておいてくれ。」
「…ですがそれでは朝食の給仕が…」
一応、仕事だ。仕事中に私服を着るのは気がひける。
「構わない。私服で運んだものとその服で運んだものに味の変化はないだろう。」
「……着替えてまいります… 」
ぐうの音も出ない正論に、歯向かうのも面倒だったから、一葉はそのまま自室に向かった。
着替えている紅司を前にして、漠然とそんなことを考えた。
彼とパートナー契約を結んでから今日で1ヶ月。
今日、一葉がYesと言わなければ一葉は紅司専属の執事ではなくなり、一時的なパートナーシップも解消されるのだ。
…少し、寂しいな。
紅司とのプレイは気持ちいい。でも、寂しい理由はそれだけではない。
パートナーというだけでここまで甘くなるのかというほど、プレイ時以外の紅司は一葉に優しくて、
プレイ中でさえむやみに一葉を痛めつけたりせず、巧みな言葉術とテクニックで絶頂まで連れて行ってくれる。
…一緒にいて、紅司が一葉を無碍にすることはないと、もう痛いほどに理解した。
しかし、時間を共にすればするほど、自分がこの人の隣を占領することが申し訳なくて。
…あの人が好きだ。そう、言い切れる。
幸せになって欲しくて、だから離れることにした。
…もし、自分がDomだったなら、
…もしくはnormalだったなら。
抑制剤やプレイなどなくても、ただそばで仕えることができただろうか。
あるいはSubだったなら、一生初恋の人といっしょにいることができただろうか。
少し考えて、放棄する。
考えたって意味がないことだから。
「考えは変わらないのか?一葉。」
ふと、隣で凛とした低い声が一葉に問いかけた。羽織りかけのシャツの合わせから覗く筋肉質な上半身も、今日で見るのは最後だろう。
「…変わりません。私は常にDomでありたい。」
「そうか。」
伏し目がちにそう言った紅司の声は悲しげに響いた。
そんなに苦しそうにしないで欲しい。罪悪感が残るじゃないか。
「最後に、1つ、付き合って欲しい場所がある。付いてきてくれるか?」
「…?ええ。もちろんです。」
「私服を頼む。一葉も私服に着替えてこい。」
私服?
私服だなんて、珍しい…というより、そもそも見たことすらない。
「かしこまりました。」
クローゼットの中から紅司の私服を適当に見繕い、紅司に渡す。
さすが愛染家の跡取りだけあって、一葉が手を出せないような高級ブランドがずらり並んでいた。
「朝食を済ませたらすぐに出る。一葉も今のうちに着替えておいてくれ。」
「…ですがそれでは朝食の給仕が…」
一応、仕事だ。仕事中に私服を着るのは気がひける。
「構わない。私服で運んだものとその服で運んだものに味の変化はないだろう。」
「……着替えてまいります… 」
ぐうの音も出ない正論に、歯向かうのも面倒だったから、一葉はそのまま自室に向かった。
10
お気に入りに追加
408
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています


初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる