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ep17
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無言の浴室に、シャワーの水音と自らの心音だけがやけに大きくて。
ただ、その状態でじっと、互いの温度を確かめていた。
「…俺じゃだめなのか。」
先に沈黙を破ったのは、紅司だった。
「…?」
紅司の言っている意味が理解できなくて、一葉は沈黙を貫く。
「…俺は身体に合わない抑制剤を使ってまでプレイを避けたい存在か?」
…なるほど。
…もし、そういうわけじゃない、と言ったらじゃあどうして、と返ってくるだろうか。
ぐるぐる考えているうちに、また紅司が口を開いた。
「…俺を、パートナーにしてくれないか。一葉。」
その温もりを、抱きしめる強さを、そして小刻みに震える自信なさげな声を、一言で断ることなどできない。
それでももう、信頼したDomに捨てられるのはごめんだし、
もし捨てられずに一緒にいてくれるとしても、紅司には、一葉といては手に入らないものがある。
…跡取りとして選ばれたなら、女性と結婚し子を残さなければならない。
「…私は、紅司様だけでなく、全てのDomを信用できません。それは、過去の出来事のせいです。」
全ての事実は伝えず、目をそらしながら彼を傷つけないための最低限の事実だけ伝えた。
「一葉の過去に何があったか知らないが、俺は大切にする。必ず。」
紅司は一葉の顎を掴み、穴が空くほどにじっと目を覗き込むと、強い口調でそう告げる。
その瞳を見ていると、すぐにでも従いたくなる自分がいた。
…彼が偽りを言っていると思っているわけではない。
一葉をDefenseしたのだから、少なくとも遊び感覚ではないこともわかる。
ただ、ただ…。
「ずっと一緒にはいられないっ…からっ……」
苦し紛れの声が漏れる。
…100がないなら0がいい、弱い自分を呪った。
ただ、その状態でじっと、互いの温度を確かめていた。
「…俺じゃだめなのか。」
先に沈黙を破ったのは、紅司だった。
「…?」
紅司の言っている意味が理解できなくて、一葉は沈黙を貫く。
「…俺は身体に合わない抑制剤を使ってまでプレイを避けたい存在か?」
…なるほど。
…もし、そういうわけじゃない、と言ったらじゃあどうして、と返ってくるだろうか。
ぐるぐる考えているうちに、また紅司が口を開いた。
「…俺を、パートナーにしてくれないか。一葉。」
その温もりを、抱きしめる強さを、そして小刻みに震える自信なさげな声を、一言で断ることなどできない。
それでももう、信頼したDomに捨てられるのはごめんだし、
もし捨てられずに一緒にいてくれるとしても、紅司には、一葉といては手に入らないものがある。
…跡取りとして選ばれたなら、女性と結婚し子を残さなければならない。
「…私は、紅司様だけでなく、全てのDomを信用できません。それは、過去の出来事のせいです。」
全ての事実は伝えず、目をそらしながら彼を傷つけないための最低限の事実だけ伝えた。
「一葉の過去に何があったか知らないが、俺は大切にする。必ず。」
紅司は一葉の顎を掴み、穴が空くほどにじっと目を覗き込むと、強い口調でそう告げる。
その瞳を見ていると、すぐにでも従いたくなる自分がいた。
…彼が偽りを言っていると思っているわけではない。
一葉をDefenseしたのだから、少なくとも遊び感覚ではないこともわかる。
ただ、ただ…。
「ずっと一緒にはいられないっ…からっ……」
苦し紛れの声が漏れる。
…100がないなら0がいい、弱い自分を呪った。
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