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ep14
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地響きのような声音から、顔を見なくとも彼がいかに激怒しているかがわかる。
場がプレイの雰囲気ではなくなったためcommandが解け、一葉は震える手でかろうじてシャツを羽織った。
恐る恐る振り返れば、紅司が蘭の胸ぐらをつかみ、その身体を持ち上げている。
そして紅司の瞳からは、自分に向けられたものでなくとも恐怖を感じるレベルの強烈なglareが放たれてた。
蘭は身体を動かせないどころか声も出ないといった様子でがたがたと震えている。
雨に濡れることなど構いなしに、紅司は傘を捨てていて。
彼は黒い瞳にわずかに赤が混じっているよう錯覚するほどに怒っていた。
「ぐはっ…!」
なんの躊躇もなく硬直した蘭の腹に容赦ない拳が入る。
訓練を受けていない身ならば簡単に骨が折れる強さだ。蘭は震えながら悲鳴をあげた。
続けて紅司は蘭の頬を平手で殴りつけ、鳩尾にまで容赦なく拳を入れようとして。
Defenseといい、Domはパートナー、またはそうでなくても意中のSubが傷つけられた時、護ろうとして暴走することがある。
そうなると周りが見えなくなり、自制が効かなくなるのだ。
「おやめくださいっ!!」
彼が相手の命など構わないような、そんな恐ろしい目をしていたから、たまらず一葉は大声で叫んだ。
驚きからか紅司の手から蘭の襟が離れ、すぐさま一葉は彼の手を掴み動きを封じる。
たまったものではない。自分なんかのために、彼がここまで積み上げてきたものを壊すなんて。
「どうして止める。こいつはお前を傷つけた。」
まだ収まらない怒りを含んだ声が、一葉に柔らかに問いかけた。
その瞬間紅司と目があって、身体が熱くて、たまらなくなる。
「こんなことで紅司様が手を汚すなら、私は愛染家を出ていきます。」
熱を持つ自分の浅はかな本能に鞭を打ち、精一杯の強がりで笑って、一葉はそう答える。
紅司は唇をぐっと噛むと、諦めたように無言で乗車し車のドアを閉めた。
「…お前はクビだ、出て行け。」
吐き捨てるように蘭にそう言って、紅司は蘭を駐車場に置きざりにしてもう1人の警護人に運転を任せる。
車窓から覗いた蘭は、コンクリートの上に座って動かずずっと震えていた。
一葉に残る、目立った傷は、頬の腫れくらいだろう。
実際、性器に突きつけられたナイフが肌をかすめることはなかったし、背中は殴られる前に紅司がきてくれた。
「…腫れてるな。」
紅司は形の良い唇を歪め、憂うような表情で一葉の頬にそっと触れる。濡れた前髪の間からのぞいた切れ長の瞳が、ひどく色気を帯びていて。
…どうしてそんな顔をするのだろうか、と不思議に思った。彼の表情は本当に心配そうに歪んでいる。
熱を帯びた頬に雨で冷やされた手が心地よくて、一葉はそのまま目を閉じた。
…熱い。
でも、この熱はどこか心地いい…。
一葉は紅司の肩に身体を預けて、
頭に乗せられた大きな手がやけに優しいのを感じながら、次第に意識を手放していった。
場がプレイの雰囲気ではなくなったためcommandが解け、一葉は震える手でかろうじてシャツを羽織った。
恐る恐る振り返れば、紅司が蘭の胸ぐらをつかみ、その身体を持ち上げている。
そして紅司の瞳からは、自分に向けられたものでなくとも恐怖を感じるレベルの強烈なglareが放たれてた。
蘭は身体を動かせないどころか声も出ないといった様子でがたがたと震えている。
雨に濡れることなど構いなしに、紅司は傘を捨てていて。
彼は黒い瞳にわずかに赤が混じっているよう錯覚するほどに怒っていた。
「ぐはっ…!」
なんの躊躇もなく硬直した蘭の腹に容赦ない拳が入る。
訓練を受けていない身ならば簡単に骨が折れる強さだ。蘭は震えながら悲鳴をあげた。
続けて紅司は蘭の頬を平手で殴りつけ、鳩尾にまで容赦なく拳を入れようとして。
Defenseといい、Domはパートナー、またはそうでなくても意中のSubが傷つけられた時、護ろうとして暴走することがある。
そうなると周りが見えなくなり、自制が効かなくなるのだ。
「おやめくださいっ!!」
彼が相手の命など構わないような、そんな恐ろしい目をしていたから、たまらず一葉は大声で叫んだ。
驚きからか紅司の手から蘭の襟が離れ、すぐさま一葉は彼の手を掴み動きを封じる。
たまったものではない。自分なんかのために、彼がここまで積み上げてきたものを壊すなんて。
「どうして止める。こいつはお前を傷つけた。」
まだ収まらない怒りを含んだ声が、一葉に柔らかに問いかけた。
その瞬間紅司と目があって、身体が熱くて、たまらなくなる。
「こんなことで紅司様が手を汚すなら、私は愛染家を出ていきます。」
熱を持つ自分の浅はかな本能に鞭を打ち、精一杯の強がりで笑って、一葉はそう答える。
紅司は唇をぐっと噛むと、諦めたように無言で乗車し車のドアを閉めた。
「…お前はクビだ、出て行け。」
吐き捨てるように蘭にそう言って、紅司は蘭を駐車場に置きざりにしてもう1人の警護人に運転を任せる。
車窓から覗いた蘭は、コンクリートの上に座って動かずずっと震えていた。
一葉に残る、目立った傷は、頬の腫れくらいだろう。
実際、性器に突きつけられたナイフが肌をかすめることはなかったし、背中は殴られる前に紅司がきてくれた。
「…腫れてるな。」
紅司は形の良い唇を歪め、憂うような表情で一葉の頬にそっと触れる。濡れた前髪の間からのぞいた切れ長の瞳が、ひどく色気を帯びていて。
…どうしてそんな顔をするのだろうか、と不思議に思った。彼の表情は本当に心配そうに歪んでいる。
熱を帯びた頬に雨で冷やされた手が心地よくて、一葉はそのまま目を閉じた。
…熱い。
でも、この熱はどこか心地いい…。
一葉は紅司の肩に身体を預けて、
頭に乗せられた大きな手がやけに優しいのを感じながら、次第に意識を手放していった。
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