跪くのはあなただけ

沈丁花

文字の大きさ
上 下
5 / 57

ep3

しおりを挟む
「一葉さんっ!今日は僕!!」

「えー俺も一葉さんがいい!」

一葉の姿を確認するなりわっと2人のSubが駆け寄ってきた。

彼らは予め調教で脱ぎやすいよう、裸の上に店で貸し出されるワンピースタイプのルームウェアをまとっている。

わらわらと周りに集まる姿は、まるでゲームに群がる子供のようで…。

愛らしい光景に、圧しかかるストレスが少しだけ和らいだ気がした。さっきのことも、今だけは忘れよう。

「じゃあ、順番ね。先に綾人あやとから。友里ゆうりは前にしたから2番目。」

「「やった!」」

これから調教を受けるというのに、2人は無邪気な表情で笑う。先に綾人の手を取って、一葉は優しく問いかけた。

「体調は?」

「元気だよー!ていうかそんなこと聞くの一葉さんくらい!!」

「それは良かった。」

大切に頭を撫でてやれば、綾人は目を細め心地好さそうに喉を鳴らす。

SubはDomの宝物。自分に全てを預けるSubを、一葉は決して傷つけてはならない。

ぺたん、と綾人がカーペットにおすわりすると、短い裾越しに小さな雄がのぞく。

期待と羞恥に潤んだ瞳がシャンデリアの光を乱反射して煌いて。

「…じゃあ、始めるよ。」

ワントーン一葉が声を下げれば、2人の間に主従関係が生まれる。

Strip脱げ、andそして roll転がれ.」

ガチャリ。

一葉の冷たい声に重なるように、店のドアが一気に開かれた。



調教中にドアが開くことなどざらである。

しかし一瞬で凍りついた店内の空気に、服の裾に手をかけた綾人が震えていて。

「綾人、wait待て。」

優しい声でそう告げれば、綾人はほっとしたように脱ぐのをやめた。

ごめんなさい、と小さく漏らした唇は、微笑みながら人差し指でそっと塞いでやる。

綾人の頭を撫でながら、視線をドアの方へと移動させ…

こつこつと聞き覚えのある足音が近づいてきて、その姿を見て凍りついたのは一葉の方だった。


「偶然だな。」

きりっと引き締まった低い声の主は、明日から一葉の主人となる人だった。

なぜ彼がここにいるのか、理由ははっきりしている。この辺りで会員制の安全なクラブといえばここしかない。

彼は目前まで迫ってきたが、目が合えば取り返しがつかなくなるとわかっていたから、失礼とわかっていながら敢えて少し視線をそらす。

「一葉さん、知り合い?」

綾人が不思議そうに問いかけてきて、一葉は綾人の方に視線を移動させようとした。

しかしその過程で紅司と視線が交錯し、身体が反応し熱くなる。

「…うん、まあ。」

平然を装って答えたが、わずかな声の振動は消えることができない。

綾人は首を傾げてにっこり笑うとぎゅっと一葉の腕に抱きついて、やけに明るい声で話してきた。

「ごめん、僕、急用思い出しちゃった。ね、友里もそうだよね?」

「あっ…、そうそう!俺ら明日提出の課題があって!一葉さん、またね。」

…気を使われたとわかっていても、用事があると言われては止めることができない。

彼らが帰って少し経った後、もうそんな気分にもなれなくて、一葉は会計を済ませ外へ出た。

その後から、紅司が付いてくる。

ほぼ同時に店の外に出て、一葉は紅司には何も告げなかった。別に彼とプレイをしたわけでもないし、今はプライベートの時間だから。

なんだか身体が火照っているし、速やかに帰ろう…

しかし。

家路につこうとした一葉の腕は、いきなりがしっと掴まれた。

「なに?」

振り向いた先にあったのは紅司の姿。

「その表情かおで一人で帰る気か?行き先は同じだろう。乗っていけ。」

「…仰る意味がわかりません。私のことはお構いなく。」

目を合わせないように努めながらやんわりとその手を剥がそうとすると、より強い力で引っ張られて。

「えっ、ちょっと待って…!?なに!?」

ぐいぐいと手を引かれ、連れて行かれた先には運転手の乗ったロールス・ロイス。その中に一葉は無理やり押し込められた。

「自宅まで頼む。」

「待って、ほんと、なに!?いいって!!」

一葉の言葉になど御構い無しに、紅司の指示通り車は進む。

静かな車内に流れるモーツァルトは、やけに大きく感じられた。

身体が熱くてたまらない。

…息が上手くできないほどに。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

処理中です...