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決断と番うとき
それから。
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あの日、アルはとんでもない格好だったため、学会が終わりヴィクターが迎えに来るまで2人は廃墟の中でじっとしていた。
そしてアランもまた、アルに付き添ってデネボラにきて、今日で1週間目。
国は驚くほどあっさりとΩへの差別を撤廃し、アランたちの開発した抑制剤を大量生産した。すでに1年ほどの治験を経て、人体に即物的な影響は与えないと証明されている。
今までの均衡が崩れることよりも、Ωの人、又はΩを家族に持つ人などによる大規模な反対運動を恐れたのだろう。
まだ問題は多くても、大きすぎる進歩だ。
ヨルは、事情を聞いて激怒したエレンに無事(?)回収された。組織員の大規模なヒートもおさまり、今は仕事を託して安静にしている。
そして。
デネボラの最上階では暇そうにあくびをしたヨルと、アルとアランが対峙していた。
部屋のソファでは興味なさそうにエレンが足をブラブラさせていた。明るいブラウンのふわふわな髪の毛に、ぴょこっと寝癖が立っていて可愛らしい。
「辞めるのか?」
ヨルに問いかけられ、アルは首を横に振った。ちらり、とアルが目配せをして、アランが口を開く。
「俺を、エレンさんの手伝いとして雇っていただけませんか?」
ここは隔離された空間。もし2人ともこの中での生活を許してもらえるなら、それは喜ばしいことだった。
それに、エレンの負担は組織員が増えるたびに増加していく。
「はぁー!?僕は役立たずな手伝いなんていらないし、新しい人と関わりを作るのも面倒臭い。」
「エレン、あの、お前最近忙しそうだし?それにクライアントにその口の聞き方h「うるさいヨルは黙ってて!」
…想像以上のひどい言い様に、アルだけでなくヨルまでもが頭を抱えた。反応からしてヨルは肯定側らしい。
「あの… 」
何か別の道を、とアランに告げようとした時には、隣から彼の姿が消えていた。
「エレンさん、お久しぶりです。」
ぴたり、とエレンの動きが止まった。しかし固まったのはエレンだけではない。
アルもまたぎょっとした。冷や汗が止まらない。なぜかというと、アランがエレンの前に立ち、今日は化粧もしていないのにウィッグもコンタクトも外してしまったからである。
「ア…アラン!お前、生きてたのか!?心配したじゃないかばかっ!というか名乗れ。お前を拒んだりしない。
なんだその格好、元の容姿を廃らせてどうする。」
数分間の沈黙の後、エレンの口からいつも通り憎まれ口が飛び出した。ただ…
「ヨルさん、状況が読み込めません… 」
「奇遇だな、アル。俺もだ。」
よくわからないままアルたちは彼ら2人が話しているのを傍聴する。しばらく聞いていると、エレンのいとこがアランの研究室で働いており、接点があったらしいことがわかった。
「ということはあの薬もアランが?よくやったな、お前。偉いよ。」
エレンがこんなに優しそうに人を褒めるのは初めて見た。ヨルも驚いている。アランも褒められて嬉しそうだった。
「というわけで、今日から手伝ってもらうから。
…あ、でもお前、αだよな?ここ、組織員はΩしかいないんだけど。」
エレンが気まずそうにヨルとアルの方を見た。そう、デネボラの内部にいればヒートのΩに出会う機会も少なくない。
でも、確か彼は抑制剤を含んでいると言っていた。
「ああ、抑制剤を服用しているので大丈夫です。」
「抑制剤って、あの、α用の?お前副作用を知っていて使っているのか?今すぐやめろ!」
「大丈夫です。俺、遺伝子操作の影響でもともと精子が作られない体質なんです。だから、薄くなるも何もありません。」
「作られないって、全く?」
「ええ、全く。」
「… 」
そこで2人(エレンとアラン)の会話は途切れた。
「…ところでアル、お前はあの人とどういう関係なんだ?」
こそっとヨルに耳打ちされて、アルも彼の耳元でこそっと返す。
「…俺の、運命の番です。」
「はぁーっ!!!???」
ヨルのその叫び声はデネボラ中に響き渡ったのではないかというほど大きかった。
そこからは言えよ水臭い!だとか任務中に俺に隠し事をするな!だとか拗ねた調子のヨルに散々言われた後、なんだかんだで2人用の部屋に移動させてもらうことになって。
「そういえばアランさんはここ数日どこへ?」
思い出したようにヨルがアランに問いかけた。
「ヴィクターさんの許可を頂いて、空き部屋に。食事はアルが作ってくれて…。」
「ああ、そういえば世話人さんたちがそんなことを言っていたような…
いやぁ、しかしなんというかめでたいなぁ。あの夜自殺しようとしていたお前が。
部屋替えはヴィクターとカイ達に手伝わせるか。仕事とかもろもろも、後で連絡する。」
「「ありがとうございます。」」
これからのことも決まってきて、アランともいることができて、なんて幸せなのだろうと一安心した。
そのままアランを連れて部屋を出る。
しかし部屋を出たところで突如身体がひどく熱を帯びた。足がガクガクと震えて…
「アル!?」
…この感じ、ヒートだ。でも、ヒートはとっくに終わっているはずなのに。
考えている間にもどんどん理性は薄くなっていき、アランの引き締まった腕に支えられて部屋に入る頃にはもう、甘い香に酩酊しきっていた。
そしてアランもまた、アルに付き添ってデネボラにきて、今日で1週間目。
国は驚くほどあっさりとΩへの差別を撤廃し、アランたちの開発した抑制剤を大量生産した。すでに1年ほどの治験を経て、人体に即物的な影響は与えないと証明されている。
今までの均衡が崩れることよりも、Ωの人、又はΩを家族に持つ人などによる大規模な反対運動を恐れたのだろう。
まだ問題は多くても、大きすぎる進歩だ。
ヨルは、事情を聞いて激怒したエレンに無事(?)回収された。組織員の大規模なヒートもおさまり、今は仕事を託して安静にしている。
そして。
デネボラの最上階では暇そうにあくびをしたヨルと、アルとアランが対峙していた。
部屋のソファでは興味なさそうにエレンが足をブラブラさせていた。明るいブラウンのふわふわな髪の毛に、ぴょこっと寝癖が立っていて可愛らしい。
「辞めるのか?」
ヨルに問いかけられ、アルは首を横に振った。ちらり、とアルが目配せをして、アランが口を開く。
「俺を、エレンさんの手伝いとして雇っていただけませんか?」
ここは隔離された空間。もし2人ともこの中での生活を許してもらえるなら、それは喜ばしいことだった。
それに、エレンの負担は組織員が増えるたびに増加していく。
「はぁー!?僕は役立たずな手伝いなんていらないし、新しい人と関わりを作るのも面倒臭い。」
「エレン、あの、お前最近忙しそうだし?それにクライアントにその口の聞き方h「うるさいヨルは黙ってて!」
…想像以上のひどい言い様に、アルだけでなくヨルまでもが頭を抱えた。反応からしてヨルは肯定側らしい。
「あの… 」
何か別の道を、とアランに告げようとした時には、隣から彼の姿が消えていた。
「エレンさん、お久しぶりです。」
ぴたり、とエレンの動きが止まった。しかし固まったのはエレンだけではない。
アルもまたぎょっとした。冷や汗が止まらない。なぜかというと、アランがエレンの前に立ち、今日は化粧もしていないのにウィッグもコンタクトも外してしまったからである。
「ア…アラン!お前、生きてたのか!?心配したじゃないかばかっ!というか名乗れ。お前を拒んだりしない。
なんだその格好、元の容姿を廃らせてどうする。」
数分間の沈黙の後、エレンの口からいつも通り憎まれ口が飛び出した。ただ…
「ヨルさん、状況が読み込めません… 」
「奇遇だな、アル。俺もだ。」
よくわからないままアルたちは彼ら2人が話しているのを傍聴する。しばらく聞いていると、エレンのいとこがアランの研究室で働いており、接点があったらしいことがわかった。
「ということはあの薬もアランが?よくやったな、お前。偉いよ。」
エレンがこんなに優しそうに人を褒めるのは初めて見た。ヨルも驚いている。アランも褒められて嬉しそうだった。
「というわけで、今日から手伝ってもらうから。
…あ、でもお前、αだよな?ここ、組織員はΩしかいないんだけど。」
エレンが気まずそうにヨルとアルの方を見た。そう、デネボラの内部にいればヒートのΩに出会う機会も少なくない。
でも、確か彼は抑制剤を含んでいると言っていた。
「ああ、抑制剤を服用しているので大丈夫です。」
「抑制剤って、あの、α用の?お前副作用を知っていて使っているのか?今すぐやめろ!」
「大丈夫です。俺、遺伝子操作の影響でもともと精子が作られない体質なんです。だから、薄くなるも何もありません。」
「作られないって、全く?」
「ええ、全く。」
「… 」
そこで2人(エレンとアラン)の会話は途切れた。
「…ところでアル、お前はあの人とどういう関係なんだ?」
こそっとヨルに耳打ちされて、アルも彼の耳元でこそっと返す。
「…俺の、運命の番です。」
「はぁーっ!!!???」
ヨルのその叫び声はデネボラ中に響き渡ったのではないかというほど大きかった。
そこからは言えよ水臭い!だとか任務中に俺に隠し事をするな!だとか拗ねた調子のヨルに散々言われた後、なんだかんだで2人用の部屋に移動させてもらうことになって。
「そういえばアランさんはここ数日どこへ?」
思い出したようにヨルがアランに問いかけた。
「ヴィクターさんの許可を頂いて、空き部屋に。食事はアルが作ってくれて…。」
「ああ、そういえば世話人さんたちがそんなことを言っていたような…
いやぁ、しかしなんというかめでたいなぁ。あの夜自殺しようとしていたお前が。
部屋替えはヴィクターとカイ達に手伝わせるか。仕事とかもろもろも、後で連絡する。」
「「ありがとうございます。」」
これからのことも決まってきて、アランともいることができて、なんて幸せなのだろうと一安心した。
そのままアランを連れて部屋を出る。
しかし部屋を出たところで突如身体がひどく熱を帯びた。足がガクガクと震えて…
「アル!?」
…この感じ、ヒートだ。でも、ヒートはとっくに終わっているはずなのに。
考えている間にもどんどん理性は薄くなっていき、アランの引き締まった腕に支えられて部屋に入る頃にはもう、甘い香に酩酊しきっていた。
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